観測にまつわる問題

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風疹と予防接種と疫学

2018-12-07 21:59:49 | 厚生労働
注射器の無料イラスト(来夢来人

先天性風疹症候群とは(厚生労働省-戸山研究庁舎)によれば、「風疹の流行年とCRSの発生の多い年度は完全に一致している。また、この流行年に一致して、かつては風疹感染を危惧した人工流産例も多く見られた。 」・・・つまり結局、先天性心疾患、難聴、白内障をもたらす重大性から、風疹のワクチン接種の第一の目的は先天性風疹症候群の予防なのだそうです。ただし、予防接種による先天性風疹症候群が発生する可能性を原理的に否定できないことから、妊娠中の女性は予防接種できません。

風疹は潜伏期間が2~3週間あり、ワクチン接種が当初女性に限られていたため、日本では成人男性中心に流行があるようです。当然うつる病気です。一方、職場における風しん対策(厚生労働省-戸山研究庁舎)によると、「国際的に風しんは、完全排除が目標とされる疾患であり、南北アメリカ大陸では2015(平成27)年に完全排除を達成している。」とのこと。そういう訳で、アメリカ疾病対策センターは予防接種を受けていない妊婦に対して日本への渡航自粛を呼びかけているようです。

こうした結果になる理由として、日本の予防接種制度は先進国中、最低レベルとの指摘もあるようです(日本vs世界のワクチン事情 Know VPD!)。アメリカでは生後2ヶ月の未熟児でも1日に6本の予防接種を受けて問題が無いのに、日本では1本づつやって無駄にハードルが上がっているとか。予防接種を6回に分けて一々やっていたら、赤ちゃんが幼児になってしまいます。石橋を叩き過ぎなんじゃないでしょうか。

副作用の懸念も、副作用とされる症状は概ね別の原因があることが多いようです。副作用は全くのゼロではありませんが、副作用を過剰に恐れて危険な病気を広めるかのような日本の姿勢は問題なのかもしれません。所謂ゼロリスク志向がより大きな問題を発生させているのでしょう。

伝染病は自分だけの問題ではありません。ただ、副作用は自分に発生します。自分だけを考えると、あるいは予防接種は面倒なだけかもしれませんし、医者も副作用どうしてくれる!(因果関係は立証できないでしょうが、否定も難しい)というクレームが面倒なのかもしれません。

筆者も予防接種と聞くと、①面倒。②大丈夫だろ。③副作用がな。・・・の3点セットを思い浮かべる消極派なんですが、科学的な根拠に基づく政策の必要性と言われると、理解できるところはあって、これから考えないといけないかなとは思っています。

なお、以前ツイートしましたが、疫学はアメリカが先進的だという指摘があるようです(疫学のオススメ洋書臨床疫学のオススメ本(共に「NEW NURSING」個人ブログ))。疫学・統計学(入門編)(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・衛生)も参照しましたが、洋書が入門書というのは文系では考えにくいところであり、わざわざ英語で勉強しなくてはならないのですから、やはりアメリカが進んでいるんだろうと思います。

米国の疫学と予防接種制度について(国立感染症研究所 疫学センター主任研究官 神谷元)」によると、21世紀の医療は治療中心の医学から予防中心の医学への転換の時代と言われており、アメリカでは疫学が予防接種政策に密接に関与しています。進んでいる疫学が関与している予防接種制度も、恐らく進んでいるのであって、予防中心の医学を学び制度に反映していくことによって、少子高齢化で負担が増すと見られている医療コストを下げ、突然の人的損失を防ぐことができるのかもしれません。

製糖技術の起源に関する歴史とインドの東南アジアに対する文化的影響

2018-12-07 19:37:40 | 世界史地理観光
特集1 砂糖(4)(農林水産省)

砂糖の歴史(インドから西方へ)((独)農畜産業振興機構(ALIC))によると、「ニューギニアを発祥の地とするサトウキビは、何千年も前からアジアの熱帯地方の多くの人々の間で、サトウキビの皮をはぎ、茎を噛んで甘い汁を飲んでいたようです。」

