なぜと問わなくてすむように 2021(その4)
「なぜ、助けてと言えないのか」
「援助希求の能力がない」
その物言いにこだわるのは、なぜだったか。
そう考えているときに、父が亡くなった。
子どものころ、「酒飲みの父を息子が殺す」ニュースを目にするたび、いつか自分もそうするのだと布団の中で泣いていた。
そんな夜ばかりが思い出された。
そうだった。子どものころから、「助けて」と言わない母をみてきた。私も言ったことがない。
「助けて」よりも、母と妹を「守らなければ」ならなかった。
「助けて」よりも、「守り」たかった。
だけど子どもの力でかなわず、悔しい思いを重ねた。
どんなに殴られても蹴られても助けを求めたことのない母が、親戚に助けを求めたことが、一度だけある。
高校生になった私が、父を殺しかけた夜。
葬儀の夜、骨になった父を前に、母と二人で話した。
幼い私をおぶって、一晩中橋の上にいたこと。
牛乳配達のおじさんに声をかけられて帰った朝のこと。
妹たちが生まれてからは、「可愛くて、可愛くて」死ねないと思うようになったこと。
「お前がいつもあの子たちをかばって、逃がしてくれたからやってこれた」。
母は何度も繰り返した。
殺さなくてよかった。私の娘を含め4人の孫にとっては、大好きなおじいちゃんでいてくれた。成人した孫たちは、酒を呑み暴れる姿を知らない。それが、私の父への感謝だった。
「助けて」と言わないのは、それよりも「守りたい」ものがあるから。
「助けて」と言えるのも、それよりも「守りたい」ものがあるから。
だから「助けて」と言えない人に、私は問わない。
「よく守ったね」と、できることならいっしょに話したい。
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