・夕光(ゆふかげ)の鋪道動きゆくわが影が壁に当たりていま立ちあがる
「春雪ふたたび」所収。
これも「NHK歌壇」で紹介された作品。
「夕光(ゆふかげ)」は「夕日」のことだが、結句の「いま立ちあがる」にいたく感動した覚えがある。「夕日のあたる鋪道におのが影が映り歩みを進めるにつれ、影が建物の壁に当たり鮮明になる」叙景歌だが、「この鋭さは何だ」と驚愕した。
以前、斎藤茂吉を「黒糖」、佐藤佐太郎を「グラニュー糖」に例えたことがあるが、尾崎左永子の独自性は「鋭さ」にある。緊張感のある一首だ。
どこの街か、どこの鋪道か、何の建物か、は全て「捨象」されている。「表現の限定」「言葉の削ぎ落し」。
また情景は薄暗い。悲しさ、寂しさ、孤独感を象徴しているようだ。歩くとき、したを見ながら歩くときは、たいてい「負の感情」を持っていると思うからだ。