真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

HPは hide20.web.fc2.com
ツイッターは HAYASHISYUNREI

霧社事件(台湾山地原住民の抗日蜂起)の真相

2010年12月22日 | 国際・政治
 「戦争を語り継ぐ」のMLで「日本人は負け戦の悔いはあっても、反省がない」という主張や「戦争の後始末をきちんとすることは、平和と民主主義を掲げる国の基本である」という主張があることを知った。さまざまな戦後処理を「パンドラの箱」と扱う限り戦後は終わらない、という。その通りだと思う。そうしたことと同じような意味で、「霧社事件」の真相もしっかりとらえ直さなければいけないのではないかと思う。

 下記は「昭和5年台湾蕃地 霧社事件史」(台湾軍司令部編刊)から「第1節 事件ノ原因」の部分を抜粋したものである。その大部分が「蕃地ハ剽悍ニシテ闘争ヲ好ミ…」とか「馘首闘争ヲ敢テスル奇怪ナル習癖…」とか「世ヲ呪ヘル数名ノ不良蕃…」、「労役ヲ好マサル傾向…」、「性質不良ノ為…」、「性兇悪ニシテ酒ヲ好ミ……」、「素行常ニ治マラス…」、「兇行ノ本能的衝動ニ燃エ…」、「昔日ノ放肆ナル生活ニ憧憬シ…」等々、山地原住民の習癖や個人的性格、個人的事情に事件の原因があったかのように考えていたことが読み取れる。
 事件につながった日本側の問題としてあげているのは、木材の運搬にあたっては、引き摺ってはいけない、と命令をしたこと、賃銀支払が遅れたこと、また、事件の中心的人物「モーナルダオ」の妹と結婚した巡査が妻を捨てて行方不明になったことの3つと、吉村巡査殴打事件に絡む問題を合わせて4つである。しかしながら、「証言 霧社事件 台湾山地人の抗日蜂起 アウイヘッパハ」解説-許介鱗(草風館)を読むと、真実はかなり異なるものであったことが分かる。そして、そのとらえ方の違いの中に、当時の日本人関係者の台湾山地原住民に対する差別意識や人権無視の実態が透けて見える。台湾軍司令部の文書の中にはない「事件の原因」の主なものを、アウイヘバハの証言の中から拾うと、下記の通りである。

1 銃の押収と貸与制度
 狩猟と農業を生業とする山地人にとって「銃は男の魂であった」という。台湾総督
 府は、山地人からその銃を押収し、官による貸与制度を実施したのである。しか
 も、貸与するか否かの決定権は巡査の手に握られた。巡査は容易には銃を貸し
 てくれなかったという。今まで狩猟によって得られたもので日用必需品を手にして
 きたが、それが出来なくなって生活が行き詰まったというのである。そして、巡査
 の任意の決定権が、様々な問題を発生させたようである。

2 出迎えの強制
 駐在所に警察の上級の偉い人が巡視に来るたびに、山地人は呼び出され、整
 列させられ、出迎えをさせられたという。どんなに忙しいときにも呼び出され、自
 分の仕事ができなかったというのである。また、接待のご馳走のために、山地部
 落のニワトリなどが持って行かれたともいう。大切な財産を取られても、我慢する
 しかなかったというのである。

3 山地女性の差別的利用
 台湾総督府は通訳の必要性と理蕃政策推進のために、警察官吏に山地女性と
 結婚させる政策をとり「蕃婦関係」を官の政策の一環に組み入れた。しかし、それ
 は正式な「婚姻関係」とはみなされないので「蕃婦関係」と称されたようである。そ
 して、多くの山地人女性が捨てられた。同書には、山地人女性を捨てた何人か
 の巡査の実名があげられている。また、籍をいれてもらうことができなかったた
 めに、生まれた子は法律の適用を受けることができなかったという。それだけで
 はなく、巡査の強姦や強姦まがいの行為によって生まれた私生児が、山地のあ
 ちこちにいたともいう。

4 巡査の暴力
 巡査は短気で手がはやく、ちょっとしたことでも鼻血が出るまでぶったという。吉
 村巡査殴打事件では、「酩酊セル頭目ノ長男”ダダオモーナ”ハ旧知ノ間柄ナル
 ニ依リ来リテ執拗ニ酒ヲ奨メタルカ”ダダオ”ノ手ハ豚ノ血ニ塗レ不潔ナリシヲ以
 テ之ヲ断リシコトヨリ遂ニ父子3名ニテ同巡査ヲ地上ニ捻チ伏セ殴打セル事件ナ
 リ」とあるが、事実は、タダオモーナが血のついた手で差し出したドブ酒と手掴み
 の豚肉の饗応を、吉村巡査が所持するステッキでたたき落としたために、その好
 意と尊厳が傷つけられたタダオモーナが殴りかかったという。(この事実は「台湾
 の霧社事件-真相と背景-」森田俊介著(台湾の霧社事件刊行会)
「樺沢巡
 査部長の陳述要旨」に
も記述されている)

