由妄念故沈生死
夏引きのいとふべき世にまとはれしこの心ゆゑかきこもりける
半紙
【題出典】原拠不明。
【題意】 由妄念故沈生死
妄念に由(よ)るが故に生死に沈む
妄念によってこの輪廻の世界に沈む。
【歌の通釈】
夏に紡ぐ糸に巻きつかれるように、厭うべき世の中に縛られた。この縛られた心ゆえに、世の中に引きこもっているのだよ。
【参考】行方なくかきこもるにぞひき繭のいとふ心のほどは知らるる(金葉集二・恋下・四七五・待賢門院堀河)
【考】
離れるべき世に対する執着ゆえに生死の輪廻を繰り返すことを嘆いた歌。特に糸に巻きつかれたような愛の妄執からは逃れ難い。「糸(繭)」を中心とした縁語仕立ての歌で、【参考】に挙げた、堀河の一首に倣っている。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)