岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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地下鉄の音の重積の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月10日 23時07分51秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・暗黒を犇めき迫る地下鉄の音の重積に圧されつつ佇(ま)つ
 「彩紅帖」所収。

 都市詠である。作者は離婚ののち自立すべく様々な仕事に従事した。「とにかく生活しなければならない」。女性の職域が極端に狭い1960年代から70年代までは、女性が働くのは様々な困難を伴っただろう。現代以上に。

 作者がボーボワールに傾倒したのもこの時期。「子育てをほっぱらかしてボーボワールの講演を聞きに行った」とは作者の弁。

 だから作者にとって「都市は重圧であった」のだろう。

 「暗黒を犇めき迫る」「音の重責」「圧される」の三段階にそれが表現されている。

 どこの地下鉄か、何所の駅か、車内かホームか。これは捨象されている。佐藤佐太郎の言う「表現の限定」だ。「重積の心理」が三段階に仮託されている。これが象徴だ。

 「象徴的技法を駆使した写実歌」(岡井隆)。この佐藤佐太郎の表現法を継承しながら、作者の独自性が明確に表れている。

 学ぶべきことの多い作品だ。





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