先日、朝日新聞は社説に「日韓の首脳外交 改善の歩みを止めるな」と題する下記のような記事を掲載しました。
”日韓関係は、岸田首相と尹錫悦大統領の間で大きく改善した。これを首脳同士の個人的な関係に終わらせてはならない。改善の歩みを揺るぎないものに定着、深化させる努力が両国に求められる。
岸田首相が先週、ソウルを訪問し、尹大統領と会談した。日韓の協力と交流の持続的強化を確認。第三国に滞在する日韓両国民の保護のための相互協力の覚書も結んだ。
歴史問題などで戦後最悪とも呼ばれるまでに悪化した日韓関係は、一昨年に大統領に就任した尹氏が対日重視を鮮明にし、改善に向け大きく動き出した。岸田首相もそれに呼応し、両氏の対面での首脳会談は計12回に及ぶ。
・・・
改善の流れが後戻りしないよう、首脳が交代しても往来を絶やしてはならない。緊密な首脳外交により、双方の国民が関係改善の利益を実感できる合意や発信を積み重ねていく取り組みが必要だ。”
この、「日韓関係改善」の動きの背景には、後述するようなアメリカの方針転換が背景にあると思います。親日的な尹錫悦氏が大統領になったことと併せて、アメリカの二国間主義から多国間主義への転換が影響していることを見逃してはならないと思うのです。
歴史問題で戦後最悪と呼ばれるまでに悪化した日韓関係が、その歴史問題を不問に付すようなかたちで改善されることは、基本的にはあり得ない話だと思います。
日本を「反共の砦」にすることを意図したアメリカ(GHQ)の方針転換によって、公職追放を解除された戦争指導層が関わった「日韓条約」は、植民地支配の謝罪や反省を欠き、日韓の間にさまざまな問題を残したと思います。
徴用工の問題のみならず、いわゆる「従軍慰安婦」の問題も、それぞれの実態調査や当事者に対する聞き取り、日本側の謝罪などがないまま、1965年の日韓請求権協定に、交渉当時の関係者が、かなり強引に「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、……完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と盛り込み、すべて解決済みの問題にしてしまったと思います。
でも、被害者の立場に立てば、被害者を代表していない政治家の締結したそうした協定は受け入れ難いものであり、協定締結時には、知られていなかった問題もあるといいます。
だから、日本の差別的な植民地支配に苦しんだ人たちとの関係改善は、きちんとした個々の問題の反省や謝罪抜きにはあり得ないと思います。日本の35年間にわたる過酷な植民地支配の問題は、日韓請求権協定ですべて解決済みとしたり、”岸田首相と尹錫悦大統領の間で大きく改善”できるというような簡単な問題ではないということです。
また、歴史の修正を見直すことなく、日韓関係を、”岸田首相と尹錫悦大統領の間で大きく改善”させることによって、南北朝鮮の統一がなくなると同時に、日本と北朝鮮との平和条約の締結もなくなるということを忘れてはならないと思います。
にもかかわらず、現実には、さまざまな面で新たな日韓関係が構築されているようです。そして、それが、アメリカの方針転換、すなわち 二国間主義から多国間主義への転換に基づいていると思われるのです。
かつて、日本の安全保障は、日米安全保障条約だけでした。しかし、最近、「日米韓」や「日米比」、「日米壕印(QUAD)」など多国間の防衛協力体制が次々に構築され、関係強化が進められています。
それがアメリカの方針転換に基づくものであることは、先日、シンガポールで3日間にわたって開かれた、アジア安全保障会議(シャングリラダイアローグ)」で、オースティン米国防長官が、「インド太平洋地域の新たな結集(The New Convergence in the Indo-Piacifc)」と題する講演をおこなった内容でわかります。
オースティン国防長官は、二国間主義(Hub-and-Spokes Alliance System )から多国間主義(Multilateral Alliance System) への転換の重要性を訴えたのです。
したがって、最近の自衛隊の防衛力強化や近隣諸国との軍事的協力関係の強化、共同訓練などは、主として中国を敵とするこの多国間主義(Multilateral Alliance System)の構築なのだと思います。
さらに、海上保安庁が、太平洋島しょ国との関係を強化し、パラオ幹部候補の「日本留学」を受け入れるなどの対応始めていることも、この多国間主義(Multilateral Alliance System)の構築の一つだと思います。
でも、こうした多国間主義(Multilateral Alliance System)の構築は、私は、中国との戦争の準備体制の強化であり、平和に役立つものではないと思います。
また、こうした多国間主義(Multilateral Alliance System)の構築が、関係国の国民の議論に基づくことなく進められていることも、重大な問題だと思います。
アメリカの国防総省は、先日、フィリピン軍の近代化のために5億ドル(約768億円)の軍事援助を行うと明らかにしましたが、そのフィリピンのマルコス大統領が、アジア安全保障会議(シャングリラダイアローグ)で発言した内容も見逃せません。
マルコス大統領は「南シナ海問題の平和的解決を訴える」と題する基講演を行ったといいますが、講演後『ファイナンシャル・タイムズ』記者から「もし中国海警の放水砲がフィリピンの船員を殺害した場合、それはレッドラインを越えたことになるのか、またいかなる行動によってフィリピンは米国に対し相互防衛条約の適用を求めることになるのか」と問われた際、「当局者か一般市民を問わず、意図的な行為によってフィリピン国民が殺害された場合、それは我々が戦争行為と定義するものに極めて近くなり、その定義に従い我々は対応することになる。同盟国も同じ基準を有するであろう。それはほとんど確実にレッドラインとなるであろう」とかなり踏み込んで発言したと報道されています。
フィリピンがこうした考え方で、中国との武力衝突に突入場合、関係国がすべてそれに関わることになるのが多国間主義(Multilateral Alliance System)ではないかと思います。
