現在の日本で、ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ戦争を、経済や政治や領土などをめぐる対立関係の問題としてとらえることなく、あれこれ解説する専門家と言われる人たちは、私にはアメリカのプロパガンダ発信要員のように思えます。
昔の人たちは、精神病や精神疾患に陥った人を、悪魔憑きであるとか、悪霊に憑りつかれた人であると受け止め、祈祷やまじないやおはらいで対応したといいます。でも、文明の発展とともに、徐々に精神病や精神疾患が、複雑な人間関係や環境のなかで、身体の病気と同じような病いに陥いることになったものと理解されるようになり、祈祷やまじないやおはらいではなく、医学的治療の対象とされるようになったといわれます。
うつ病に代表されるように、人間関係のトラブルや大きなストレスを感じさせる状況を乗り越えることができれば、精神病や精神疾患の多くは、症状が改善できると考えられるようになったのです。
そのことを確認したいと思っていたら、宮城大学、長岡芳久氏の「精神疾患患者の理解の変遷に関する研究」という論文があり、その文章の中に下記のような記述がありました。
”フロイトのこれまでの精神疾患患者の理解と大きく異なる点は、患者が示す精神症状を単にその時点で捉えるだけではなく、症状を発達史的に解釈して主として幼児期の対人関係から説明しようとした。患者の生活歴により重点をおいた考察がなされるようになり、患者を歴史をもった存在として受け止められるようになった。フロイトの患者の内面に深く関心を向ける分析療法は、医師の人間としての存在を通じての患者の人間存在の開示の可能性を生み出し、“精神疾患は人間の病気”であるという確信を強くした。こうしたフロイトの患者を理解していく方法は、現象学や実存哲学主義の影響を受けながら、人間学派とよばれる精神疾患患者の全存在として理解しようとする動きにつながっていく。人間学とは、妄想などの症状を含めて人間関係や葛藤などを生きた生活史としてとらえて精神病者の全存在を理解しようとする立場とされている。”
とありました。
こうした複雑な人間関係や社会関係のなかで精神病や精神疾患に陥いる人がいるように、世界でくりかえされている戦争や紛争も、国家や組織の複雑な国際関係のなかで起きる病気のようなものだと思います。相互の利益の対立や領土をめぐるトラブル、権利や義務の主張の対立、相手国の軍事攻撃に対する不安等が原因で、戦争や紛争が起きるのだと思います。だから、それを明らかにし、停戦や和解につなげる議論をすることが、学者や専門家の仕事だと思います。また、メディアの責任だと思います。戦争や紛争は、相互の関係に問題があるということであって、アメリカやウクライナやイスラエルが主張するように、相手側が100パーセント悪く、話し合いでは解決できないというようなものでは決してないと思います。
でも、相互の関係の問題と受け止められたくないアメリカやウクライナは、ロシアを100パーセント悪いことにするために、プーチン大統領を「悪魔のような独裁者」にしたてあげ、ロシアのアスリートをオリンピックから排除するだけでなく、ロシア人をあらゆる組織や団体から切り離し、人的交流や情報のやりとりを遮断しました。プーチン大統領が、「なぜアスリートを政治に巻き込むのか」と非難したことは、どちら側が話し合いでの解決を拒否しているのかということを示していると思います。また、イスラエルが国際司法裁判所の「措置命令」を無視し、「ハマス殲滅」の方針で攻撃継続していることも、イスラエルが話し合いでの解決を受け入れないということを示していると思います。後ろ暗いところがあるように思います。
メディアにくり返し登場した安全保障の研究者や、国際政治が専門の大学教授などは、ウクライナ戦争に関わる米露のトラブルやウクライナと一体となったNATO諸国の軍事訓練、攻撃体制の準備状況などを隠してウクライナ戦争を語っていたところに、それが窺えると思います。
また、同じようにパレスチナのハマスが何時どのように結成され、なぜ過激化したのかということについての分析や考察、特に、イスラエルやイスラエルを支援してきたアメリカの諸政策の問題がメディアで取り上げられることはほとんどなかったと思います。そんなことでは、ハマスを理解することはできず、「ハマス殲滅」というイスラエルの方針を変えさせることもできないと思います。ハマスを知れば、「ハマス殲滅」が不可能であり、したがって、「ハマス殲滅」は、イスラエルの攻撃の継続を意味し、「パレスチナ人殲滅」につながる戦争犯罪の追認になってしまうと思います。
そういう意味で、日本の国際政治や安全保障の専門家・学者は、いまだに、 精神病や精神疾患に陥った人を、悪魔憑きであるとか、悪霊に憑りつかれた人であると受け止め、祈祷やまじないやおはらいで対応しようとしていた時代のレベルの解説をしていると思います。
現在の戦争の場合は、精神疾患おける祈祷やまじないやおはらいにあたるのが、武器の供与や財政支援という戦争支援策だと思います。
