「安倍と無知」のつづき
かつては開かれていた未知の世界も科学技術の進歩がもたらした
グローバリゼーションによって地球(the globe)は金魚鉢(globe)の
ような既知の閉じた世界に変貌した。すでに「メイドインジャパン」
を売り歩く営業マンたちによって、かつて神の福音を伝道するために
宣教師たちが駆けずり回って世界中に建てた教会に代わって「営業所
」が作られた。教会ならば少なからず救いの手を差し伸べてくれたが
、路頭に迷う者にとって営利目的の営業所は何の頼りにもならない。
論語に「寡なきを患えずして均しからずを患う」と為政者の心構えを
説いているが、いまや金魚鉢の中は人で溢れ返り近代社会の下での豊
かさにも限りが見え始め、「寡なきを患い」ても詮無いことだと覚れ
ば誰しも「均しからずを患う」のが人情である。冷たい水が入った金
魚鉢にいくら熱湯を注いでも熱は熱い水から冷たい水に移りやがて混
ざり合って温度は均一になる、そしてその逆は決して起こらない。人
間の経済活動がもたらす格差社会の問題は一概にエントロピーの法則
に当てはめて語れないが、と言うのも全ての生物はエントロピー増大
に抗って生命秩序を維持しているのだからそう易々と物理現象に流さ
れたりしない。物理学者シュレーディンガーは著書「生命とは何か」
(岩波新書G80)の中で「生物体は『負エントロピー』を食べて生き
ている」と書いているが、全ての生物は生きるために常に外部から『
負エントロピー』を摂らなければ生命秩序が維持できなくなりエント
ロピーが増大してやがて物質に還る。しかし世界は科学技術がもたら
したグローバリゼーションによって近代化が進み自然環境が破壊され
、『負エントロピー』をもたらす外部が埋め尽くされて地球は金魚鉢
のような閉じた世界になった。外部が埋め尽くされた閉じた世界の下
での格差は「均しからず」を意識させざるを得なくなる。
(つづく)