真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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ウクライナ戦争、ロシアの立場を考える(河瀬監督の東大入学式祝辞やコンチャロフスキー監督の言葉を踏まえて)

2022年04月18日 | 国際・政治

 先日の朝日新聞に、東大入学式における映画監督・河瀨直美さんの、祝辞が取り上げられていました。
 祝辞の中の言葉、「自らの中に自制心を持って」を題とし、下記のように簡単にまとめられたものでした。
来賓の映画監督、河瀨直美さんは祝辞でウクライナ侵攻に言及。「ロシアを悪者にすることは簡単」としたうえで、「なぜこのようなことが起こっているのか。一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤ってはいないか。誤解を恐れずに言うと『悪』を存在させることで私は安心していないか」と述べた。
 そのうえで「自分たちの国がどこかの国に侵攻する可能性があるということを自覚しておく必要がある。そうすることで自らの中に自制心を持って、それを拒否することを選択したい」と語りかけた。
 私は、ウクライナの戦争で、公平な判断がとてもできないようなアメリカ・ウクライナ寄りの報道に危機感を募らせていたので、的を射た祝辞ですばらしいと思いました。
 でも、その後「河瀬監督の祝辞が、波紋を広げている」という記事を読んで驚きました。国際政治学者から批判相次いだというのです。東京大学の池内恵教授は「侵略戦争を悪と言えない大学なんて必要ない」とまで言ったようですが、私は受け入れられません。
 またネット上には、慶應義塾大学の細谷雄一教授が「ロシア軍がウクライナの一般市民を殺戮している一方で、ウクライナ軍は自国の国土で侵略軍を撃退している」と指摘し、河瀬監督の祝辞を念頭に「この違いを見分けられない人は、人間としての重要な感性の何かが欠けているか、ウクライナ戦争について無知か、そのどちらかでは」と厳しく批判したことも、取り上げられていました。
 私は、とても失礼で、間違った批判であると思いました。日本をリードする大学の教授にも、見えない事実、見えない景色、見えない世界があるのではないかと思いました。

 日本人だけで、310万人といわれる死者を出したアジア太平洋戦争は、”鬼畜米英”との戦いとして、当時の政府が国民に強制したと思います。でも現在の政府は、そのかつての”鬼畜”である米英と一体となって、ロシアを”鬼畜”扱いし、制裁を加えているのです。そのために、日本も大きなダメージを受け、多くの人が痛手を被っています。おかしいと思います。
 だから私は、力の行使である制裁ではなく、話し合いで解決してほしいと思い、過去の歴史を踏まえて、ウクライナでの戦争に関して、可能な限り公平な判断をしたいと思っているのですが、ロシア側の情報が、圧倒的に不足しているのです。ロシア側の情報は、断片的にしか報道されません。私は、現在日本の情報の偏りが異常ではないかと思います。政府やメディアの報道は、かつての大本営発表に似通っているような気がするのです。
 また、政府もメディアも、プーチン非難、ロシア非難ばかりで、ロシア側と情報を共有し、停戦に持ち込もうと努力してはいないように思います。そして、アメリカ・ウクライナ側に都合のよい情報だけを日々流しているように思うのです。

 逆に私は、死体が動いたという映像を見てから、すべてを疑いの眼差しで見るようになりました。例えば、ブチャで、両手を後ろに縛られ、頭を撃ち抜かれた死体が転がっているという報道がありましたが、自ら撤退したロシア軍が、戦争犯罪が疑われるそのような死体を、路上に残したまま撤退することがあるだろうか、もしかしたら、ロシア軍の残虐性を世界に広めるために、ウクライナ軍が、そうした映像を創作したのではないか、とか、激しい爆撃で破壊され尽くした住居の前に、子どものものと思われるいくつかのぬいぐるみが転がっている映像は、子どもの死を連想させるために創作したのではないか、とか、親族が殺されたと言って泣き叫ぶ女性は、演技をしているのではないか、というように、疑って見るようになったのです。もちろん真実は分かりません。

 人が殺し合う戦争では、嘘がつきものです。だから、どちら側にも嘘がある事を前提として、あらゆる事実や戦争に至る経緯を検証することが欠かせないと思います。「一方的な側からの意見に左右されて、ものの本質を見誤ってはいないか」と語りかけた河瀬監督の祝辞は、そういう意味で、まさに時宜に適った祝辞であったと思います。 

