「短歌の道しるべ(3)」
◎今月のワンポイント(6月)
*発想の良さと技術*
マンガ家の手塚治虫が、生前こんなことを言っていました。
「新人の作品を審査するときは、着想をみるんだ。テクニックは練習すれば、みにつくけれど、着想はその人のオリジナリティーだから、練習で身につくものじゃあまい。着想がよければ、技術はあとから何とでもなるからね。」
人それぞれ、生きてきた時代、出身地、毎日の暮らし、家族構成などが違います。その人でなければ体験できなかったこともあったことと思います。それを詠えたらどんなに素晴らしいでしょう。ハードルはいくつもあります。どうすればそれを乗り越えられるでしょうか。
北村太郎という詩人が「ぼくの現代詩入門」(大和書房)でこう書いています。
「なるべくたくさんの詩を読んで、書いてみることが一番だと思います。好きな詩だけでなくきらいなものも。ただし、一度読んで気に入らないと思ったものでもうっちゃらかしておかないでとっておく。あとになって良さがわかってくることもあるんです。」
俵万智さんは師の佐佐木幸綱氏の歌集に感動し、図書館へあししげく通って全てノートに丁寧に書き写したそうです。また馬場あき子氏は、学生時代に毎日、自分の作品を師の窪田章一郎の研究室まで持参して指導を受けたそうです。
☆佐藤佐太郎は「短歌作りの99パーセントは技術である」と言いましたが、佐太郎の言う「技術」とは、いわゆるテクニックのことだけではないように、私には思えます。どこにどう着目するか、どう切り込むかなどをすべて含んでいるということです。感性が鋭くなければ、芸術は成り立ちません。佐太郎には自明のことだったので言う必要がなかったのでしょう。☆
*近代の名歌(2)*
◎不来方(こずかた)のお城の草に寝転びて空に吸われし十五の心 石川啄木
◎しらしらと氷かがやき千鳥なく釧路の海の冬の月かな 石川啄木
◎手套(てぶくろ)を脱ぐ手ふと止む何やらむ心かすめし思ひ出のあり 石川啄木
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