アメリカから派遣され、731部隊関係者の尋問を基にはじめて日本軍の人体実験に関する調査報告書を作成したノバート・H・フェルはその調査報告書「フェル・レポート」の中で、
3 研究室および野外実験に使われた人間の実験材料は、各種の犯罪のため死刑判決を受けた満州の苦力とのことであった。アメリカ人あるいはロシア人の戦争捕虜が使われたことは、(何人かのアメリカ人戦争捕虜の血液が抗体検査に使われたのを除けば)一度もなかった、と明確に述べられていた。この主張が真実でないことを示す証拠はない。
と報告している。そしてフェルに続いて来日し、調査に当たったエドウィン・V・ヒルは、その第4次の調査報告書の最後に
さらに、収集された病理標本はこれらの実験の内容を示す唯一の物的証拠である。この情報を自発的に提供した個々人がそのことで当惑することのないよう、また、この情報が他人の手に入ることを防ぐために、あらゆる努力がなされるように希望する。
と書いている。この二人の調査報告書を、ハバロフスク裁判の証言などと考え合わせると、戦犯免責に通じる”取り引き”の結果による”事実の歪曲”の疑惑を感じざるを得ない。第1次や第2次の尋問では、人体実験に関しては秘匿していたのである。また、ハバロフスク裁判では、下記のような裁判なしの”特移扱”に関するいくつかの証言があるのである。「消えた細菌戦部隊」常石敬一(ちくま文庫)よりの抜粋である。
山田乙三大将(関東軍司令官)の証言---------------
生きた人間を使用する実験は、私の前任者梅津大将又は植田大将に依って認可されたものであります。之に関して認める私の罪は……其の続行を黙認したこと……。実験のために囚人を送致すること、即ち所謂「特移扱」も、矢張り私の前任者植田大将又は梅津大将が認可したのでありますが、私も此の認可を廃止しなかった……」。
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また、佳木斯(チャムス)で憲兵隊長を務めていた橘元憲兵大佐はハバロフスク裁判に証人として出廷し、次のように証言している。
橘元憲兵大佐の証言-----------------------
1940年、私は佳木斯市の憲兵隊長の地位にありました。其の時、私は初めて、第731部隊の存在と其の業務を知るようになりました。……当時、何らかの嫌疑で憲兵隊が拘引し検挙した者の一定の部類を、吾々は実験材料として第731部隊に送致していました。吾々は、此等の者を、予備的な、部分的取調べの後、裁判に附さず、事件送致せずに、憲兵隊司令部より吾々が受領した指令によって第731部隊に送っていました。是れは、特殊の措置でありましたので、、斯かる取扱は「特移扱」と呼ばれていました。……私の佳木斯憲兵隊長在職中、私の隷下憲兵隊本部によって少なくとも6人が第731部隊に送られ 、此等の者は、其処から戻らず、実験に使用された結果、其処で死亡しました。
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憲兵隊の判断だけで、裁判なしで実験材料とされ殺される、それが「特移扱」なのである。そして「特移扱に関する件通牒」にはその対象が列挙されている。さらにフェル・レポートに反し、ロシア人を第731部隊に送ったという下記のような証言がある。これは、ハルビン特務機関の管轄下にある保護院の院長補佐で、情報調査課長であった山岸健二元陸軍中尉のハバロフスク裁判における証言である。
山岸健二元陸軍中尉の証言--------------------
特務機関長秋草少将の署名入りのハルビン日本特務機関の指令書に依って情報調査課の勤務員は、私の同意を得て現存の罪証資料に依って名簿を作成し、収容所所長飯島少佐の承認を経て、飯島少佐は之に捺印しました。飯島は上述の名簿を報告の為秋草特務機関長の許に持っていきましたが、特務機関長は常に吾々の意見に同意し、殺戮の為吾々が予定したソヴエト市民を第731部隊に移送することを許可しました。
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上記の証言によると、石井部隊に送られ、人体実験の材料とされて殺されたのは中国人や朝鮮人、モンゴル人だけでなく、ソ連人(ロシア人)も含まれている。ただ、ソ連人は特務機関から送られ、それ以外の人々は憲兵隊から送られたということである。そして、保護院から石井部隊に送られたソ連人は約40人であったという。
これら”特移扱”の人たちは、石井部隊では「丸太」と呼ばれ、「石井部隊-”マルタ”生体実験」で紹介したように
「今日の”丸太”(マルタ)は何番…何番…何番…10本頼む」
「ハイ、承知しました」
などと、物として扱われていたのである。
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http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表があります。