 でも、東大の池内教授は、ウクライナの戦争を、ロシアによる「侵略戦争」と断定しています。現象的にはそうかも知れませんが、私は、ロシア側から見ると「防衛戦争」であるという側面にも目を向ける必要があると思います。
 「親愛なる同志たちへ」という映画のアンドレ・コンチャロフスキー監督は、米ロで活動した巨匠であるとのことですが、ウクライナの戦争について、「今起きているのはロシアとウクライナのコンフリクト(衝突、紛争)ではなく、ロシアと米国のコンフリクトだ。ウクライナ人はその犠牲者なのだ」と述べています。池内教授は、そういう部分を考慮されていないのではないかと思います。

 いずれにしても、私は、ウクライナの戦争の背景に、米ロの利益の衝突があり、それに相互の誤解や無理解、偏見や差別意識が絡んでいると思います。それらを解消し、法や道義・道徳に基づいて判断する必要があると思います。ロシアを「」決めつけ、屈服させなければ解決しないというような考え方で、欧米日のように、ウクライナ軍の支援を続けることは、戦争を正当化し、犠牲者を増やすことになるので、間違っていると思います。
 ロシア軍のウクライナ侵攻という一つの現象だけを見て、戦争に至る経緯や立場の違いを考えようとしない慶大の細谷教授自身が、私は「人間としての重要な感性の何かが欠けている」のではないかとさえ思います。

 だから、くり返しになるのですが、ウクライナ戦争の原因のいくつかを、ロシア側の立場を考慮して、ふりかえりたいと思います。

一、NAOの問題
 1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、1991年7月には、ワルシャワ条約機構(WPO)が解散しました。そして、12月にはソ連が崩壊しました。だから、共通の敵のいなくなった北大西洋条約機構(NATO)も、同時に解体すべきだったのではないかと思います。でも、存続させたばかりではなく、逆に徐々に拡大させたことは、世界平和のための国連憲章の精神に反するものだったのではないかと思います。
 特に、NATOがロシアを取り巻くように次々に拡大していったことは、ロシアにとって脅威であるということに思いを致す必要があると思います。今回の戦争は、それがなかったということだと思います。

 フランスの大統領候補ルペン氏は、13日の会見で「NATOの統合軍事機構から離脱したい」と自主独立外交の持論を述べたといいます。24日の決選投票を前にして、左派票の獲得を意識してのものだといわれていますが、過去のインタビューでは、その理由として、「NATOはソ連と戦うために作られたからです。今日、ソ連は存在しません」と説明していたとのことです。アメリカを中心とするNATO諸国は、このことをごまかしてきたのではないかと思います。
 また、2008年にルーマニアのブカレストで開かれたNATO首脳会議で、ブッシュ・アメリカ大統領が、ウクライナとジョージア(旧グルジア)のNATO加盟を提案したとき、ドイツとフランスがロシアに配慮し、アメリカの提案に反対したという事実も、忘れられてはならないと思います。ロシアは長年、NATOの東方拡大を自国の命運がかかった重大問題だと訴えてきたのです。1990年のドイツ統一交渉の際、アメリカが、NATOを東方に拡大しないと約束したことは、複数の関係者が証言しています。文書になっていないから約束はなかったなどと言ってごまかしてはならないと思います。

 また、軍事同盟は、核兵器とともに、話し合ってなくしていくべきものだと思います。


二 軍事演習
 また、NATOが、ロシア周辺で軍事演習をくり返したことも、ロシアにとっては脅威であったと思います。特に、未加盟のウクライナを含む多国籍軍による軍事演習や、ウクライナ国内での軍事演習は、ロシアにとっては受け入れられないものだろうと察します。軍事演習が、ウクライナ戦争の引き金になったという側面も考慮すべきだと思います。

三 アメリカによる内政干渉
 ウクライナでは2014年に、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が解任され、親米派のリーダーが誕生するマイダン革命といわれる政変がありました。それには、アメリカが深く関わっており、「違法な政権転覆」であったというロシア側の主張には、考慮されるべき事実があるのではないかと思います。
 アメリカにも、CIAが関わっていたという情報があるようですし、バイデン大統領が副大統領時代に6回もウクライナを訪問しているという事実も、見逃すことが出来ません。
 さらに、息子のハンター・バイデンが、2014年にウクライナ最大手の天然ガス会社ブリスマ・ホールディングスの取締役に就任し、月収500万円という破格の報酬を受けていたということや、ハンター・バイデンが、ウクライナにおける生物兵器研究所に投資をして関与していた疑惑をニューヨーク・ポスト紙が、報じていたということ、また、ハンター・バイデンが取締役を務めるブリスマ・ホールディングスには、脱税などの不正疑惑があり、ウクライナの検察当局の捜査対象となっていたということ、そして、2015年、バイデン副大統領はポロシェンコ大統領に働きかけ、同社を捜査していたショーキン検事総長の解任を要求し、ポロシェンコ大統領に「解任しないなら、ウクライナへの10億ドルの融資を撤回する」と迫って、検事総長解任に成功したと言われていることなど、いろいろな報道があります。どれも真相は、私にはわかりませんが、アメリカがウクライナの政変に無関係であるとは思えません。 
 さらに、バイデン大統領が副大統領時代に、ポロシェンコ大統領に働きかけて、ウクライナ憲法に「NATO加盟」を努力義務とすることを入れさせたなどという報道も、ロシアの不満や不信感を高めることになったのだろうと思います。

