「みたび『愛と死を見つめて』を見つめて」

2017-09-05 08:18:38 | 「愛と死をみつめて」を見つめて

 


      「みたび『愛と死を見つめて』を見つめて」


 「愛と死を見つめて」の記事を載せながら、実は本も映画も観たこと

がなかったのですが、映画だけはYouTubeで観れたけれど、このたび

ネットで古本を取り寄せて読みました。大島みち子さんと河野実さんの

文通を纏めた「愛と死を見つめて」と彼女が書き遺した「若き命の日記

」です。と言うのも、前にも書きましたが、どうしても大島みち子さん

のことが頭から離れないのでもっと知りたいと思ったからです。軟骨肉

腫という難病に冒されて、進行を止めなければもう助からないと知りな

がら、再発を防ぐために顔の半分を切除したにもかかわらず、若い命に

巣くった病魔の進行をくい止めることができずにやがて再発する。彼氏

である河野実さんの強い考えから嘘や隠し事はやめようと決めて、死を

覚悟したふたりの手紙は揺れ動く感情が赤裸々に綴られている。われわ

れは日常生活の中で他愛のない話をしていても、相手の人が余命幾ばく

もないことを知りながら日常の会話を交わすことはまずない。そもそも

そんな非日常的な事実を知れば日常の会話は成り立たない。日常生活は

誰もが「いつまでも生きている」という前提の上で成り立つ。確か彼女

も本のどこかで、主治医から両親だったかと一緒に今後の治療方針を聴

く場面で、誰もが治る見込みのないことを知りながら、それには一切触

れずに話を聴いていることの不思議を記していた。彼女の死が避けられ

ないと判った後のふたりの手紙は、残された時間の中で残酷な現実に向

き合いながら、日常を取り戻そうとする思いと、非日常をどう受け止め

ればいいのかの間で交錯する。ふたりは愛で繋がっていても死の影は彼

女にだけ忍び寄る。死を悟った彼女には愛しか残されていない。そして

彼女の死はやがてふたりの愛を引き裂く。彼女は命とともに愛も失う。

いっぽう彼の方は愛を失っても命は残る。やがて彼女の死によって愛を

繋ぐことは出来なくなる。限られた愛の行方の選択を委ねられたのは彼

の方だ。彼女は何度も自分のことを忘れて新しい人生を手にして欲しい

と願う。が、彼は生きることを諦めないで欲しいと訴える。生きている

限り愛は続くからだ。しかし、彼女の余命は尽きて彼の愛に見守られな

がら息を引き取る。それは「愛は死を乗り越えられるか」それとも「死

は愛を引き裂くか」の瀬戸際のやり取りだった。もしも「命は愛に先行

する」とすれば、彼女の死によって二人の愛は終わったことになるが、

しかし「愛は死に先行する」とすれば、たぶん二人の愛は永遠に終わる

ことはないだろう。

                           (おわり)