一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。
3 研究室および野外実験に使われた人間の実験材料は、各種の犯罪のため死刑判決を受けた満州の苦力とのことであった。アメリカ人あるいはロシア人の戦争捕虜が使われたことは、(何人かのアメリカ人戦争捕虜の血液が抗体検査に使われたのを除けば)一度もなかった、と明確に述べられていた。この主張が真実でないことを示す証拠はない。
と報告している。そしてフェルに続いて来日し、調査に当たったエドウィン・V・ヒルは、その第4次の調査報告書の最後に
さらに、収集された病理標本はこれらの実験の内容を示す唯一の物的証拠である。この情報を自発的に提供した個々人がそのことで当惑することのないよう、また、この情報が他人の手に入ることを防ぐために、あらゆる努力がなされるように希望する。
と書いている。この二人の調査報告書を、ハバロフスク裁判の証言などと考え合わせると、戦犯免責に通じる”取り引き”の結果による”事実の歪曲”の疑惑を感じざるを得ない。第1次や第2次の尋問では、人体実験に関しては秘匿していたのである。また、ハバロフスク裁判では、下記のような裁判なしの”特移扱”に関するいくつかの証言があるのである。「消えた細菌戦部隊」常石敬一(ちくま文庫)よりの抜粋である。
山田乙三大将(関東軍司令官)の証言---------------
生きた人間を使用する実験は、私の前任者梅津大将又は植田大将に依って認可されたものであります。之に関して認める私の罪は……其の続行を黙認したこと……。実験のために囚人を送致すること、即ち所謂「特移扱」も、矢張り私の前任者植田大将又は梅津大将が認可したのでありますが、私も此の認可を廃止しなかった……」。
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また、佳木斯(チャムス)で憲兵隊長を務めていた橘元憲兵大佐はハバロフスク裁判に証人として出廷し、次のように証言している。
橘元憲兵大佐の証言-----------------------
1940年、私は佳木斯市の憲兵隊長の地位にありました。其の時、私は初めて、第731部隊の存在と其の業務を知るようになりました。……当時、何らかの嫌疑で憲兵隊が拘引し検挙した者の一定の部類を、吾々は実験材料として第731部隊に送致していました。吾々は、此等の者を、予備的な、部分的取調べの後、裁判に附さず、事件送致せずに、憲兵隊司令部より吾々が受領した指令によって第731部隊に送っていました。是れは、特殊の措置でありましたので、、斯かる取扱は「特移扱」と呼ばれていました。……私の佳木斯憲兵隊長在職中、私の隷下憲兵隊本部によって少なくとも6人が第731部隊に送られ 、此等の者は、其処から戻らず、実験に使用された結果、其処で死亡しました。
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憲兵隊の判断だけで、裁判なしで実験材料とされ殺される、それが「特移扱」なのである。そして「特移扱に関する件通牒」にはその対象が列挙されている。さらにフェル・レポートに反し、ロシア人を第731部隊に送ったという下記のような証言がある。これは、ハルビン特務機関の管轄下にある保護院の院長補佐で、情報調査課長であった山岸健二元陸軍中尉のハバロフスク裁判における証言である。
山岸健二元陸軍中尉の証言--------------------
特務機関長秋草少将の署名入りのハルビン日本特務機関の指令書に依って情報調査課の勤務員は、私の同意を得て現存の罪証資料に依って名簿を作成し、収容所所長飯島少佐の承認を経て、飯島少佐は之に捺印しました。飯島は上述の名簿を報告の為秋草特務機関長の許に持っていきましたが、特務機関長は常に吾々の意見に同意し、殺戮の為吾々が予定したソヴエト市民を第731部隊に移送することを許可しました。
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上記の証言によると、石井部隊に送られ、人体実験の材料とされて殺されたのは中国人や朝鮮人、モンゴル人だけでなく、ソ連人(ロシア人)も含まれている。ただ、ソ連人は特務機関から送られ、それ以外の人々は憲兵隊から送られたということである。そして、保護院から石井部隊に送られたソ連人は約40人であったという。
これら”特移扱”の人たちは、石井部隊では「丸太」と呼ばれ、「石井部隊-”マルタ”生体実験」で紹介したように
「今日の”丸太”(マルタ)は何番…何番…何番…10本頼む」
「ハイ、承知しました」
などと、物として扱われていたのである。
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