私は、ロシア侵攻後のウクライナに関わる日本の報道に問題があるように思っています。アメリカおよびウクライナからもたらされる情報は、検証することなくそのまま事実として報道し、逆に、ロシア側からもたらされる情報は、常に疑わしいものであるかのように扱っているように思うのです。
最近、バイデン大統領は、ロシアのプーチン大統領が自ら孤立化し、顧問の一部を処分していることを示す情報があると明らかにしたり、プーチン大統領が、一部の顧問を自宅軟禁下に置いている可能性もあると述べたり、プーチン大統領のまわりにいる人たちが、大統領が恐くて何も言えないようだ、と言ったりしています。でも、それはプーチン大統領を孤立化させ、ロシアの弱体化を意図するための印象操作ではないかと思います。だから、そうした発言を検証することなく、そのまま報道することは控えるべきではないかと思うのです。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領が語りかける映像は、日々更新され、字幕付きで報道されているのに、ロシアのプーチン大統領が語りかける映像は、字幕がなく、何を語っているのかわからないいくつかの映像がくり返し流されています。取材が難しいということはあるかも知れませんが、通信技術が進んだ現在、プーチン大統領と直接接触しなくても、プーチン大統領やロシア側の取材は可能なのではないでしょうか。私は、プーチン大統領やロシア政府の関係者、軍の要職にある人たちが、ウクライナの現状について、どう考えているのか知りたいと思うのですが、情報がほとんどありません。
日本の政府がアメリカに追随して、ロシアに経済制裁を課しているからといって、政府と同じような立場に立って、メディアが公平な報道を心がけないことには問題があると思います。
また、最近ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊などで、多くの市民が死亡しているのが見つかり、ロシアの責任を問う声が強まるなかで、バイデン政権はさらなる制裁を発表したようですが、それは、被害の拡大を防ぐことにならないように思います。
報道によると、ウクライナの外相が、キーウの都市ブチャの惨状について、ツイッターで、「ブチャの虐殺は意図的なものだ。ロシアはできるだけ多くのウクライナ人を殺害しようとしている」と発信し、ゼレンスキー大統領も、それがジェノサイドであり、戦争犯罪であると語っています。国際的にも、同様の声があがっているようですが、私は、それが、プーチン大統領を屈服させ、ロシアを弱体化させたい、バイデン政権の戦略なのではないかと疑わざるを得ません。
ロシア軍がウクライナに侵攻した直後、ゼレンスキー大統領は、18~60歳の男性の出国を禁止し「国民総動員令」を発令しました。そして、世界中に武器の供与を求めるとともに、国民に祖国防衛のため、武器を持って侵略者と戦おうと呼びかけました。だから、それに応えるように、市民がビールの空き瓶でせっせと火炎瓶を作ったり、若者が機関銃の操作を教わったりしている映像が流されました。中には女性や年老いた人もいたように思います。これは重大なことだと思います。
その時点で、私は、ロシア軍の民間人虐殺が戦争犯罪であるという指摘は成立しなくなっていると思うのです。民間人が武器を所持して、ロシア軍に抵抗する体制を整えたのであれば、ロシア側から見れば、軍人と民間人を区別する理由がなくなっていると思います。だから、民間人の虐殺というのは、確かに戦争犯罪だと思うのですが、その判断は、ウクライナの戦争では、簡単ではないと思います。
それで、思い出すのが、日中戦争当時の南京における「安全区」です。ドイツ人ラーベを中心とする「南京安全区国際委員会」が、日中の南京戦に際し、戦災で家を失ったり、戦火に追われ南京に流入してきた難民や、逆に、南京から避難できない貧しい市民などを救済するため、南京城内の一角に「南京安全区」を設定したのです。そして、安全区には武器を持った人を入れないように監視することによって、そこを攻撃の対象から除くように、日中双方に働きかけたのです。
ゼレンスキー大統領のとった方針は、それとは全く逆であったと思います。民間人が火焔瓶を準備し、武器を所持したら、ロシア側は、攻撃対象として軍人と民間人を区別することはできないと思います。
だから、現実には、武器を所持しない多くの民間人が亡くなったのではないかと思いますが、戦争犯罪と断定することは、そんなに簡単ではないと思います。
さらに私が不審に思うのは、かつてソ連の一角を占めたに過ぎなかったウクライナのゼレンスキー大統領が、なぜ、ソ連の本体ともいえるロシアに軍事的に対抗する決断をするに至ったのかということです。象と蟻の戦いであるとは思いませんが、装備の面でも組織の面でも、圧倒的に不利であり、戦争になれば、当然甚大な被害が予想できたのではないかと思います。でも、現実にウクライナは、武器をとってロシアと戦っています。
だから私は、そこに、アメリカのバイデン政権と一体となったゼレンスキー大統領の、ロシアに対する野蛮な戦略があるのではないかと疑わざるを得ないのです。ゼレンスキー大統領個人が、単独でそういう決断をするとは思えないのです。
ロシアが相当ひどい爆撃をやったであろうことは、日々の映像から察せられますが、両方にプロパガンダがあることは否定できないと思います。プロパガンダはお互いの疑心暗鬼を深め、憎しみを増幅すことにつながると思います。だから、情報を共有することが、大事であり、あらゆる組織からロシアの人たちを排除したり、情報のやりとりを遮断したりすることは、相互の理解を妨げ、溝を深めることになるので、間違いだと思います。