砂糖が世界史に登場するのは、紀元前4世紀のアレクサンダー大王のインドに至る遠征時の記録で、「インドには、蜂の力を借りずに葦からとれる蜜がある。」「噛むと甘い葦・噛むと甘い石がある。」等々の記述があるそうです(検索しましたが、元々の出典は良く分かりません)。どうも古代インド北部で製糖という技術革新が起こったとされるようです。

インドアーリア人は前10世紀頃にガンジス川に進出、十六大国の興亡の時代を経て、前4世紀末にマガダ国マウリヤ朝が統一国家を形成しました。

十六大国のひとつアンガ国(ウィキペディア「アンガ国」(2018/12/7)参照)の首都はチャンパー(ベトナム中部の古代王国チャンパの語源とされる)(仏典「ディーガ・ニカーヤ」によると当時の六大都市で商業や交易が盛んだったようです)。マハーバーラタによるとアンガ国はベンガル地方で栄えたそうです。

この時代、ガンジス川からベンガル湾を通じて、東南アジアとの交易があったとも推測でき、これが後の貨幣の発行で知られるナンダ朝マガダ国のビルマやセイロンとの交易に繋がったとも考えられます(マガダ国 世界史の窓)。南伝仏教やイスラム教等でも分かるように、元々ベトナム北部を除く東南アジアの文化は北方の中国よりインドを始めとした西方からの影響が格段に強い訳ですが(フィリピン独自の文字もインド系で漢字は関係ありません)(流れが変わるのは遥か後代、明清の人口爆発で移民が増えてからだと思います)、その嚆矢はガンジス川流域のインドアーリア人の王国(ベンガルあたりが特に怪しい)にあるのかもしれません。系統関係が証明されないオーストロアジア語族の(インド東部及びバングラデシュの)ムンダ語派とモン・クメール語派・ベト・ムオン語派を除き、インドと東南アジア諸国の言語学における現存の系統関係は見つからないのですが、世界史をキチンと勉強していれば、文化の伝播を民族の移動と解する必要は全くないことは理解できると思います(日本史において文化の伝播を民族の移動に過剰に結びつける議論が罷り通っているように見え、残念に思っています)。いずれにせよ、古代インド北部に製糖技術があったことは間違いありません。

インドの東南アジアに対する文化的影響が難しい理由のひとつに、インドが現在ヒンドゥー教が多数派の国であって、東南アジアにヒンドゥー教国がないことが挙げられるのでしょう。インドにおいては仏教もヒンドゥー教の一部だと位置づけられているようであり、上座部仏教や南伝の大乗仏教とヒンドゥー教の関係も興味深い(例えば何故セイロンという南方の島から上座部仏教が伝わったとされるのかピンと来ません)ところですが、それはまたいずれ調べるとして、ヒンドゥー教と仏教との関係(アジア見聞録)は日本人一般が思っているより、関係が深いようです。北伝の大乗仏教も勿論インド起源なのですが、上座部仏教に比べたら、中国を経由することでインド要素は明らかに薄れていると考えられます。例えば、インド神話に登場するガルーダはタイ王国国章・タイ王国国章・ウランバートル(モンゴルの首都)の紋章になっているようです。ちなみにモンゴルは中国から仏教を学んだ訳ではなく、チベット仏教から仏教を学んだのであって、チベット仏教は概ねインドから直接学んでいるようです(チベット文字もインド系です)。現代のイメージで歴史を見ることが必ずしも正しいと限りません(文字の観点で見れば、中国(漢民族)から派生した(少数民族を除く)文化は、(ハングルを含まず漢文主体だった)朝鮮・日本・ベトナム(主に北部)の3つに限られ、満州すら含まれないようです(ですからステップルートから満州にかけての中国以北の歴史と涼州とも呼ばれた甘粛省以西の歴史及びチベットの歴史も中国からの影響が一般的なイメージより小さいのではないかと疑ってかかる必要があり、西方からの影響をより重視すべきです)。また、琉球は中国(漢民族)からの直接の派生ではなく、言語系統・平仮名を使用した文字の観点から日本から直接派生しており、中国直系でも日中中間でも全くありません。が、戦争に負け支配されると文化の系統も何も無くなってしまうことがあるのは、中国においてのチベット・ウイグル・モンゴルの扱いを見て分かる通りです)。

