勝手にカルタ「解説」…(1)
《き》『傷つくことも大事なものがたり』
《か》『かわいい子には ふつう学級を旅させよ』
《わ》『分からない授業はかわいそう?』
工藤さんの詩に続いて、別の視点からの勝手にカルタ「解説」を紹介します。
『顔とトラウマ』という本から、石井政之さんの文章です。
◇
《アザをもつ子の母の悩みに答える》
【お母さんからの手紙】
(3歳11か月男の子) 息子は、顔にアザ(単純性血管腫)があり、1歳のころから今までにレーザー治療を3回受けました。
いずれも一泊二日の入院で、全身麻酔をしての治療です。
回を重ねるごとに、アザの色は薄くなってきました。……
(アザをもって大人になった人に聞いてみたいこと)
何が心の支えになりましたか?
親をうらんでいますか?
どんなふうに接してほしいですか?
まだ4歳そこそこなので、これからどうしてやったらいいかわかりません。
フツーにしていればいいの?
…… (匿名希望28歳)
◇
・・・アザの治療は、子どもがものごころつかないうちから始めたほうがいいでしょうか。
【石井】
子どもがまだことばを覚えていない幼い場合、「アザを消したい」というのは、本人の希望というより、親の希望であることが多いです。この時期から親が治療を決めるとすれば、それは親のための治療です。
「子どもの意思に基づいた治療」ではない。
そのことはまず認めたうえで、治療のことを考えてほしいと思います。
・・・「子どもが小さいうちのほうがいい」と、医師に治療を勧められることがあるようですが。
【石井】
そういう医師もいるでしょう。
また、「まだ小さいから様子を見ましょう」と言う医師もいます。
アザについては、病院によって治療方針は違いますから、複数の病院で意見を聞いたうえで決めるといいでしょう。
・・・子ども自身が治療したいと言いだすまで待つ、という選択もありでしょうか。
【石井】
当然です。むしろ、それが理想的ではないでしょうか。
一刻を争う病気ではないのですから。
個人的には、子どもがいやがるなら治療はやめたほうがいいと思っています。
本人がいやがっていることは重大ですよ。
小さいし、わからないんだから、とは思わないでほしいです。
・・・治療せずに成長した場合、子どもが「小さいうちに治療してくれればよかったのに」と思ったりしませんか?
【石井】
治療ですべてのアザが完全に消えるなら、私も治療を勧めます。
しかし、現在の医療技術はそこまでいっていません。
全身麻酔にもリスクはありますし、皮膚の反応にも個人差があって、レーザーを当てたことでかえって進化したケースも、私は知っています。
治療を決めたのが本人ならまだあきらめもつきますが、親が治療を決めた結果、かえって悪くなったりしたら、子どもも親もたまらないでしょう。
現状では、子どもに代わって親が治療を決めることは、一つの賭けなんです。
親がいくら「どうにかしてやりたい」と思っても、どうにもできないこともあります。
たとえばアザの面積が大きければ、それだけ時間がかかって「ものごころつかないうち」に治療を終えるのは無理ですから、アザとつきあっていくことは避けられません。
アザとつきあう主役は本人です。
「これは私の顔じゃない、子どもの顔なんだ」ということを親は自覚して、一歩引いて、サポート役に徹するつもりでいたほうがいいのではないでしょうか。
お母さんとしては、「将来苦労させたくない」と思われるでしょうが、苦労を排除してやろうと思いつめなくていいと思うんです。
むしろ、「将来いろいろ起こったら、そのときはいっしょに苦労してやろう」と思っていてほしいですね。
『顔とトラウマ ~医療・看護・教育における実践活動~』
藤井輝明・編著 かもがわ出版 2001年
◇
「将来苦労させたくない」と思うよりは「いっしょに苦労しよう」と思ってほしい。
石井さんは1966年生まれ。
生まれたときから、自分のアザ・自分の顔と世間との間の問題と向き合ってきた人の言葉は毅然としていて優しいと感じます。
自分と同じような壁を感じていくことになるだろう幼い子どもたちへの思い、その子たちが心から願うだろう親への思い、そこから言葉が生まれているのを感じます。
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