「真理とは幻想である」(6)

2020-11-20 08:08:44 | 「ハイデガーへの回帰」

                  「真理とは幻想である」


               (6)


 われわれの理性が存在の《真理》を掌握することができないとす

れば、その結果、理性がわれわれに「生きることは意味がない」と

囁いたとしても、それほどあやまった判断だとは思えない。ただ、

それはあくまでも理性的判断であって、しかし、われわれは理性に

よって命を得たわけではない。そもそもわれわれが生れて来ること

に理性はいっさい関与していない。だから理性はわれわれの生死に

口を挟む権利はない。つまり理性とは生きるための手段でしかない

。ところが、目的を見失った者は手段にすがり、そして手段が目的

化する。世界とは無常に遷り変る生成であり、われわれが為し得る

ことはただ命を繋ぐことだけだと理性がささやくとき、われわれは

無限のニヒリズムに陥る。しかし、理性が追い求める「真理とは幻

想である」とすれば、われわれは生死を合理的判断に委ねるべきで

はない。生きて在るものとはそもそも不合理な存在なのだ。

                        (おわり)


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