《ぎゅっとしたらいいのにの物語》④
《まきちゃん》
「ぎゅっと」の言葉を繰り返していると、いくつかの場面が浮かぶ。
小3のふつう学級で介助員をしてたとき、マキちゃんという女の子に会った。
マキちゃんは「隣のクラス」だったころから、リーのことを気にかけていた。だから3年生で同じクラスになった日、マキちゃんは玄関でリーを待っていた。
「同じクラスだね」
嬉しそうに近づくマキちゃんの顔面に、リーは頭突きを入れた。
リーは新学期で落ち着かず、朝から不機嫌だった。
マキちゃんは「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言いながら泣いていた。
□
夏のある日、マキちゃんがTシャツの袖をまくり肩を見せてくれた。
くっきり、はっきり、ついた丸い歯型。何日か前の傷らしく、黒い痣になっていた。
先生に話していないのは分かった。言えば、リーが怒られるから。
「・・・痛かったでしょう」
「ううん」
いや、見てるだけで痛い。
「これは・・・お母さんもびっくりしたでしょう?」
「みせてないもん」
マキちゃんはそう言って笑った。
先生にもお母さんにも言えないけど、私に見せてくれた傷と笑顔。
マキちゃんは、先生たちがリーを追い出そうとしていたことを知っていた。そして、私が学校側の大人ではなく、リーの両親と知り合いなのを知っていた。
マキちゃんには、大人たちの「つながり方」がちゃんと見えていた。
□
リーが荒れて周りの子に八つ当たりしているときのこと。私が叱ろうすると、マキちゃんは私を止めて、リーを正面からぎゅっと抱きしめた。
はじめは抗い、叩き、頭突きしようとしていたリーが、ふいにマキちゃんの胸に顔をうずめて静かに泣き始めた。
「かなわないな」。
そう思った。
あのとき、マキちゃんに見せてもらったのも、「ぎゅっとするつながり方」だった。
最新の画像もっと見る
最近の「8才の子ども」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- ようこそ就園・就学相談会へ(493)
- 就学相談・いろはカルタ(60)
- 手をかすように知恵をかすこと(28)
- 0点でも高校へ(393)
- 手をかりるように知恵をかりること(60)
- 8才の子ども(161)
- 普通学級の介助の専門性(54)
- 医療的ケアと普通学級(90)
- ホームN通信(103)
- 石川憲彦(36)
- 特別支援教育からの転校・転籍(48)
- 分けられること(67)
- ふつう学級の良さは学校を終えてからの方がよくわかる(14)
- 膨大な量の観察学習(32)
- ≪通級≫を考えるために(15)
- 誰かのまなざしを通して人をみること(134)
- この子がさびしくないように(86)
- こだわりの溶ける時間(58)
- 『みつこさんの右手』と三つの守り(21)
- やっちゃんがいく&Naoちゃん+なっち(50)
- 感情の流れをともに生きる(15)
- 自分を支える自分(15)
- こどものことば・こどものこえ・こどものうちゅう(19)
- 受けとめられ体験について(29)
- 関係の自立(28)
- 星になったhide(25)
- トム・キッドウッド(8)
- Halの冒険(56)
- 金曜日は「ものがたり」♪(15)
- 定員内入学拒否という差別(96)
- Niiといっしょ(23)
- フルインクル(45)
- 無条件の肯定的態度と相互性・応答性のある暮らし(26)
- ワニペディア(14)
- 新しい能力(28)
- みっけ(6)
- ワニなつ(351)
- 本のノート(59)
バックナンバー
人気記事