日常

滋賀の旅 佐川美術館 樂焼

2016-10-06 10:32:03 | 芸術
突然はじまった旅シリーズもこれで終わり。遅い夏期休暇をもらい、岐阜、京都、滋賀、三重など国内旅行をしていた。
旅の締めくくりは滋賀の佐川美術館京都の樂美術館

美濃の旅(2016-10-02)
洲原神社 彼岸花(曼珠沙華)(2016-10-04)
中津川の旅(2016-10-03)
京都の旅 河井寬次郎記念館(2016-10-05)


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樂吉左衞門さん(樂焼 十五代目)の作品を見に行くために滋賀の佐川美術館に行った。
京都と滋賀は20分くらいですぐに行ける。
その後は京都の樂美術館にも伺い、樂家の作品の歴史と合わせて見に行ったのだった。



滋賀の佐川美術館は琵琶湖のほとりにあり、水と光と石を基調とした素晴らしい美術館。

佐川美術館には日本画家・平山郁夫さん、彫刻家・佐藤忠良さん、十五代樂吉左衞門さんの陶芸(樂茶碗)を展示した樂吉左衞門館の3つから構成されている。
樂吉左衞門館がオープンした直後に茶室を見に行き、全身の細胞で大きな感動を得たことを昨日のことのように覚えていた。その感覚を思い出すために、再度伺うことにした。


今回は十五代樂吉左衞門さんの陶芸がメインで滋賀まで出向いたのだが、彫刻家・佐藤忠良さんで新しい発見があった。
佐藤忠良さんの彫刻は素晴らしく、あらゆる公共施設で見ることができる。NHKでも何度も特集も見た。
すごい彫刻家の顔しか知らなかったのだが、今回の旅で極めて文章が上手な方である、ということを知った。そして絵も素晴らしいのだ。
絵本「おおきなかぶ」(ロシア民話、トルストイ)の挿絵を手がけていることも初めて知った。




佐藤忠良さんが、美術の教科書「少年の美術」(現代美術社 1984年)に寄せた一文が素晴らしかった。思わずメモした。

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美術を学ぶ人へ  佐藤忠良


美術を学ぶ前に、私が日頃思っていることを、みなさんにお話しします。
というのは、みなさんは、自分のすることの意味ーなぜ美術を学ぶのかという意味を、きっと知りたがっているだろうと思うからです。

私が考えてほしいというのは、科学と芸術の違いと、その関係についてです。

みなさんは、すでにいろいろなことを知っているでしょうし、またこれからも学ぶでしょう。
それらの知識は、おおむね科学と呼ばれるものです。科学というのは、だれもがそうだと認められるものです。

科学は、理科と数学のように自然科学と呼ばれるものだけではありません。歴史や地理のように社会科学と呼ばれるものもあります。
これらの科学をもとに発達した科学技術が、私たちの日常生活の環境を変えていきます。

ただ、私たちの生活は、事実を知るだけでは成り立ちません。
好きだとかきらいだとか、美しいとかみにくいとか、ものにたいして感ずる心があります。
これは、だれもが同じに感ずるものではありません。

しかし、こういった感ずる心は、人間が生きているのにとても大切なものです。
だれもが認める知識と同じに、どうしても必要なものです。

詩や音楽や美術や演劇、芸術はこうした心が生み出したものだといえましょう。
この芸術というものは、科学技術と違って環境を変えることはできないものです。

しかし、その環境に対する心を変えることはできるのです。
詩や絵に感動した心は、環境にふりまわされるのではなく、自主的に環境に対面できるようになるのです。

ものを変えることのできないものなど、役に立たないむだなむだなものだと思っている人もいるでしょう。

ところが、この直接役に立たないものが、心のビタミンのようなもので、しらずしらずのうちに、私たちの心のなかで蓄積されて、感ずる心を育てるのです。  
人間が生きるためには知ることが大切です。同じように、感ずることが大事です。

私は、みなさんの一人一人に、ほんとうの喜び、悲しみ、怒りがどんなものなのかわかる人間になってもらいたいのです。


美術をしんけんに学んでください。
しんけんに学ばないと、感ずる心は育たないのです。
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美や芸術は、外界を操作したり変えたりするものではなく、自分自身を変容させ、どういう環境でも強く朗らかに生きていく土壌を育てるものだ。
これほど的確で簡潔に美術を学ぶ意義を表現した文章に初めて出会い、感動した。



十五代樂吉左衞門さんの作品からも同じようなものを感じる。
だからこそ、時代を超えて今でも日日新新と、陶芸の宇宙を更新し続けている方なのだ。



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佐川美術館では、世界中でここしかない茶室が事前予約で見学できる。吉左衞門さんが設計された。
水の下に入った茶室。
水や植物と同平面にある茶室。
体を動かしながら茶室や自然と一体化していくプロセスは感動だった。

地球の溶岩を思わせるようなアフリカの荒々しい石を使っていたところが普通の茶室と違う。
地球の歴史が露出しているかのような空間。
石の起伏は地球のミニチュアを見ているようなエネルギーが噴出していて、人類が生まれたアフリカ大陸の力と、日本の美である茶室の静謐な空間とが調和している。

