「安全神話と無失点神話」
ロンドンオリンピック、男子サッカー準決勝、対メキシコ戦は、
日本が鉄壁の守りを崩されて1対3で負けました。それまで無失点
で勝ち続けてきた日本チームをテレビは絶賛して「無失点神話」さ
え生まれ始めていた。その時に思い出したのが原発の「安全神話」
でした。とかく我々大和民族は「神話」に弱い。人知を越えた「神
話」の呪縛に囚われると忽ち思考停止に陥る。更に、日本チームが
先制点を得たことが「神話」に拍車がかかった。無失点で終わるな
らすでに勝ったも同然ではないか。死に物狂いでボールを奪い取り
に来るメキシコ選手に余裕のパス回しをカットされて危ない場面を
迎えることが幾度もあった。そんな中でメキシコの同点ゴールは、
オーバーエイジ枠から出場しているキャプテンであり守備の要であ
るディフェンダーの吉田選手が、相手側の前線へのロングパスをオ
フサイドだと線審に抗議しながらのプレーで対応が遅れてコーナー
キックを与えてしまった。私にはそれがゲームに集中したプレーに
は映らなかった。そしてそのコーナーキックから失点した。すでに、
「無失点神話」はその時に途切れたが、必死で迫ってくるメキシコ
選手に伍した闘争心は残念ながら生まれなかった。そして、相手の
逆転ゴールは、サイドをドリブルで競り上がる選手が蹴り出したボ
ールがゴールラインを割ると誰もが思って追うのを諦めた時、その
選手だけが必死で駆け上がってライン際で拾いゴール前へ流した。
そのプレーはメキシコ選手の勝利への強い執念を感じさせた。その
執念は味方の選手にも伝わり、一旦はキーパーに阻まれたが、キー
パーから流されたボールは足が止まってしまった思考停止の(集中力
を失った)日本選手を襲って奪い返し、体制が整わない日本のディフ
ェンスの一瞬の隙を衝いて放たれたシュートは、前に出ていたキーパ
ーを掠めてゴールに吸い込まれた。改めて録画を観ると、日本選手た
ちはボールを奪われた選手の後方を横一列に並んで歩いているでは
ないか。つまり、明らかに日本選手は勝利への執念に於いてメキシコ
の選手よりも劣っていた。「無失点神話」が崩れ去り呪縛から解かれ
た日本の選手たちは思考停止から覚めないままにゲームオーバーの
ホイッスルを聞いた。ただ、試合後の選手たちのコメントでは相手チー
ムを讃えて、自分たちの負けが「想定外」だったと語らなかったことが、
つまり、自省の言葉が語られたことがせめてもの救いだった。