 さらに、国連安保理は3月11日、「米国がウクライナで生物兵器を開発している」と主張するロシアの要請で、公開の緊急会合を開きましたが、そこで、ロシアのネベンジャ国連大使は、ウクライナで渡り鳥やコウモリ、シラミなどを利用した生物兵器開発計画があり「テロリストに盗まれ使われる危険性が非常に高い」と主張したといいます。
 これに対し、ウッドワード英国連大使トーマスグリーンフィールド米国連大使が、「偽旗作戦」であるとし、「安保理を利用して偽情報を正当化し、人々を欺こうとしている」と非難したようですが、疑わしい部分があることは否定できないと思います。

四 武器供与 
 ロシア軍のウクライナ侵攻前、バイデン政権がウクライナに対戦車ミサイルシステム(シャベリン)を配備したといいます。詳しいことはわかりませんが、もし、そうだとすれば、それがロシア軍のウクライナ侵攻につながったことも考えられ、見逃せないと思います。ロシアがつかんでいる情報を確認し、検証すべきだと思います。

五 ノルドストリーム2の運用を阻止しようとするアメリカ
 ウクライナの戦争で、見逃してはならないのが、ロシアとドイツを結ぶ「ノルドストリーム2」というロシア産の天然ガスを送るパイプラインの問題です。建設はすでに完了しているということですが、原発の運転停止が予定されるドイツにとっては、天然ガスは重要なエネルギー源であり、ロシアに依存せざるを得ない状況にあるといいます。だから、「ノルドストリーム2」の計画を推進してきたのでしょうが、アメリカは、こうしたロシアとドイツの接近に、以前から強い警戒感を示していたといいます。それは、2018年に、当時のトランプ大統領が「悲劇だ。ロシアからパイプラインを引くなど、とんでもない」と発言していることにあらわれています。
 ヨーロッパが、エネルギーをロシアに依存することは、アメリカの利益を損ない、ヨーロッパとの結束の弱体化につながると考え、アメリカは「ノルドストリーム2」などを対象にした制裁を打ち出してきたのです。
 2019年7月には、アメリカの国務省が「ノルドストリーム2」の計画は「欧州、特にウクライナに対する政治圧力の道具を提供することにより、欧州のエネルギー安全保障を弱体化する」と主張し、当時のトランプ大統領も、「ベルリンはロシアの捕虜となっている」と述べたといいます。それに対し、メルケル首相は、「我々は独立した独自の政治を行い、我々が独自の決定を下している」反論したといいます。自由競争を建前とするアメリカの、こうした妨害的対応が、ロシアにとって許しがたいものであることは、誰でもわかるのではないかと思います。


 以上のようなことを踏まえれば、プーチン大統領も、自国の利益を主張する他の国の政治家とそれほど変わらない存在であることがわかると思います。コンチャロフスキー監督がいうように、「今起きているのはロシアとウクライナのコンフリクト(衝突、紛争)ではなく、ロシアと米国のコンフリクト」なのだと思います。でも、そうしたことを踏まえないから、プーチン大統領が他国を侵略する「悪魔」に思えるのだと思います。現に、週刊誌の新聞広告には、プーチン大統領を悪魔扱いするような文言が溢れています。

 ロシアのウクライナ侵攻が、どのようなやりとりや状況のなかで決定されたのかは、私には分かりませんが、ロシアを屈服させなければ解決しないということで、ウクライナ軍を支援することは間違っていると思います。国の利益を背負う政治家ではなく、第三者的立場に立つ法律家が主導し、法や道義・道徳に基づく話し合いをすれば、歩み寄れると思います。歩み寄らなければいけないと思います。「力が正義」であってはならないと思います。
 

 

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