![]() | 最後の瞬間のすごく大きな変化 (文春文庫)グレイス・ペイリー文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
『私ふうに言うなら「キッチンテーブルライター」のひとりである。』
朝日新聞(09年3月21日付)に、作家の落合惠子さんが、アメリカの女性作家グレイスペイリーのことを、こんなふうに書いていた。
それまで、グレイスペイリーという作家の名前すら知らなかった。
「キッチンテーブルライター」という表現から、まず、私が想像したのは、料理研究家の栗原はるみさんのような女性だ。
季節の野菜や果物を使って、ちょっと工夫し、味も見栄えも素敵な料理を作ってしまうような女性。「家族のために美味しいものを」と考える心温かい母親をイメージした。「キッチンテーブル」が「料理」を連想させたのだ。
しかし、グレイスペイリー著の短編集「最後の瞬間のすごく大きな変化」を読んで、最初のイメージは外れていたことが分かった。
短編1つひとつに描かれているのは、「明るい家庭」ではなく、自身や家族に問題を抱えている人びとだ。登場人物の女性は、おそらく、グレイスペイリー自身でもある。
夫婦、親子、近所の人びととの関係、日常生活で起きた出来事などが描かれているが、その背景には「人種問題」「貧困」「犯罪」「麻薬」「殺人」などが透けて見える。
そして、いくつかの物語は、救いようもない悲惨な結末で終わってしまう。
全体的に暗く、重い空気が流れているのだ。それでも、読んだ後、不思議なことに、それほど沈んだ気持ちにはならない。グレイスペイリーの視線が、どんな悲惨な出来事に対しても、サバサバしているからだろう。
グレイスペイリーは、人生の中で多くの辛さや悲しさを通り過ぎて、強さや、たくましさを身に着けた女性という印象を受けた。
人生の大先輩から、励まされているような気持ちがしてきた。