5 義務出役と無賃労働
 下記には、山地人は賃銀支払いの遅延に不満をもったとあるが、駐在所の建築
 や道路の補修などでは、各戸順番の割り当てがあり、義務出役、無賃労働が多
 かったという。おまけに大事なときにも自分の仕事を後回しにせざるを得ず、困っ
 たようである。また、巡査による賃金のピンハネや意図的な支払い操作があり、
 支払われる賃銀に差がつけられたりもしたという。さらには、巡査の妻も家事を手
 伝わせることがあったという。

 下記は、事件の背景にあるこうした事実に触れていない。そこに、日本の「理蕃政策」の問題や台湾統治の問題があるのだと思う。
---------------------------------
                   第3章 出兵ノ経緯

第1節 事件ノ原因(附図第2参照)

蕃地ハ剽悍ニシテ闘争ヲ好ミ且伝来ノ迷信ニ依リ吉凶禍福等極メテ簡単ナル日常ノ事象ニ関シテモ馘首闘争ヲ敢テスル奇怪ナル習癖ヲ有シ一度其性癖勃発シ更ニ群集心理ノ之ニ雷同スルヤ意外ノ結果ヲ惹起ス又蕃人ノ生活状態ハ今尚原始的ナル血族団体ヲ基調トシ彼等カ自社以外ノ者ニ対スル関係ハ普通ノ個人的関係ヨリモ、寧ロ直ニ蕃社全体トシテノ問題タルコト多シ今回ノ事件ノ如キモ其惨害比較的甚大ナリシハ右ノ理由ニ基クモノトス
事件ノ直接原因トナリシモノハ予テ官憲ニ快トセス且世ヲ呪ヘル数名ノ不良蕃丁等カ謂ハハ出草(首狩り)ノ道連トシテ当時小学校宿舎用木材運搬ノ苦痛カ各社蕃人ヲ通シ相当不満ノ因トナレルヲ巧ニ利用シタルコトカ頑迷ニシテ反抗心ニ燃エタル「マヘポ」社頭目「モーナルダオ」ノ意志ニ合シ突発的ニ犯行ノ挙に出タルモノニシテ短時日ノ間ニ談議実行セラレタルモノノ如ク其主ナルモノヲ挙クレハ左ノ如シ
一、建築材料運搬ノ苦痛並賃銀支払遅延ニ対スル不平
  兇行ノ原因トシテ出役ノ苦痛ハ各蕃人ノ共ニ愬フル所ニシテ最近一年間ニ約
  九件ノ出役工事アリ就中最近ニ於ケル小学校宿舎用木材ノ運搬ハ端ナクモ彼
  等ニ兇行ノ動機ヲ与ヘタルモノノ如シ蕃人ハ元来勇猛ヲ以テ誇トナシ労役ヲ好
  マサル傾向アルト工事ノ関係上彼等ノ生業 繁閑ヲノミ顧ミルコト能ハサリシ事
  情アリ加フルニ木材運搬ニ際シテ蕃人ハ之ヲ引摺ル習慣ナルニ拘ラス材料ノ
  損傷ヲ慮リ担送ヲ命令シタルコトアリ又賃銀支払モ遅延勝ナリシヲ以テ蕃人ノ
  間ニ漸次不平ノ念ヲ抱カシムルニ至レリ

