今度の集会の準備をしていると、
翔ちゃんの顔が浮かびます。
3年前の、3ヶ月を思いを思い出します。
あの時、翔ちゃんと2年1組の子どもたちの笑顔を、
取り戻しそこねた悔しさと情けなさが、
閉じ込めた氷の中から、溶け出します。
あの時書いた、
「2年1組の子どもたちへ」を、
久しぶりに読み返し、書き直してみました。
□ □ □
《2年1組の子どもたちへ・改》
みんなは、自分があかちゃんだったころのこと
覚えているかな?
はじめて、お母さんに会ったときのこと…。
はじめて、お父さんに会ったときのこと…。
覚えてないよね。
じゃあ、はじめて歩いた日のこと。
はじめて、ママって言った日のこと。
…それも覚えてないね。
じゃあ、じゃあ、
はじめての誕生日!
丸いケーキの真ん中にロウソクを1本立てて、
おめでとーーーって言われた日のこと。
これも、ビデオの記憶かな…。
みんなが、覚えている最初の記憶はいつのことだろ?
はじめてディズニーランドに行った日のこと。
はじめて迷子になった日のこと。
妹が生まれた日のこと…。
何が最初か、本当のところ、
誰もよく覚えていないのかもしれないね。
気がついたら、お母さんがお母さんで、
お父さんがお父さんで、
この家がわたしの家で、
わたしの居場所が「ここ」だった。
そう気がついたときには、
わたしは、ここに、いた。
そんな感じだね。
じゃあ、じゃあ、それより前の、
あなたが覚えていない初めの何年かのあいだ、
あなたがいっぱい愛され、
大事にされていたころのことを少し話そうか。
あなたがまだ言葉を話せずに、
「ぁぁあ」とか「ぅうー」とか
「びぃ~」とか言ってたころ、
お母さんは、あなたが何を言いたいのか、
何を伝えようとしているのか、
一生懸命聞こうとしていたんだ。
おなかがすいたのかな。
のどがかわいたのかな。
抱っこしてほしいのかな。
お話してほしいのかな。
散歩にいきたいのかな。
おしっこがでたのかな。
眠いのかな。
寒いのかな、暑いのかな。
あなたがその小さな手を握ったり開いたりしながら、
いつもどんなことを感じているのか。
どんなことを思っているのか。
あなたのことばを聞きたくて、
いつもいつも耳を澄ませていた。
あなたの気持ちをわかってあげたいと思っていた。
「たぶん、寒いんだろうな」
そう思って、いっぱい服を着せすぎて、
こんどは暑がられたり…。
「きっとおなかがすいたんだ」
慌ててミルクを用意しても、
プイってそっぽを向かれたり…。
どうしてもあなたが泣き止まなくて、
いっしょに泣きたくなったこともある。
そんな分からないことだらけの毎日が、
お母さんには人生では、
いちばんの夢のような幸せな毎日だった。
そんなこと言われても、
「早くしなさーい」とか
「いいかげんにケンカはやめなさい」と
叫んでるいまのお母さんからは、
ちょっと想像できないかもしれないね。
でも、それは本当なんだ。
お母さんもお父さんも、人間だから、
分からないことや間違うこともいっぱいある。
だって、人間はいくつになっても
間違える生き物なんだからさ。
だから間違うことは
少しも恥ずかしいことじゃないんだよ。
でもね、命は間違わないんだ。
命は命が生まれることを一番に望んでいて、
小さな命が育っていくことを心から嬉しく思っている。
だから、あなたの命も、わたしの命も、
すべての命は、祝福されてここにいるんだよ。
生まれてきた命にはひとつも間違いがないから、
お腹のなかでケガをして、
手や指がないまま生まれてくることも、
生まれたときから目が見えないことや、
耳が聞こえないことも、
すべての命が、生まれくる自然のなかで、
あたりまえの姿なんだ。
人と人とのつながりのなかで生きる私たちにとって、
見えることや歩けること、
話せることや一人でなんでもできることより、
もっともっと大事なことがいっぱいある。
あなたが今よりもっと小さいころに、
お母さんとあなただけに通じていたことばを
覚えているかな?
他の誰に通じなくても、
お母さんにだけには通じることば。
お母さんとあなただけの魔法のことばがあったでしょ。
ふたりだけに通じることば。
でも、日本語や英語や中国語みたいに
たくさんの人に通じる言葉と同じくらい大切なことば。
だから、翔ちゃんが、みんなと同じように話せなくても、
みんなと同じように歩けなくても、
お母さんには、ただのふつうのこども。
ふつうの大切な子どもだってこと、
あなたたちはもうよく知っているね。
だって、あなたにも時々、
翔ちゃんの言葉が聞こえるでしょ。
翔ちゃんとあなたの間にも、
魔法の言葉が行き交う瞬間があるでしょ。
そのことが、翔ちゃんがここにいて、
この2年1組の教室で勉強してきたことかもしれないね。
みんなとの間にだけ通じる魔法のことばの勉強…。
だって、自分のことばを分かってくれる友だちを増やさないと、
翔ちゃんのことばを誰も聞いてくれなくなっちゃうからね。
2年間、翔ちゃんとお話してくれてありがとう。
『日刊翔ちゃん・Z』(2006.1.24)より。
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