真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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陸軍登戸研究所 偽札量産 杉工作と松機関

2008年11月12日 | 国際・政治
 陸軍登戸研究所が偽札を作っていたことはよく耳にするが、実際はどうであったのか、「陸軍登戸研究所の真実」元陸軍登戸研究所所員 伴繁雄(芙蓉書房出版)より、その目的や計画、実施の状況に関する細部を抜粋する。「第7章 対支経済謀略としての偽札工作」の一部である。
---------------------------------   一、偽造紙幣の開発

 昭和14年、陸軍省、参謀本部は対支経済謀略実施計画を作成した。
 その方針、目的は
「蒋政権の法幣制度の崩壊を策し以てその国内経済を攪乱し同政権の経済的戦力を潰滅せしむ」というものである。
 実施要領は次のようなものであった。


 一、本工作の秘匿名を「杉工作」と称し、偽札の製作は登戸研究所に於いて担 
   当し、必要に応じ大臣の許可を得て民間工場の全部又は一部を利用すること
   ができる。
 二、登戸研究所に於いて製作謀略資材に関する命令は、陸軍省及び参謀本部
   担当者に於いて協議の上、直接登戸研究所長に伝達するものとする。
 三、支那における本謀略の実施機関を
「松機関」と称し、本部を上海に置き支部
   又は出張所を対敵の要衝地域並びに情報収集に適したる地点におくことがで
   きる。
 四、本工作は敵側に対し隠密かつ連続的に実施し、経済謀略を主たる目的とす
   る。これがため法幣を以って通常の商取引により軍需、民需の購入を原則と
   する。
 五、獲得した物資は軍の定むる価格を以って各品種に応じた所定の軍補給廠に
   納入し、得たる代金は対法貨打倒資金に充当するが、別命あるときはこの限
   りでない。
 六、「松機関」は松工作資金並びに獲得した資材を明確にし、毎月末資金並びに
   資材の状況を陸軍省及び参謀本部に報告するものとする。
 七、「松機関」は機関の経費として送付した法幣の2割を自由に使用することが
   できる。


・・・

 第3科は印刷班、製紙班、中央班の3班から構成されていた。秘匿を要した登戸研究所のなかでも第3科の秘密保持は厳重をきわめ、所内でも印刷班は南方班、製紙班は北方班と呼ばれていた。第3科の構成員は、次の通りである。(略)

・・・

 かくして製作された偽札の流通は、支那の金融を攪乱して法幣の信用を失墜させただけでなく、偽札使用によって現地での物資の調達に大いに寄与した。


 二、ニセ札の量産と「松機関」

 昭和19年に入ると、登戸研究所への米機の襲撃回数は頻繁となった。鉄筋コンクリート建て研究室のガラス窓や、急増の木造建物も、ところどころ損害を受けるようになった。研究所の第1科、第2科、第3科は分かれて、疎開せざるを得なくなった。
 第3科は福井県武生市に疎開し、当時原料不足で稼働していなかった加藤製紙工場を借り上げ、印刷工場の約半数に担当する機材とともに技術者が疎開した。しかし、受け入れの工事は遅々として進まず、資材はスムーズに搬入できず、完成と稼働を迎えないうちに終戦となった。
 日中戦争当時、中国大陸では、国民政府の通貨である「法幣」と、共産党軍が解放区で発行する「辺区券」、さらに日本軍の軍票などが、通貨戦争を演じていた。しかし、大半の地域では法幣が圧倒的に優勢で、物資の現地調達は法幣でなければ困難であった。このため泥沼状態の戦局打開に悩む陸軍は、経済戦の一環として「偽造券による法幣崩壊工作」の構想を進めた。その実務を命ぜられたのが第3科長山本主計少佐であった。
 偽造ニセ札作戦は試作に失敗を重ね、試行錯誤の連続を経てようやく量産体制を整え、製品を「杉機関」に渡すまでには長時日を要したのである。

 偽札工作の宰領には、陸軍中野学校の出身者があたり、毎月2回ほど長崎経由で海路上海へ届けられた。
 現地では「松機関」が流通工作を担当した。機関長は陸軍参謀の岡田芳政中佐だったが、実質上の責任者は軍の嘱託で阪田誠盛という実業人であった。阪田氏は、流通工作のため上海を中心とする暗黒街を支配していた秘密結社「青幣」の幹部の娘と結婚して協力をとりつけ、青幣の首領で蒋介石の腹心でもあった杜月笙の家に「松機関」の本部を置いていた。
 敵側の偽札に対する摘発、妨害はなく消極的であったばかりか、偽札の横行に対し「流通過程に於いて、むしろ適当であったと思える」との発言も関係者側にあった。とくに香港占領後、第3科は敵側の印刷機、資材を入手して偽造工作をしていたが、国民政府としても真贋判別ができない以上、黙認して、逆に偽造を利用してインフレ防止に役立たせていたという判断が適切であった
。(以下略)

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