2008年04月18日08時01分
東京―名古屋間を40~50分で結ぶ「夢の超特急」構想に、沿線の自治体が揺れている。17年後の開業に向けて、中央リニア新幹線に自ら巨費を投じる
JR東海が打ち出したのは、南アルプスをトンネルで貫く直線ルート。誘致のあてが外れた地元とJRは、どう折り合いをつけるのか。
![図](http://www.asahi.com/national/update/0418/images/NGY200804180006.jpg) |
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![写真](http://www.asahi.com/national/update/0418/images/NGY200804180005.jpg) |
南アルプスの地盤の調査のため、JR東海は水平ボーリング調査を実施。県道脇の斜面に削孔機でボーリング調査用の穴を開けた=山梨県早川町新倉、北林慎也撮影 |
南アルプスのふもと、山梨県早川町と長野県大鹿村。今、この二つの町村で、水平掘削による地質調査が進んでいる。中央リニア新幹線の建設のためJR東海
が「トンネルでぶち抜く」(葛西敬之会長)と表明し、南アルプス直下の20キロを両端から3キロずつ掘り、トンネルの建設が可能か調べているのだ。
ようやく動き出したリニア新幹線構想だが、沿線の長野県側の反応はつれない。「地方自治体の協力もきちんと得られるような対応をするべきだ」。村井仁・長野県知事は、大鹿村で調査が始まった3月19日、JRを批判した。
長野側がJRの構想を快く思わない理由は、路線誘致を巡る沿線市町村の思惑だ。
JRの松本正之社長は、昨年末の記者会見で、首都圏―中京圏間をほぼ直線の290キロの路線で結ぶ意向を示した。山岳地帯は長距離のトンネルを通し、全ルートの約8割が地下を通る計画だ。
この構想だと、長野県内を通過するのは、南部の飯田市近辺のみ。中央部の諏訪湖周辺への誘致も要望してきた地元のあては外れた。山田勝文・諏訪市長は「東海道新幹線を見ると駅の有無によって発展が違う。路線が無ければ駅さえできない」と困惑する。
地元の要望を知りながら、JRが直線ルートにこだわるのは「経済合理性」(松本社長)からだ。中央新幹線構想はもともと、新幹線をつくる
根拠となる全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づき、73年に東京―大阪を結ぶ基本計画が決定されたが、いまだに北海道、北陸などの整備路線より優先順位
が低い計画路線にとどまる。
2兆円以上とされる整備路線の未着工区間の財源でさえ、手当てのメドは全くついていない。「中央新幹線も国の財源に依存するとずっと後
になってしまう」(松本社長)。そこでJRは「全額自己負担」の5.1兆円を投じ、山梨実験線で走行試験を重ねるリニアモーターカーを走らせる戦略に打っ
て出た。
多額の国費負担などを財源とする整備新幹線と一線を画し、「初の民間資本による新幹線建設」という位置づけだ。直線とトンネルで結べ
ば、東海道新幹線より約50キロ短い290キロで済み、建設費や用地取得費も軽くなる。東海道新幹線で約1時間40分かかる東京―名古屋間を40~50分
で結べるのも、大きな魅力だ。
だが、全幹法に基づき、営業や建設主体、整備計画への格上げを決めるのは、あくまで国だ。国交省は「建設指示が出れば、県は土地収用に
協力しなければならない。県が納得することが、計画を認める条件ともいえる」(鉄道局幹部)。工事計画は交通政策審議会の同意が必要だが、地元との調整が
うまくいくまでは、同意できないこともあるとJR側を牽制(けんせい)する。
「新幹線の建設は、沿線地域の活性化なしにありえない」(地元自治体幹部)。地元の合意をどう取り付けるのか。当面は「民間新幹線」実現に向けた最大の関門として立ちはだかりそうだ。(福田直之、大平要)
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〈中央新幹線構想〉 東京と大阪を結ぶ新幹線の計画路線で、東京―名古屋間の25年先行開業を目指す。73年に全国新幹線鉄道整備法に基
づく基本計画に策定された。建設後40年以上たつ「ドル箱」路線の東海道新幹線の輸送力が限界に達し、同線のバイパスとしての性格を持つ。リニアモーター
カー方式による建設が予定されている。
JR東海によると、路線建設費と車両費の計5.1兆円のうち、3兆円は毎年の営業収支から賄う計画。JRの長期債務は25年度のピーク
時で4.9兆円。07年9月中間期末現在の3.5兆円より40%増だが、32年度には現在の水準に戻るという。途中駅の建設は地元に負担を求める。
開業初年度の同社の単体売上高は、08年3月期決算見通し(07年9月中間期時点)の1兆2410億円の5%増を予測。開業後10年で
10%増を見込む。だが「少子高齢化が進む中、25年まで現在の需要水準が続く保証はない」(証券系アナリスト)と予測を疑問視する見方もある。
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