「ブナの木通信」(「星座」69号より)
今号も粒揃いの作品が多かったと思います。まずは自己に向き合った作品に注目しました。
(黙って冷えを感じる歌)
他人と何かを話しているのでしょうか。異論をはさみたいが、それを静かに飲み込んでいる作者像が浮かび上がります。下の句が作者の心情を象徴する役割を果たしています。
(こころの空白を埋めようという歌)
心の空白。何か満たされないものがあるのでしょう。それを負いながら生きている作者です。二首とも作者の思いが的確に伝わって来ます。
次に時間を切りとった作品。
(鳥がたゆたい、デジタル時計で時間が測れないという感覚の歌)
無機質なデジタル時計。それで測れない時間ということは、作者は心満たされる思いで時を過ごしているのでしょうか。
(夫の遺影のある部屋で『ただいま』と声を出す歌)
(事故死した青年の部屋の埃の歌)
亡き人に捧げる歌ですが、表現に工夫が見られます。二首とも特徴ある部屋を設定しているところが効いています。
(かの人と過ごした日々を思い出す歌)
かの人、が誰かは分かりません。しかし、その分読者の想像をかき立てるところがあります。
(桜島に灰の降る歌)
(冬支度する村の歌)
地方色をよくとらえた作品です。
(子どもがトウモロコシを食べる歌)
(裏町の屋台の歌)
・「ブナの木通信」はここまで。最後の二首を、ブログ上で批評します。
まず一首目。孫を詠った作品ですが、その様子を独特の比喩で表現しているところが、成功しています。
次に二首目。「裏町の屋台」というのは、やや俗ですが、下の句に、人間の孤独感が表現されています。