私は、戦争が続いている現在、両方の報道をそれぞれの相手国に伝え、その事実を共有しつつ、話し合いができるようにするシステムを確立してほしいと思っています。そうすれば、ロシアとウクライナおよびアメリカの間にある誤解や偏見、お互いの野蛮な対応に対する憎しみ、及び、それぞれが感じている脅威を取り除き、妥協点を見つけることができるのではないかと思います。
また、あらゆる国が、きちんと検証されたことを報道し、検証されていない事実は、そのことを踏まえて、できるだけ報道をひかえ、報道する場合も「確認はとれていませんが・・・」というような形で報道すべきではないかと思います。プロパガンダを広めるような報道をすべきではないと思うのです。そういう意味で、日本の報道は、アメリカよりで、何とか被害の拡大を防ごうとする姿勢が欠けているように思います。
難しいことは、いろいろあるでしょうが、ウクライナの戦争の背景や経緯をきちんと理解することに努め、話し合いで解決しようとする方向で、報道したり、具体策を提起するようにしてほしいと思います。
私には、見逃すことのできない事実がいくつかあります。
たとえば、2022年11月に実施される中間選挙控え、トランプ前大統領は、再び、バイデン米大統領の息子の醜聞を握っていれば情報を公開するようプーチン大統領に呼びかけたといいます。事実はわかりませんが、いずれにしても、アメリカのバイデン政権が、ウクライナに深く入りり込んでいたことを示しているように思います。だから、アメリカ側の人たちが、ウクライナでどんな活動をしていたのか、また、ロシア側はそれをどのように理解しているのか、知りたいと思いますが、そういうことは、ほとんど取り上げられていないように思います。
以前は、ロシアのウクライナ侵攻の背景を考えさせるような報道もありましたが、最近は、ウクライナの悲惨な実態ばかりで、それがウクライナに軍を侵攻させたプーチン大統領のロシアは悪、だから屈服させなければならない、というような武力による解決を意図するアメリカの戦略につながっているように思います。
私は、そうではなく、ロシアとウクライナおよびアメリカの間にある誤解や偏見、お互いに感じている憎しみ、及び、それぞれが感じている脅威を取り除き、平和的に解決できるよう、日々の報道で、誘導してほしいと思います。
また、NATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟の、東方拡大の問題も、あまり取り上げられないようですが、ロシアにとって重大問題であることは、キューバ危機をふり返れば明らかだと思います。
当時、「核戦争一歩手前」ということで、世界終末までの時間が、「世界終末時計」で、残り2分などといわれました。それまでの最短の時間であることが話題になり、世界中が心配し、注目したと思います。それは当時、ロシアがキューバに核兵器などを持ち込むことを、アメリカは断乎として認めず、”核戦争も辞さず”という姿勢を示したからです。
それを踏まえると、1999年のポーランド、チェコ、ハンガリーのNATO加盟、さらに2004年のバルト3国およびルーマニアなど7カ国のNATO加盟は、ドイツ統一後のNATO東方不拡大の東西合意に反し、ロシアにとっては認めがたいことであったと思います。にもかかわらず、2008年、再び、時のブッシュ・アメリカ大統領がウクライナとジョージア(旧グルジア)のNATO加盟を提案したといいます。このとき、ドイツとフランスが、アメリカの提案に反対したことは、見逃されてはならないと思います。ロシアに配慮すれば、そういうことはしてはならないということだったと思います。
ロシアは、明確に”ウクライナとジョージアのNATO加盟は、ロシアの脅威であり、受け入れられない”と主張しているのです。でも、バイデン大統領は、そうしたロアシアの意向を知りながら、ウクライナの加盟を進めようとし、NATO東方拡大の約束はなかったと突っぱねたことが、ウクライナ戦争の原因の一つになっているのだと思います。
また、バイデン政権は、ロシアを挑発するかのように、NATOを中心とした15ヵ国6000人規模の多国籍軍による軍事演習を、ウクライナを含めて展開しています。このウクライナとの演習は最大規模の演習だったと報道されました。
そのおよそ一ヶ月後には、バイデン政権はウクライナに180基の対戦車ミサイルシステム(シャベリン)を配備したといいます。そうしたことがきっかけで、ロシアは軍をウクライナとの国境周辺に配置したようです。でも、その後どんなやりとりがあったのかはわかりません。
だから、ウクライナの戦争が「ロシアの一方的な侵攻」が原因というのは正確ではないと思います。
そうした経緯を、きちんと確認すれば、相互理解を深め、妥協点を見付けることは可能だと思います。
平和な時代が続けば、炭素排出量の少ない天然ガスを、ヨーロッパなどに大量に輸出できるロシアの影響力が、次第に世界中で増し、アメリカの影響力がしぼむことは、仕方のないことだと思います。
でも、アメリカのバイデン政権は、それを受け入れることが出来ず、何としても、阻止しようといろいろ画策し、戦争へ誘導したのではないかと思います。
日本の福島の事故以来、脱原発を掲げるドイツは、早くからロシアと協力してノルドストリーム2の建築を進めていたことも自然な成り行きで、本来アメリカが関与せべきことではないと思います。
でも、アメリカは、諦めることをせず、ロシアがウクライナに侵攻せざるを得ない状況をつくり、戦争へ誘導したのではないかと疑います。そして、世界中に働きかけ、ロシアに制裁を加え、ロシアの弱体化を進めるために、ウクライナで動いたのではないかと思うのです。