志楽於静処
事しげき世をのがれにし深山辺に嵐の風よ心して吹け
半紙
【題出典】『法華経』従地湧出品
【題意】 志楽於静処
静かなる処を志し楽(ねが)いて
(地湧の菩薩は)静かなところを求めて、(多くの人がいる騒がしい所を避ける。)
【歌の通釈】
煩わしい世間を遁れてきた深山の辺に、嵐よ、私の行を妨げぬよう心して吹け。
【参考】
夏衣まだひとへなるうたたねに心して吹け秋の初風(拾遺集・秋・一三七・安法法師)
【考】
前歌同様、地湧菩薩のように、俗世間から離れて山林に住み、閑寂の中で修行しようという決意の歌。この歌は、題しらずとして、『新古今集』の雑部に入っている。当百首を出典としながら、釈教部に入るものと、その他の部に入るものとが分かれる現象は、『千載集』にも見られた。(63番歌参照)。また、『拾玉集』巻五散文にこの題文が引かれる。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)