前回、Hr君のお母さんの『今は涙はこぼれません』という言葉を紹介しました。
本当は、Hr君の記事の後に、S君の記事を入れる予定でした。
でも、その記事を入れると、せっかく「涙はこぼれません」という話が、また「涙」につながるような気がしてやめにしました。
でも、そのことを含めて伝えないと、「涙の意味」が伝わらないような気がしてきたので挑戦してみます。
S君はこの春、3年目の受験に臨みましたが、昨年までと同じようにすべて定員内不合格という結果でした。
S君は小学生の途中まで千葉にいました。
S君の保育園の件で、要望書のお手伝いをした覚えがあります。
他県に転校しなかったら…、S君はいまごろ、高校3年生として高校に通っていただろうと思います。3年前の千葉の受験では、会の仲間6人が高校生になっています。全員が進級して、いま3年生です。S君がそうなれない理由は、千葉にはありません。
でも、彼が小中学校を過ごした県では、千葉や東京では認められる受験上の配慮すら認められていません。
◇
【……今年の発表の日の県庁からの帰りは心が折れかけていました。
駅から電車に乗ると、たくさんの高校生が乗り込んで来ました。
皆疲れているようですが、友達同士でふざけあったり、携帯をいじったり、充実した顔をしています。
ふと、前を見るとSがいつものように穏やかな顔で音楽プレイヤーを聴いています。
…Sも、ここにいる子供たちと同じように一生懸命中学校生活を送ってきたはず。
なのに私は、なんで同じように高校に通わせてやることすら出来ないんだろう。
他の県の親達が実現してきたことなのに、私は何て無力なんだろう…。
そして思わずSに言っていました。
「S、ごめんね。もう、やめようか。Sを高校生にしてあげられなくて、ごめんね。こんな苦しい思いをSにさせてごめんね。ね、やめようか?」
たいていのことは「うん、わかった!」と笑顔で言うSが、怪訝そうな顔をして、返事をしません。何度聞いても「何、言ってるの?」という表情で私を見つめ、何も答えないのです。
そこで、愚かな私はやっと気づいたのです。
高校はSの「行きたいところ」ではありませんでした。
Sにとって、高校は「行かなくてはならないところ」だったのです。
…だから、何度も何度も先生達に会いに高校へ、そして県教委へ行ったのです。
空いている席があるのに4度も落とされ、泣きたいのはSの方だったに違いないのに、私はいつも先に泣かせてもらっていたのでしょう。……】
◇
子どもにとって、どうして「普通学級」と「高校」が大切か、どれほど大事なものか。
Hr君とS君は、私に思い出させてくれます。
泣きたくなるのは、子どもに障害があるからではありません。
できないこと、点数がとれないことは、人として恥ずかしいことではありません。
泣きたくなるのは、子どもの思いをなかったことにされることです。
この子がここに、いないように扱われることです、
「この子が、ここに いる」幸せ以上のものはないのに、この子がここにいることを認めない圧力が、世の中には多すぎます。
障害がある子が生れないような技術が進歩?し、この子がここにいてはいけない、という。
保育園、幼稚園でも、当たり前のように、この子はここではみれません、といわれる。
特別支援教育は、「この子はここにいる子ではありません。特別支援の必要な子どもです」という。
高校受験、とくに定員内不合格は、「この子はここにいる子ではありません」と言っているにすぎません。
◇
この原稿を書きながら、気づいたことがあります。
先日、千葉の総会の時に来ていたS君は、私に「まことさんはくる?」と何度も聞きました。
「りょうちゃんはくる?」と聞きました。
去年、名古屋の学習会で会った時にも、S君は「まことさんはくる?」「りょうちゃんはくる?」と聞きました。
私は、その会話を、ただの「あいさつ言葉」のように受け取ってきました。
お互いの共通の知り合いの名前を確認する、あいさつのように受け取り、「今日はこないよ」「こないと思うよ」と軽く流していました。
今日、S君の記事をここに書き写しながら、ああ、あれはあいさつとか確認じゃなかったと思いました。
S君が私に問いかける名前は、2年前に新潟で集まったメンバーの名前でした。
あの時、一浪中のS君を応援するために、集会をしよう、講演会をしようと話したメンバーの名前です。「もうやめようか」というお母さんの言葉にうなずかないS君と、私の顔を見ると「まことさんは」「かわもとさんは?」「たかむらさんは?」と繰り返すS君が私の中で重なります。
彼はいつも笑顔で、応援している人たちの名前を口にするだけで、非難がましいことは言いません。
でも、いま、私には彼の声が聞こえてきます。
「どうなってるの?」
「もう三年目だよ」
「まだ、高校生になれないけど、ちゃんと応援してくれてる?」
「あのときみたいに、みんなで集まって話してよ」
「ちゃんと応援してる?」
「ぼくのこと、忘れてない?」
「まだ高校生になれないけど、ぼくは、ここに、いるよ」
彼は私に、そう言っていたんじゃないかと思えてきました。
彼はいつも笑顔で話しかけてくれるけれど、高校生になるためにどうしたらいいのか、不安にもなるだろう。ひとりで思いつめているお母さんの姿に、心を痛めているのだろうと思うのです。でも、高校生になることをあきらめる訳にはいかない。なぜなら、「ぼくがここにいること」を、やめることはできないから。
S君のこと、いつも応援してるよ。
来年こそ、高校生になれますように。
その一方で、私はいつも思っていることがあります。
高校に合格することより、大事なこともあると。
それは、いまのS君の生き方そのものであり、S君のその生き方をちゃんと聞いてくれるお母さんがそばにいることだと思うのです。
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