国際社会における戦争や紛争も、相互の関係の問題であり、必ず、経済的利益の対立や領土の問題、権利や義務の法律的問題、安全保障の問題その他があるのだと思います。それらを考慮して、理解を深め、戦争や紛争を解決に導くのが、 国際政治や安全保障の専門家・学者の責任であり、それを取り上げるのがメディアの仕事だと思うのです。戦争や紛争当事国の一方の側の支援の必要性を語るような解説や報道などもってのほかだ、と私は思います。はやく、祈祷やまじないやおはらいに夢中になった時代の対処の仕方を乗り越え、平和を取り戻すための議論をすべきだと思います。
宮田律氏が明らかにしている、下記のような事実をきちんと受け止めなければ、ハマスを理解することはできず、イスラエルとパレスチナの戦争を解決することはできないと思います。ハマスを過激化させたのはイスラエルやイスラエルの側につき、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への支援基金拠出を停止した国々だと思います。下記は、「イスラム 超過激派」宮田律(講談社)からの抜萃です。
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第五章 世界の「核爆弾」としてのパレスチナ・テロとイラクの泥沼
イスラエルの暗殺作戦
2000年9月にインティファーダが再開された後、イスラエルによって暗殺されたパレスチナの指導者は100人以上を数える。パレスチナ人指導者に対する暗殺は、1980年代の最初のインティファーダの後でも行われた。イスラエルによりパレスチナ人暗殺は長い歴史を持っているのだ。1972年7月にはPFLP(パレスチナ解放人民戦線)のジャーナリストであるガッサン・カナファニをベイルートで自動車に仕掛けた爆弾で殺害した。同じ年の10月には、ファタハ指導者のワエル・ズワイテルをローマで射殺した。1973年4月には詩人でジャーナリストのカマル・ナセルと他の2人のファタハのメンー、ムハンマド・ナッジャールとカマル・イトワンをそれぞれベイルートの自宅で暗殺した。同年6月にはPFLPのムハンマド・ブーディアがパリで爆殺されている。そして1992年にはレバノンのヒズボラの事務局長であるアッバース・ムサウィが殺害された。さらに1995年には、パレスチナの「イスラムのジハード」の最高指導者であるファトフィー・シャカーキーがマルタ島で殺害されたのである。
イスラエルはこれらの暗殺の口実を「テロリストの撲滅」としているが、殺害方法と動機はその時々で異なっている。1970年代には小グループによる巧妙な暗殺であったのが、最初のインティファーダ(1987~1992)の際には、殺害は「ミスタラヴィム」というイスラエル軍の特別部隊によって行われるようになった。2000年に始まるインティファーダでは、狙撃手を使ったり、また戦闘機や軍用ヘリによるミサイル攻撃を行うようになったりした。パレスチナ人指導者の暗殺は、政治的、あるいは軍事的に重要な人物である場合に行われている。
こうした暗殺を「イスラエルの文化」と語るパレスチナ人もいる。いずれにせよ、パレスチナ人との和平交渉に消極的なシャロン首相が、パレスチナを混乱状態でさせ続けるために暗殺作戦を展開している意図は否定できない。シャロン首相のガザ返還計画は、西岸拡張計画」でもある。シャロン首相には、ガザを返還することによって、ヨルダン川西岸ではイスラエルの権益を強く主張したい意向がある。ブッシュ大統領は2003年、西岸を分けるため、シャロン首相が治安のために必要とする分離壁の問題を批判したが、大統領選挙の年である2004年にはことさらその問題に触れようとはしなかった。後で詳述するが、アフマド・ヤースィンを暗殺したことで、シャロン首相はその「戦いの場」を西岸・ガザを超えて拡大しようと考えたのかもしれない。イスラエルのハマス研究者は、ヤースィンの暗殺によって、ハマスは諸外国でもユダヤ人を標的にしたテロを行うようになるかもしれないと語った。実際、この指摘のとうり、2004年10月にはエジプトのリゾート地タバで、イスラエル人観光客をねらったテロが発生し、イスラエル人30人以上がなくなっている。
シャロン首相にとっては、ハマスによるテロの拡大は、ブッシュ大統領の「対テロ戦争」の提唱と重なって都合がよいのことなのかもしれない。ヤースィンを暗殺した後で、シャロン首相は「われわれにとってのビンラディンを殺害した」と発言した。「対テロ戦争」に従事することによって、シャロン首相は、ガザでの軍事的抑圧、西岸の支配地の拡大に正当性が与えられると考えた。パレスチナ人がイスラエル人の人口を越すことを防ぐさまざまな手段を講じることとも許容れると考えているに違いない。しかし、シャロン首相の手法は、ハマスのテロを長期化させ、パレスチナ情勢を一層悪化させるものであることは間違いない。
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