多国間主義の関係を構築すれば、それぞれの国の立場で動くことが許されなくなるのだと思います。だから私は、多国間主義の関係構築は、アメリカによる軍事的締め付けの強化であるともいえるように思います。
こうした国の基本姿勢や、国家関係などかかわる重大問題が、合意を前提にして、国民のあずかり知らないところで語られ、進められていることに、もっと注意を払うべきだと思います。各国の主権や外交権に関わる問題だからです。また、メディアがこうした主張に反応しないことも見逃すことができません。
私は、朝・昼・晩の食事時にニュースを見るのですが、どの局も、事件・事故のニュースが多く、事件・事故の専用チャンネルか、と思うことがあります。
アメリカの戦略で、対中戦争の準備が着々と進められ、逃れることができない体制が構築されつつなるのに、日本の国民が知っておくべきことがほとんど報道されず、日本の未来を、第二次世界大戦後も戦争や武力行使をくり返してきたアメリカに委ねるような現状は、変える必要があると思います。
今、戦争を必要としているのは、アメリカであり、アメリカによって、戦端を開く準備が進められているように思います。
下記は、オースティン国防長官が、”The New Convergence in the Indo-Pacific”と題する講演で語った、二国間主義(Hub-and-Spokes Alliance System )から多国間主義(Multilateral Alliance System)への転換に関する内容の一部です。An official website of the United States Government に講演内容全文があります。
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'The New Convergence in the Indo-Pacific': Remarks by Secretary of Defense Lloyd J. Austin III at the 2024 Shangri-La Dialogue (As Delivered) June 1, 2024 As Delivered by Secretary of Defense Lloyd J. Austin III SINGAPORE
And this new convergence is producing a stronger, more resilient, and more capable network of partnerships. And that is defining a new era of security in the Indo-Pacific.
You know, in the past, our experts would talk about a "hub-and-spokes" model for Indo-Pacific security. Today we're seeing something quite different. This new convergence is not a single alliance or coalition, but instead something unique to the Indo-Pacific—a set of overlapping and complementary initiatives and institutions, propelled by a shared vision and a shared sense of mutual obligation.
This new convergence is about coming together, and not splitting apart. It isn't about imposing one country's will; it's about summoning our sense of common purpose. It isn't about bullying or coercion; it's about the free choices of sovereign states. And it's about nations of goodwill uniting around the interests that we share and the values that we cherish.
そして、この新しいコンバージェンスにより、より強力で、より回復力があり、より有能なパートナーシップのネットワークが生まれています。そして、それがインド太平洋地域における安全保障の新時代を決定づけている。
ご存知のように、過去には、私たちの専門家はインド太平洋の安全保障の「ハブ・アンド・スポーク」モデルについて話していました。今日、私たちは全く異なるものを目の当たりにしています。この新たな収束は、単一の同盟や連合ではなく、インド太平洋地域に固有のものであり、共通のビジョンと共通の義務感によって推進される、重複する補完的な一連のイニシアチブと制度である。
この新しい収束は、バラバラにするのではなく、団結することです。それは一国の意志を押し付けることではありません。それは、私たちの共通の目的意識を呼び起こすことです。いじめや強制ではありません。それは主権国家の自由な選択についてです。そして、それは、私たちが共有する利益と私たちが大切にしている価値観を中心に団結する善意の国々についてです。
さて、この共有ビジョンの中心にあるのは、一連の共通の原則です。米国を含むインド太平洋全域の国々は、主権の尊重と国際法の尊重という不変の信念を中心に収束しつつある。商取引とアイデアの自由な流れ。海と空の自由。そして、開放性、透明性、説明責任。すべての人に平等な尊厳を。そして、紛争の平和的解決は、強制や紛争ではなく、対話を通じて行われることです。そして、いわゆる罰によってではないことは確かです。(機械翻訳)
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