「『中国の成功』が終わりに近づいている理由」

2020-11-02 20:30:47 | 従って、本来の「ブログ」

     「『中国の成功』が終わりに近づいている理由」
      歴史学者ファーガソンが予測する「政治と経済」
   
           東洋経済オンライン / 2020年11月2日 10時10分 

 

ちょっと長いですが、以下はニーアル・ファーガソンという歴史学者へのイ

ンタビュー記事です。彼は最後に、

「今後20年の間に、中国は何らかの形で政治的な危機を経験すると予想しています。私たちが間違っているのか、それとも、中国が失敗するのか――その時、真実の瞬間が訪れます。賭けてもいいです。真実の瞬間に、アダム・スミスとフリードリッヒ・ハイエク、ミルトン・フリードマンが正しかったと証明されます。自由な社会がなければ自由経済は長く維持できません。

と、中国経済の失敗を予測しています。これは何としても残しておくべきだ

と思って転載しました。

        

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米中の対立が深まる中、世界情勢はどうなるのか。NHK「欲望の資本主義2020」での発言や著書『スクエア・アンド・タワー』が話題で、独自の視点から資本主義の歴史を俯瞰するニーアル・ファーガソンに、米中関係や中国情勢について展望を聞いた。番組の未公開部分も多数収録した『欲望の資本主義4 スティグリッツ×ファーガソン不確実性への挑戦』から、一部を抜粋してお届けする。

■チャイメリカの死
――世界の新たな「冷戦」について伺います。米中関係、あるいは世界秩序について、近年の最も重要な変化はどのようなことだと思われますか。

ファーガソン:13年ほど前に、「チャイメリカ」という摩訶不思議な国について書いたことがあります。中国とアメリカの蜜月を描いた論考です。世界で最も重要な経済関係は米中関係で、非常に緊密であるためほぼ1つの経済体のようだと書きました。

「チャイメリカ」では、中国が貯蓄をし、アメリカが消費します。中国は輸出、アメリカは輸入です。そして、中国はアメリカに融資します。つまり、アメリカは経常収支の赤字を埋めるために中国から借金し、そのお金で中国から膨大な消費財を輸入するという構造になっていたのです。

「チャイメリカ」は2007年時点の、世界経済の仕組みを説明したものでした。そして私は、そのような構造は持続不可能で、いずれ経済危機を引き起こしてしまうと主張しました。「チャイメリカ」はギリシャ神話の怪獣キメラのようなもので、実際には存在しない幻想だからです。そして、現実に、経済危機は翌年、2008年に起こりました。

「チャイメリカ」はその頃から死に向かい始めたのだと思います。米中の関係は緊張し、相互批判が始まりました。その時になって初めて、アメリカは「チャイメリカ」はアメリカではなく中国を利していたことに気付いたのです。金融危機が起こった時、中国の成長率は10%で、アメリカの失業率は10%でした。

アメリカは急成長する中国に追いつかれそうになっていることを理解しました。1980年代の中国の経済規模はアメリカの約10分の1にすぎませんでした。それが、2014年には、米ドルベースのGDPでは半分ほどの規模ですが、購買力平価の基準では中国のGDPはアメリカを抜き世界1位となったのです。

その事実はアメリカに警鐘を鳴らしました。2015年に大統領選挙への出馬を宣言したドナルド・トランプは、中国の知的財産侵害を強く非難し、中国からの輸入品に関税を課すと公約しました。

私は、米中の貿易戦争の原因がトランプにあるとは思っていません。この貿易戦争は中国の不正行為に対するアメリカの報復であるという側面が大きいからです。中国は計り知れないほど世界中の企業や機関、個人の知的財産を侵害しています。それでも、トランプは抑制的でした。2017年の大統領就任後1年間は、貿易戦争を開始しませんでした。驚くべきことです。

人々の予測より、米中の貿易戦争は長引いており、着地点を見いだせずにいます。私はこの戦争に当面、終わりはないと予想しています。両者の対立は貿易の枠を越えてしまっているからです。

今や対立の焦点は技術をめぐる攻防に移りつつあります。ファーウェイ製のハードウェアを使って世界の5Gネットワークを中国が支配することを、アメリカはなんとしても阻止しようとしています。

戦線は貿易から、投資や地政学、イデオロギーの領域へと広がっています。アメリカは技術などの戦略的な経済領域で中国からの投資を制限し、中国の南シナ海の制海権に異議を申し立て、香港政策を非難し、新疆ウイグル自治区での人権弾圧を批判しています。

貿易戦争の火蓋が切られて2年も経ないうちに、米中関係はこれほどまでに緊張を高めました。貿易戦争から技術戦争、そして冷戦へと戦線は拡大しました。「チャイメリカ」は死に至り、第二の冷戦が始まったのです。