三跪九叩頭でも分かるように華夷秩序とは明確に国の上下関係を決める秩序でもあって、近隣諸国では日本がもっとも中国の支配から比較的自由に発展したのであって(例えば江戸幕府は中国の使者に三跪九叩頭したりはしません)、そのことが明治維新や日清戦争での勝利に繋がっていくと思いますが、この三跪九叩頭した歴史を持つ国・地域が、客観的に見て中国に心を折られたか変に中国よりの歴史観を持っているように見え、注意が必要だと思います。

話を砂糖に戻すと、何故か沖縄県の解説(サトウキビ 沖縄県)では、パプアニューギニア→インドネシア→中国→琉球のルートで伝わったと書かれており、製糖法で中国人の名前のみ記載されていますが、本質的には製糖技術は古代インドと推定されますし、当然インドからペルシャ・エジプト・地中海世界へと伝播していますから(先に記述したALICの砂糖の歴史による)、そういう記述は誤解を招くものだと考えます。

砂糖に限らず、沖縄県は中国史観にドップリ浸かり過ぎており、中国発祥でないものが過剰に中国発祥だと示唆するかのような記述が多く(例えばサツマイモは南米発祥なのに中国が強調されます)、注意が必要だと思っています。世界史的観点から見れば、中国から入ったかどうかはローカルな視点に過ぎず、何処で重要な技術革新が起こったかに注目すべきでしょう。沖縄県の歴史の記述が日本史の視点で技術・物産が何処から来たかだけ書かれていれば、特には問題がないでしょうが、例えばニューギニアから始めてインドを軽く扱い中国を強調するのが、世界史に自ら言及しながら世界史的観点を踏まえていないということに他ならず、不味いというか中国よりに偏向している訳です。当時の沖縄九州から見て中国発祥に見えそのように伝えたとしても、現代から振り返ってみてどう見ても中国発祥ではないならば、キチンと訂正しておく必要があるんだろうと思います。

もっとおいしく安心して使うための砂糖の基礎知識(農林水産省)でも「さとうきびは紀元前のインドで使われ」と書かれており、原産地も中国にも触れられていませんが、そもそも直接噛んでいたさとうきびから、砂糖をつくるというイノベーションが重要だという訳なんだろうと思いますし、さすがに客観的だと思います。

沖縄・鹿児島のサトウキビ農業と今後の方向性

2018-12-07 18:22:05 | 農林水産
農林水産省「もっとおいしく安心して使うための砂糖の基礎知識」より

沖縄・鹿児島のサトウキビ農業と今後の方向性について考察します。筆者が当地の新聞をこれまで見てきた中では、サトウキビ農業は大切にされてきたようです。今後の発展が望まれる訳ですが、砂糖が悪者にされがちな昨今、また収穫量が減少傾向にある昨今((10)さとうきび 農林水産省 ※2011年までのデータ)、本気で振興するのであれば、一から見直し新しい戦略を練る必要があるというのが、筆者の考えです。

もっとおいしく安心して使うための砂糖の基礎知識(農林水産省)によれば、日本で消費される砂糖の内、国内産は4割であり、その内8割が北海道のてん采由来で、2割が沖縄鹿児島のさとうきびになります。

五訂増補日本食品標準成分表 第3章 資料-1-3(文部科学省)を参照すると、(日本でよく使われる)上白糖や(世界でよく使われる)グラニュー糖でさとうきび・てん菜の区別がありません。てん菜上白糖もあるようですが、精製したら同じだと考えて良いのでしょう。

