「高校新学習指導要領・大学入学共通テストについての声明」
2019年5月10日
現代歌人協会理事長 大島史洋
日本歌人クラブ 三枝昂之
2022年度から施行される新「学習指導要領」と、2021年から実施される「大学共通テスト」は、高等学校の「国語」の教育を大きく変えようとしています。
これらの改革は、以下に述べるように、短歌をふくむ現代文学を軽視したものと言われてもしかたのない内容となっています。
1、新指導要領においては、主に1年生で履修することになっていた「国語総合」(標準で週に4時間)が、「現代の国語」(2時間)、「言語文化」(2時間)に分かれます。指導要領解説においては「現代の国語」では、話し合い意見発表、資料やデータの読み方、など実用的な言葉について学ぶことがうたわれています。「言語文化」は主に文学を扱いますが、「富むこと」の授業の中で、古典は40~45単位時間かけて扱うのに対して、近代以降の文章は20単位時間程度扱うこと、という配分が決められています。文学を扱う時間が週に2時間の「言語文化」に限定されるだけでなく、さらにこの時間の中の限られた一部を使って、明治以降の文学を学習することになるのです。伝統を受け継ぎ、今まさに豊かな様相を呈している短歌が授業で取り上げられることは、ますます難しくなると想定されます。
2、同じく新指導要領において、主に2年生、3年生で履修することになる選択科目でも、現代文学や古典を扱う科目は用意されていますが、3に述べる大学入試(国語では資料の読み取りなどが増える)に対応することを考え、実用的な言葉を扱う科目を選ぶ生徒が多数を占めると考えられます。
3、「大学入試共通テスト」の試行調査における「国語」問題では現代国語の問題として、著作権法や生徒会活動規約などの実用文の論理的解読が大問として出題されていますが、これはノウハウ的な能力偏重の教育を促すことになると懸念されます。
4、高校教育では、生徒たちが心の自由を保ち、想像力を養って社会人として生きる力を身につけることが大切であり、現代国語がその役割の大きな部分を担っています。文学だけの問題ではなく、近未来のこれからの社会において人々がよりよく生きるには、現代の文学に向き合う時間の中から、この「想像力」「生きる力」を培うことが重要です。
すでに、日本文藝家協会では、「高校・大学接続『国語』改革についての声明」を2019年1月24日に出して、この問題に取り組んでいくことを明言しています。現代歌人協会と日本歌人クラブでは、この国で最も伝統ある文芸である短歌というジャンルを担う独自の立場から、この問題に取り組んでいくことをここに表明いたします。
私たちは、古事記・日本書紀や万葉集以来の伝統の上に立って、新しい時代にふさわしい文学・文化を築き続けることを自分たちの役割と思っています。そのためには、短歌をふくむ近代文学・現代文学の基礎を高校時代に築くことが必須と考えます。
この問題は、歌人に限らず、また文芸家に限らず、広く日本語を使い、日本文化を土壌とする社会全体の問題と考えます。ぜひ多くの方々に賛同していただき、いっしょに良い方向を見出していきたいと切望します。
以上
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