勝者がどちらになるのか予測はつきません。アメリカが勝つとは限らないのです。中国経済はかつてのソ連を遥かに凌駕し、アメリカと比較した技術力も、当時のソ連より優れています。

■中国の成功は終わりに近づいている
─中国は世界経済を席巻する勢いです。成功は続きますか。

ファーガソン:21世紀初頭の経済学者の主要な関心の1つは「中国は成功できるか」ということでした。激しい競争と資本主義制度に基づいた比較的自由な市場と、政治的競争も説明責任も代議政治も真の法の支配もない一党独裁国家の組み合わせが成功できるのか─―。

中国が成功すれば、私が信じている多くのことが間違っていたことになります。私は、啓蒙主義者の識見や、フリードリッヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンなどの広義の自由主義思想の継承者です。そして、世の中のオペレーティングシステムに必要なのは自由市場だけでなく、国家に管理されない市民社会と人と人がつながる生きた社会ネットワークだ─―と考えています。

資本主義は民主主義と一体であり、市場経済があるのと同時に、選挙で選ばれる代議政治と法の支配があります。それらのどれかを切り離せるとは思えません。市場経済のみが存在して、民主主義が存在しなければ、最終的にはその経済は蝕まれるはずです。無責任な官僚制度による利益追求が始まり、腐敗が広がります。

もし、中国が成功し、私が間違っていることが証明されれば、それは、アダム・スミスから、ハイエク、フリードマンに至るまでの多くの偉大な経済学者もまた間違っていたということになります。

けれども、私は中国の経済的な成功は終わりに近づいていると見ています。人口統計学的要素や財政・金融上の逆風により、今後、中国経済は鈍化していくはずです。今後10年で成長率は半分ほどになると推測しています。

中国はこの40年の間に歴史上最大のブルジョワジー(中産階級)を創り出しました。一方で、マルクス・レーニン主義者は健在です。大きな矛盾です。マルクスによれば、ブルジョワジーは敵で、革命で打倒すべき対象だからです。

ブルジョワジーは民主主義に興味はありません。彼らの関心は財産権です。それを守るには法の支配が必要です。が、中国では財産権は保障されていません。市民は法で守られておらず、国家の気まぐれで人々の資産は簡単に取り上げられてしまいます。共産党に「お前は腐敗している。規則に違反した」と判断されたらゲーム・オーバーです。

中国の中産階級は不安を感じ始めています。だからこそ、中国には資本規制があるのです。規制がなければ、中国の富の大部分は、法の支配と保護を求め国外へ流出してしまうからです。中国の富、つまり、中産階級の多くは国外への移住を望んでいます。移民を希望する中国人は多く、中国への移住を望む人は少ないという事実が、それを物語っています。

私は昨年、アメリカの市民権を得ましたが、同じ日に、カリフォルニア州北部の町で新たにアメリカ市民となった人の出身国で、最も多かったのは間違いなく中国でした。これが、今中国で起こっていることの本質だと思います。

中国の国家と中産階級の緊張関係は、経済の最もダイナミックな場所で顕在化しています。ハイテク産業の集積地深圳のIT企業の人々は頻繁にシリコンバレーとを行き来しています。アメリカのパスポートを持つ人も少なくありません。その彼らに、北京の共産党政府は懐疑的な目を向けています。

■「今この国には三種類の中国がある」
中国の友人は「今この国には三種類の中国がある」と私に言いました。「新・新中国」「新・旧中国」「旧・旧中国」の3つです。「新・新中国」とはテクノロジーの世界です。つまりテンセントやアリババです。「新・旧中国」は政党の世界です。そこには、共産党員が子供に経営を継がせる高収益の国有企業があります。そして、最後の「旧・旧中国」は北部の寂れた工業地帯にある採算性が低いままの国有企業です。

これら3つの中国の間には対話も調和もありません。特にテクノロジーの「新・新中国」と共産党の「新・旧中国」の間には、「テクノロジー中国」と「政党中国」の間には、指摘したような緊張関係があります。それは、外にいる私たちにはあまり見えません。アリババの創始者馬雲(ジャック・マー)をはじめとするIT企業のリーダーたちが、習近平の顔色をうかがっているからです。

中国政府が、その正当性の根拠としていた経済成長は、もはや維持できなくなりつつあります。共産党は別の根拠を探さなければなりません。その1つが毛沢東思想です。近年の習近平や共産党幹部の言説に、その復活が垣間見られます。

私は、今後20年の間に、中国は何らかの形で政治的な危機を経験すると予想しています。私たちが間違っているのか、それとも、中国が失敗するのか─―その時、真実の瞬間が訪れます。賭けてもいいです。真実の瞬間に、アダム・スミスとフリードリッヒ・ハイエク、ミルトン・フリードマンが正しかったと証明されます。自由な社会がなければ自由経済は長く維持できません。