それを踏まえて、国内産の砂糖が8割てん菜なのであれば、上白糖やグラニュー糖の原料としては、てん菜の方が競争力があるとも考えられます。だとすればつまり、沖縄や鹿児島のさとうきびは、未精製の砂糖に力点を置いた方が良いのではないでしょうか。

【血糖値も安定】体にいい砂糖のおすすめ人気ランキング10選(mybest 料理研究家 スマイリー)は、体に良い砂糖とは栄養分が残された完全に精製されていない砂糖だとしています。癖がない甘さなら精製された砂糖なのでしょうが、不純物を取り除くのも良し悪しだと思います。

栄養価が非常に高いのが黒糖ですが、独特の癖もありますし、沖縄や鹿児島としては、あわせてより癖が少ないきび砂糖もプッシュすべきかもしれません。てん菜糖よりミネラル分は多いようであり、ミネラル分は精製された白米を食べる日本人には不足しているようで、健康にはきび砂糖や黒糖が良いのかもしれません。白い砂糖でてん菜と勝負できないなら、茶色の砂糖を如何に推すかです。補助金依存の農業を幾ら大事にしたところで、ジリ貧になることは否めないと思います。沖縄に必要なのは強い産業だと考えます。

黒糖の消費拡大PR 生産量、2期連続9千㌧超(八重山日報 11日 5月 2018)

元々(沖縄)県含みつ糖対策協議会が5月10日を黒糖の日としてアピールしたように、沖縄で黒糖重視の流れはあるんだろうと思います。もっともそうしたニュースを見た時は筆者もよく分かっていませんでしたが、これまでの黒糖重視は良いとして、+αで未精製という一点に絞ってきび砂糖もプッシュすると面白いと思います。より癖はなく受け入れられやすそうですし、ライバルてん菜から精製できないという意味では黒糖に並ぶ訳で、選択肢は増やしておくことに越したことはないんじゃないでしょうか。

まぁ、前述のテレビでひっぱりだこだという料理研究家スマイリー(フードソムリエ 料理家一覧)さんによると、完全に精製していない茶色のてん菜糖もオリゴ糖が含まれており、それはそれで良いものであるようです。フランス料理でよく使われるのだとか。スマイリーさんはフランス料理でキャリアを積んでいるようですが、沖縄の物産をアピールするのに影響力のある料理人に忌憚のない意見を聞き、使ってもらうのもひとつの方法なのかもしれません。沖縄の場合は観光でファンになってもらうという手もありますが。

なお、黒糖ですが乳児ボツリヌス症との関連性を指摘されており(例えばウィキペディア「黒砂糖」2018/12/7)、これは風評被害を生んでいると考えて良いようです(徹底調査!乳児は絶対NGな「ボツリヌス菌」。ハチミツ以外の危険食品の真偽とは?! くらトピ)。何でもライターの方が沖縄県黒砂糖工業会に聞いたところによると「沖縄黒糖にボツリヌス菌の混入例は聞いたことがなく」「濃縮の過程でかなりの高温(120度以上)での仕上工程があり、その過程でボツリヌス菌などの耐熱細菌も全て死滅するほか毒素は失活致します」だそうです。

なお先に紹介した「もっとおいしく安心して使うための砂糖の基礎知識」において、虫歯予防に関しては、長時間食べかすを残さないことの重要性が指摘されており、糖尿病に関しては、世界では英名「diabetes mellitus」中国名「消渇」のように糖という言葉は使われておらず、過剰に砂糖がイメージが悪くなっていると示唆されているようです(食べ物では炭水化物も原因)。

健康に関心がある人が増えている昨今、調べたら事実が出てくることを防ぐ方法は無いと思いますが、シッカリ調査して風評被害を生む誤説に関しては、訂正を求めていくことも重要なんだろうと思います。後手に回らず、食と健康に関する科学的根拠を自分達自身で調べて事前に計算して方針をたてる農政が求められているのかもしれません。