英文ケースレポートの書き方
徳田安春
サマリー(アブストラクト)をまとめる
~刑事コロンボ的組立てとオッカムの剃刀~
l ポイント
では、今回はサマリー(アブストラクト)を書いてみよう。ポイントは次の3つ。
- バックグラウンドの文(文章)で起こす
- 年齢、性、主訴、診断名、転帰は必須
- ラーニングポイントの文(文章)で結ぶ
これらの説明は実例をみながらやるとわかりやすいので、まずはサンプルを示す。筆者のグループが最近報告した症例である(タイトル:Clarithromycin-induced haemorrhagic colitis)。これはBMJ Case Reportsという英国誌に掲載されたものなので、イギリス英語表記となっている点に注意。書く前には語数制限を確認しておこう。ちなみに、この雑誌の投稿規定ではサマリーは150語数以内ということになっていた。
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Haemorrhagic colitis by Klebsiellaoxytoca has been described as an antibiotic-associated colitis, particularly with the use of ampicillin. Here we report a patient with haemorrhagic colitis caused by K oxytoca after the use of clarithromycin. A 67-year-old Japanese woman with diabetes presented with mucobloodydiarrhoea and abdominal pain. Stool culture grew K oxytoca. Colonoscopy showed the appearance of haemorrhagic colitis. Further history taking revealed that she had received a course of oral clarithromycin for upper respiratory tract infection. She had recovered by conservative treatment. We should be careful about gastrointestinal symptoms in patients on clarithromycin, which can cause haemorrhagic colitis associated with K oxytoca.
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l バックグラウンドの文(文章)で起こす
上記サンプルでは次の文で起こされている。
Haemorrhagic colitis by Klebsiellaoxytoca has been described as an antibiotic-associated colitis, particularly with the use of ampicillin.
内容はいたって教科書的だ。このような文は教科書(Uptodate, Harrison, Cecilなど)を読みながら考えて書けばよい。コピー・ペーストはもちろん禁じ手。あくまでも参考にして書くのだ。
続いてのつぎの文は、本症例の臨床的結論を表す文である。
Here we report a patient with haemorrhagic colitis caused by K oxytoca after the use of clarithromycin.
これはあるとわかりやすい。結論を先に書くのが、科学論文の鉄則なのだから。内容はタイトルにも近いが、タイトルと同じ表現ではない。同じ文を2度使用してはならないのだ。
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コラム:ポワロや金田一よりも刑事コロンボから学べ!
結論を先に書くのが科学論文の鉄則である。一方、国語の授業で読んだ文章では起承転結というながれをふむことが多い。たしかに小説などはそのほうがおもしろいだろう。アガサクリスティーや横溝正史などの推理小説で犯人は最後にわかるのが典型パターンだ。しかし論文では、和文でも英文でも結論を先に書くのが科学論文の鉄則なのである。まあ、推理ものでは刑事コロンボがそれにあたる。冒頭のシーンで犯人がだれかわかっていてそのあとでコロンボ警部がじわじわと犯人を追いつめていくのだ。ところで、コロンボのTVシリーズは犯罪の推理ものだが、これをみて推論スキルを勉強すると臨床推論の勉強にもなると筆者は信じている。
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l 年齢、性、主訴、診断名、転帰は必須
まずは年齢、性、主訴。できれば人種(民族)、重要な併存症(糖尿病など)もつけておく。
A 67-year-old Japanese woman with diabetes presented with mucobloodydiarrhoea and abdominal pain.
次に診断の根拠(所見)と診断だ。所見は、身体所見、検体検査所見、画像検査所見なんでもよいが、診断のために決定的な所見はかならず入れる。決定的な所見は疾患による。通常は、病理診断所見、細菌培養結果、内視鏡所見、遺伝子検査結果などのことが多い。結核症の場合には、培養以外に病理で診断されることもあるね。
Stool culture grew K oxytoca. Colonoscopy showed the appearance of haemorrhagic colitis. Further history taking revealed that she had received a course of oral clarithromycin for upper respiratory tract infection.
上の文章で、病歴の一部があとまわしになっているが、これはこの情報があとで加わったことが話の展開として重要だから。次は治療と転帰だ。次の文をみてみよう。
She had recovered by conservative treatment.
英語論文での重要ルールにはシンプルイズビューティフルというのもある。臨床推論でいえば「オッカムのかみそり」のようなもの。オッカムのかみそりとは、推論法の有名なルールのひとつ。三浦俊彦による説明は「ある事実を同様に説明できるのであれば仮説の数は少ないほうが良い」であった。これを最初に提唱したのは英国オッカム地方の哲学者ウィリアム(William of Ockham)であった。「かみそりRazor」という言葉は、不要なものを切り落とすことを比喩している。オッカムの剃刀は別名「思考節約の原理」(Principle of Parsimony)とも呼ばれる。科学論文の記載でも、英文はできるだけシンプルなほうがよい。わざわざ文学的な表現は不要なのだ。
l ラーニングポイントの文(文章)で結ぶ
最後はやっぱりラーニングポイント。テイクホームメッセージともよぶ。とにかくこれだけは述べたいという一言を書く。今回のサンプルでは次の文だ。
We should be careful about gastrointestinal symptoms in patients on clarithromycin, which can cause haemorrhagic colitis associated with K oxytoca.
わが国ではこの薬剤はかなりの数が処方されている。この副作用は重要と考えたのでこれを広く伝えたかった。早期診断には消化器症状に注意することなので、こういう文になったのである。多忙な臨床医で最低限の症例報告ポイントをチェックしたいときは、ときにはこの最後の文のみを読むだけでもお勧めする。
最後に、もう1つサンプルを掲載する。なんと1行のみのサマリーである。これもすでに出版されたものであるが、年齢、性、主訴、転帰の情報も欠けている。掲載されたものでも、このような不完全例もあるので注意が必要。まあこれでも査読者が許可したのだから不完全とはいえこのようなパターンもあってもよい。よほど自信のある1文でなければなかなかチャレンジングなサマリーといえるだろう。
Renal denervation offers novel treatment opportunities in patients with resistant hypertension, including cases with rare causes (fibromuscular dysplasia), warranting further investigation.
参考文献
1)三浦俊彦:「説明はスリム化すべきである?オッカムの剃刀」:『論理学が分かる事典』p.204-205
2)Miyauchi R, Kinoshita K, Tokuda Y. Clarithromycin-induced haemorrhagic
colitis. BMJ Case Report. 2013, 20 August2013.
3)Kelle S, Teller DC, Fleck E, Stawowy P. Renal denervation in fibromuscular dysplasia. BMJ Case Report. 2013, 19 August 2013.
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