光と影が何重にも織りなされた空間づくりに圧倒された。
水や石も、自然の根源を体感するコンポーネントとして存在していた。

この茶室は、体験しないと絶対に分からない。
茶室を体感するためだけでも行く価値がある素晴らしい場所だと思う。ぜひ事前予約をして体感してほしい。









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京都の樂美術館では偶然にも吉左衞門さんがおられて、色々とお話を伺える機会に恵まれた。感動だった。

江戸時代にタイムスリップしたかのように、まるで昨日のことのように本阿弥光悦や千利休を語られる。
当時の息吹きが感じられる話は能楽のように時間が溶けていくようだった。自分の意識や身体もとろける時の中に溶解するようだった。


来年は、初代の長次郎さんから十五代目の樂吉左衞門さんまで、すべての名品が勢ぞろいになった大規模な展示が京都と東京で催されるようで、今から楽しみでならない。







茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術 @京都国立近代美術館
2016年12月17日(土)~2017年 2月12日(日)

16世紀後半、樂家の祖長次郎によって始められ、日本の陶芸の中でも他に類例を見ない独特の美的世界を作り上げてきた樂焼。
以来450年間にわたり、常に茶の湯との強い結びつきの中で焼き継がれ、日本陶芸史における重要な役割を果たしてきました。
その一子相伝により継承されてきた樂焼の歴代作品に17世紀初頭の芸術家・本阿弥光悦等の作品を含め、樂焼の美的精神世界を通観し、その極めて日本的な深い精神文化を紹介します。


樂 歴代展(仮称)@東京国立近代美術館
Successive Generations of Raku (tentative title)
2017年3月14日[火]-5月21日[日]



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樂吉左衞門さんは、伝統に甘んじることなく常に前衛に挑まれていて、本当に尊敬している。偉大な方。
文章も素晴らしい。作品につけられた名前も、詩や散文を読んでいるように生きているように美しい言葉を選ばれている。

日常の自然を、高い解像度で観察し、そこにある美を陶芸にするという離れ業を、質を深めながら作り続けている稀有な方。

黒(black Raku)と赤(Red Raku)に、こんなにも無限の広がりがあるものかと、見ていてドキドキした。生で見ると、その触感が視覚からも強く感じられる。



京都の樂美術館では、特別企画<手にふれる美術館>として、実際に作品を手に取って鑑賞できる企画も行っていて、本当に素晴らしいと思う。そう簡単にできるものではない。陶芸や鑑賞者への深い信頼と絆があるからこそできると思う。


陶芸や器も、知識ではなく体験の世界だ。
からだ全身をつかって、こころ全体をつかって体験するもの。



樂吉左衞門さんが「三代道入・ノンコウ 図録」に書かれれている文章が素晴らしい。
三代道入は、41歳年上の本阿弥光悦から多くのものを受け取っていたが、それは形を真似するという表面的なものではなく、深い魂をこそ受け取り継承した。その息吹きを感じさせてくれる素晴らしい文章だ。
質には質を持って答える姿勢を、陶芸だけではなく言葉からも感じた。




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樂吉左衞門
「三代道入・ノンコウ 図録」より

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制約とは己が引き受けるべき立場、つまり自己にかせられた固有の歴史である。
その制約を引き受けつつそれをどのように生きるか、そこにこそ自由があり、また人生の喜びと意味があるはずである。
言葉を替えてとらえれば、重要なのはいかに固有な制約を自己のものとして引き寄せて生きるかと言うことこそ大切であると言える。

そこに於いて再度道入茶碗を眺める時、驚くべきことには、あれほど光悦に深い影響を受けたにも関わらず、、道入茶碗に見られる光悦の影響は少なくとも具体的な作行きの特色としては見えてこないことである。つまり光悦茶碗の作行きとの類似性、あるいは模倣性はみじんも感じられないのである。
むしろそこに感じられるのは長次郎以来の樂茶碗の伝統の流れであり、それを見据えた道入の真摯な作陶態度である。

光悦茶碗を模倣しようすることは容易い。
しかし今日我々が道入茶碗を信ずるにあたいするものとして我が心におとしているのは、道入が光悦茶碗に影響を受けたのではなく、光悦の起風にふれ、その創造精神にこそ深い影響を受けたことであり、さらにその上に立って己を見据え、己の制約をひたすらに生き抜いた道入の創造的な姿である。おそらく光悦はそうした道入を心から慈しんだであろう。
そこには四十一歳の開きを超えてしっかりと向き合っている二人の人格を鮮烈なまでに感じることができるのである。

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佐川美術館

佐川美術館
〒524-0102 滋賀県守山市水保町北川2891
開館時間:9時30分~17時 (最終入館は16時30分迄)
休館日:毎週月曜日(祝日に当たる場合はその翌日)

→○茶室見学のご案内


樂美術館
樂美術館
602-0923 京都市上京区油小路通一条下る
開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日:月曜日(祝日は開館)

→○樂美術館特別企画