ワニなつノート

「向かう」を育てる (メモ8)

「向かう」を育てる (メモ8)


トムキッドウッドの『五つのニーズ』は、本当に見事だと思います。
何度読んでも、発見があり、いくつもの子どもたちとの場面が浮かびます。
認知症の人にとってのニーズとして書かれていますが、私にとっては、普通学級の子どものニーズそのものです。

『ワニのなつやすみ』の最新号に、五つのニーズにぴったりのシーンがありました。

【友人が、職員室の前で他の保護者と話していた時のこと…。 
『下校前の時間だったかな、近くの階段から走って降りてきた子ども達が、職員室の前に来てさ、
「先生ーっ! ちーちゃんが!!! 」
「ちーちゃんが、どうしたの?! 」
「なんかに登ってる!! 」
「なんかって、なにーっ?! 」
って、子ども達と走って階段昇ってちゃって、すぐにちーちゃんおんぶして降りてきて。
ちーちゃんを下ろして、子ども達に、じゃあ帰りなさいって。
そうしたら、「ちーちゃん行こう!」って、子ども達が手をつなごうとするんだけど、いったい何本出るんだよぉって感じで、そこにいた子がみーんな手を出してるの。
ちーちゃんの手は2本しかないのにさ(笑)。
何だかほんわかしちゃって。いいよねぇ☆』】


(『きらきらひかる☆』hiroさん~より)
 
        ◇

ここには、①なぐさめ(くつろぎ)があり、
②結びつきがあり、③共にいること(社会的一体性)があり、
④たずさわること(主体的活動)があり、
⑤ちーちゃんが「自分であること」が確かにあります。

たとえ、ちーちゃんが記憶喪失のために自分自身の物語を忘れても、差し出された手の数だけみんながちーちゃんの物語を共有してくれています。
差し出される手がなければ、その子は自分の物語を、自分一人で覚えているしかありません。
自分一人で、個別で、自分の物語を…。
でも、いったいどうやって?と思います。

         ◇

① なぐさめ(くつろぎ)
【この言葉のもともとの意味は、優しさ、親密さ、苦痛と悲しみを和らげること、不安を取り除くこと、他人と親密になることから生まれる安心の感情である。】

② 結びつき(愛着)
【結びつきがもたらす安心がなかったら、人は正常な働きをするのは困難である。】

③ 共にいること(社会的一体性)
【共にいることのニーズが満たされなければ、人は衰え、引きこもることになる。
…しかし、共にいることのニーズが満たされれば、ふたたび「殻を破る」ことができ、
仲間と一緒の生活の中に自分の居場所を見つけることができるのである。】

④ たずさわること(主体的活動)
【たずさわることとは、個人的に有意義な方法で自分の能力や力を活用して、生活の過程に関わることを意味する。

たずさわることの始まりは幼年期、子どもが主体性の感覚を身につけるときにある。

すなわち、他人から反応を引き出し、自分が世の中を動かすことが可能であるという実感である。】

⑤ 自分であること(同一性)
【自分であることは、認知と感情でもって自分がだれであるかを知ることであり、過去との継続性の感覚をもつことを意味している。

…基本的な二つのこと。
一つ目は、その人の人生歴についてある程度詳しく知ることである。
記憶の喪失のために、たとえ自分自身の物語で自分であることを保てなくなっても、まだ他人によって保つことができるからである。

二つ目は、共感である。共感によって、それぞれ独自の存在として、汝として応じることができるからである。】


(『認知症のパーソンセンタードケア』トム・キッドウッド 筒井書房)

         ◇

ここには、認知症の人に対する、否定的なまなざしが、ありません。
「できる・できない」という能力で人を見るまなざしが、ありません。

ただ、この人と一緒にいたい、一緒にいるその人を大切にしたい、そこから人間が必要としているものを探るまなざしが、ここにはあります。

「できる」「する」よりも以前に、「あなたがここにいる」を、何よりも大事にするために必要なこと。
それがこの五つのニーズなのだと思います。

だから、「できる」ことや「する」ことを、子どもに求める前に、「この子がここにいる」を大事にするために必要なニーズと、そっくり同じになっているのでしょう。
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