「2012年版 現代万葉集」 自然の部
日本歌人クラブ編 NHK出版刊
1.草生なき広き砂地はゆうぐれて眩しきまでに泉が湧けり・
2.地を叩く雨の激しき夕暮にゆずらぬさまに向日葵が咲く・
3.やわらかく光放てる月のもと遠き木立の影が冷たし・
一首目。日光の光徳沼の情景。かなり以前の記憶に基づいて作品化した。「写生はその場で詠まなければならないので不自由だ」という与謝野晶子の論難に対して、斎藤茂吉が、「何時詠んでも構わない。例え何年も経っていたとしても。」と反論したのは広く知られている。そう20年も前の情景だ。
二首目。自宅近くの景。急な夕立の中に向日葵が立っていた。雨は激しいが、向日葵は凛と立っていた。「ゆずらぬさまに」というのは比喩だが、佐藤佐太郎の歌に「暮方にわが歩み来しかたはらに押し合ひざまに蓮しげりたり(歩道)」がある。「押し合ひざま」という表現が際立っているが、僕の一首はこれを踏まえている。
三首目。月下の景である。月が輝けば木々の影はなおさら際立つ。そこを詠んだ。同じく佐藤佐太郎に「階くだり来る人ありてひとところ踊場にさす月に顕る(地表)」がある。いわば「光と影」をモチーフにした一首だ。
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