子どもは親のそばにいて、どんな気配を感じているのか。
そのことと、子どもが「自分を生きる」ことは
どうつながっているのか。
わたしが考えているのは、「障害児」の話ではなく、
ただの子どもの話です。
以下は、野田正彰さんの『喪の途上にて』からの引用です。
1985年の日航機墜落事故の遺族のことについて書かれた本です。
□ □ □
Mさん。8歳と4歳の男の子がいた。
彼女は現地で夫の胴体の部分遺体を見付け、
帰って葬儀を終えた後、毎週藤岡市に通って、
ついに頭部遺体を探し出した人である。
この間、「しっかりしなきゃ、子供の前で泣いたら駄目だ」
と気が張りつめていた。
しかし夜になって、子供が寝静まると、
仏壇の前でウイスキーを飲みながら、
夫に恨み言を言うのだった。
「なぜ私を残して先に行ったのか」と。
ボトルを一本空けてしまったこともあった。
半年ほど、そんな日夜が続いて、
いつものように飲み過ぎて、夜中に吐いていた。
彼女はふと、人の気配を感じた。
「お母さん、だいじょうぶ」
上の息子が、心配して立っている。
それから彼女は酒を飲むのを止めた、という。
◆
『…8歳と4歳。
お父さんのこと、どう説明していいか分からない。
お父さんがいないことを子供たちがどう受け止めているか、
それも不安だった。
事実を子供に話すのは、主人が哀れに思えた。
当初は状況も何も言わず、子供にお父さんを忘れさせては
いけないと思っていた。
それで、お父さんの良かった面ばかり強調して話した。
「パパは頑張っていたでしょ」とか、
「よく遊んでくれたでしょ」とか。
現地に往ったり来たりで、私は落ち着かない。
あの子(長男)はその理由すら分からない。
その上、お父さんのいいことばかり云われたものだから、
どうすればよいのか混乱していたのだと思う。
ある日、担任の先生から注意された。
「彼を思いきり泣かせてあげたら。
カラ元気を出して、良い子ぶっているのが気になります」
そう言われて、これまで一緒に泣いたこともなかったのに気付いた。
もう隠すのは止めよう、このまま隠し通せるものでもないと思った。
49日の少し前、主人の写真の前で話をした。
「お父さんは全部見つかっていない。
連れて帰れるのは、お母さんしかいない。
今はお父さんを連れて帰るのに精一杯で、
二人の面倒はみれないけど、お兄ちゃんはお父さんとの
付き合いが長い分だけ、弟のことをみてやってね」
息子は、「わかった」と頷いた。
「僕、寂しいけどお留守番している。
お母さん、お父さん、連れて帰ってね」、と言ってくれた。
これからは、彼が群馬へ行きたいと思えば連れて行ってあげると
約束して、初めてふたりで泣いた。
それから、合同荼毘や現地の慰霊祭がある都度、
説明して、彼が行くといえば連れていった。
…無理に良いお父さんの思い出を残そうとしないで、
子供が接したままのお父さんが残っていれば…、
と思えるようになった。
しかし、その後も「お父さんがいないから、
こんな子になったと言われたら、どうするの」と、
口に出さなくても、そんな叱り方をしていたよう。
ある日、息子が、
「お母さんは僕にばかり怒る、弟には甘い」と不満を言った。
「お母さん、ひとりでやってきてすごくしんどかった、
あなたに相談しようと思っても、
まだそんな齢ではないと思っていた。
イライラして、お兄ちゃんに当たったところもあるかもわからない。
でも、これからはもっと相談するわ」と謝った。
すると、ちょっと黙って、彼は聞いてきた。
「お父さん死んで、どう思う」
「お母さんはくやしい。
腹が立つ。本当にくやしくって、張りさけそう」と答えた。
息子も、
「くやしい。お父さんがいなくなって嫌だ」、と泣いた。
それが息子の本心なんだろうけど、
幼いなりにこれまで私に遠慮していたに違いない。』
□ □ □
今日、毎日新聞の連載記事、
《殺さないで:児童虐待防止法10年》をよみました。
その記事のことばのひとつひとつを読みながら、
私が思っているのは、
「子どもが感じていただろう気配」の感覚でした。
(連載記事は長いので、《ワニなつノート2》に置きました。)
(この項 つづく)
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