二、「ピホサッポ」及「ピホワリス」等ノ画策
  「ホーゴー」社蕃丁「ピホワリス」(推定20歳)ハ少年ノ頃ヨリ性質狡猾ニシテ官
  命ニ従順ナラス嘗テ其従兄「ピホナウイ」カ家庭ノ不和ヨリ萬大社蕃童ヲ馘首セ
  ル廉ニ依リ極刑ニ処セラレタルヲ憤リ常ニ反官的態度ヲ示シ長スルニ従ヒ益々
  兇暴ヲ振舞ヒ大正14年3月萬大社蕃人ノ出草セルニ加ハリタル廉ニ依リ労役
  30日ニ処セラレ又昭和3年自ラ出草ヲ企テ露見シテ処罰セラレタルコトアリシ
  カ数年前萬大社蕃婦ト入夫婚姻シ既ニ5歳ノ長子アルニ拘ラス性質不良ノ為
  其妻トノ折合思ワシカラス同社ニ居堪ラス事件2日前「ホーゴー」社ニ帰リ悲観
  懊悩ノ日ヲ送リツツアリタリ又「ホーゴー」社蕃丁「ピホワリス」(推定31歳)ハ前
  記「ピホナウイ」ノ従兄ニシテ性兇悪ニシテ酒ヲ好ミ其一家ハ明治44年頃官ニ
  抗シタル廉ニ依リ全部極刑ニ処セラレタルモ当時彼ハ麟家ニ在リテ処分ヲ免レ
  タルモノニシテ成長スルニ及ヒ官憲ヲ恨ムコト甚シク機会アラハ内地人ヲ鏖殺
  (オウサツ)セント豪語シ居レル模様ナリ而モ素行常ニ治マラス家庭不和ニシテ妻
  ハ之カ為縊死スルニ至リ社衆ノ信用ヲ失フコト甚シク自棄的態度トナレリ(蕃人
  ハ女性ノ信頼ヲ繋キ得サルカ如キハ最大ノ恥辱トス)    
  此等失意ノ蕃人ハ兇行ニ依リ其鬱憤ヲ晴ラスヲ常トシ最モ警戒ヲ要スヘキモノ
  ニシテ事件勃発前両名ハ極度ノ精神的苦悩ニ堪ヘス兇行ノ本能的衝動ニ燃エ
  居リシハ蔽フヘカラサル所ナリ尚「ホーゴー」社ニハ右両名ノ外数名ノ不良蕃
  丁アリ何レモ労働ヲ厭ヒ木材運搬等ニ就貴不平不満ヲ漏シ10月24日後述ノ
  如ク「ピホサッポ」ノ家ニ落合ヒ酒興ニ委セテ慷慨中血気ニ逸リ兇行決行ノ議ヲ
  進メテ遂ニ「マヘボ」社頭目「モーナルダオ」ヲシテ事ヲ擧ケシムルニ至リシモノ
  ナリ


三、「マヘボ」社頭目「モーナルダオ」ノ反抗心
   「マヘボ」社頭目「モーナルダオ」(推定48歳)ハ兇行ノ総指揮官ニシテ性兇
  暴傲岸ニシテ争闘ヲ好ミ17,8歳ノ頃ヨリ剽悍ヲ以テ附近ニ名アリ父「ルーダオ
  パイ」ノ死後頭目ヲ継承シテヨリ勢力隆々トシテ霧社蕃中之ニ比肩スル者ナシ
  明治44年内地ヲ観光セルモ頑迷ニシテ時勢ヲ解セス昔日ノ放肆ナル生活ニ
  憧憬シ内地人ヲ駆逐シ官憲ノ覇絆ヲ脱セント企図シ居リシモノノ如ク大正9年
  及同14年ノ両度自ラ主謀者トナリテ反抗ヲ企テタルモ事前ニ発覚シ事ナキヲ
  得タリ又其妹ハ曩ニ巡査某ノ妻トナリシカ其後同人カ妻ヲ捨テテ行衛不明トナ
  リシ事等ノ関係ニ就キテモ反感ヲ抱キ居リシ模様ナリ更ニ「モーナルダオ」ノ決
  ヲ速ナラシメタルモノハ吉村巡査殴打事件ニシテ彼ハ其非ヲ悟リ酒一瓶ヲ駐在
  所ニ贈リテ謝罪ノ意ヲ表シタルモ聴カレヅ今後如何ナル処罰ヲ受クルヤモ計ラ
  レスト私ニ危惧シ居リシモノノ如シ


 附記 吉村巡査殴打事件トハ事件約20日同巡査カ小学校宿舎木材製材所ニ向フ途次「マヘボ」社ヲ通過スルヤ時恰モ同社ニ於テハ一蕃丁ノ結婚式ニテ蕃人約40名集合シ酒宴中ニシテ酩酊セル頭目ノ長男「ダダオモーナ」ハ旧知ノ間柄ナルニ依リ来リテ執拗ニ酒ヲ奨メタルカ「ダダオ」ノ手ハ豚ノ血ニ塗レ不潔ナリシヲ以テ之ヲ断リシコトヨリ遂ニ父子3名ニテ同巡査ヲ地上ニ捻チ伏セ殴打セル事件ナリ

而シテ既ニ述ヘタルカ如ク「マヘボ」社ハ製材地ノ入口ニ当リ出入蕃人ハ悉ク同社ヲ通過シ木材運搬ノ苦痛ヲ訴フルヲ目撃シ一層反抗心ヲ昂メ此ノ如クニシテ「モーナルダオ」一家カ懊悩焦心ノ状態ニ在リタル際「ホーゴー」社蕃丁「ピホサッポ」「ピホワリス」等ノ運動会ヲ機会ニ内地人ヲ殺戮セントスルハ謀議ヲ受ケ機乗スルヘシト為シテ之ニ同意シ大事ヲ惹起スルニ至レルカ如シ
 


 http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。旧字体は新字体に変えています。青字が書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 霧社事件(台湾山地原住民の... | トップ | ”霧社事件”天皇の「ご下問」... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際・政治」カテゴリの最新記事