ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【私を離さないで】重いテーマを不思議な世界観で包む

2009-04-20 23:35:14 | Weblog
わたしを離さないで
カズオ イシグロ
早川書房

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カズオ・イシグロ著の「私を離さないで」は、物語の根底に「生命」を取り巻く問題を据えている。ところが、後半に入るまで、そのテーマに気づかされずに読まされてしまう。

主人公が子ども(生徒)であり、子どもの視点で語られる思い出話のため、懐かしさや郷愁を感じているうちに、すっかり騙されてしまうのだろう。

主人公のキャシーは、「ヘールシャム」という場所にある施設にいる生徒。
友人たちのこと、先生のこと、施設でのルールなどなどを語っていく。
「何か特別なことが隠されている」ということは滲ませるが、「謎」は、なかなか明らかにされない。正直なところ、私自身は「少し前置きが長いな」とさえ感じてしまった。

しかし、ある章が始まると、意外なほどあっさりと「謎」が明らかにされる。
目の前に掛かっていたベールが上がり、登場人物たちの世界がはっきりするのだが、そこが結末ではない。登場人物たちも知らないもう1つの「謎」が、最後の最後まで隠されているからだ。

すべてが明らかにされたとき、読者は、改めて、「生命とは?」「生きることとは?」「運命とは?」など、重いテーマと向き合わなくてはならない。
読者自身が、人生の過程で少しは考えたことがあるかもしれない哲学的なテーマだ。

物語は終わっても、主人公のキャシーの「その後」を想像させ、読者に考えさせる。
その余韻の残し方は、かなり渋い。


コメント
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