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雪のところへ向かっている淳の、携帯電話が鳴り響いた。
運転中のため、イヤホンに繋いで通話開始ボタンを押す。
「もしもし、雪ちゃん?今そっちに向かおうと思ってたところなんだ。まだ病院?」
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電話先の彼女は、もうすでに家に帰って来たのだと言った。
そして淳の居場所を聞き、いきなり会おうと言ってきた。
「どこで会おうか?映画でも観る?」
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雪は家の近所がいいと言った。そして結局大学の構内のベンチで待ち合わせとなった。
淳は堅い口調の彼女に幾らか疑問を抱いたが、了承してそのまま電話を切った。
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その時淳は、彼女の異変よりも彼女から彼に会いたいと言ってくれたことに機嫌を良くしていた。
軽く鼻歌を歌いながら、彼女の待つ大学まで車を走らせる。
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その頃雪は、構内のベンチで膝を抱えて座っていた。両膝の間に顔を埋めている。
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先学期が始まる少し前の記憶を辿る。
奨学金が青田先輩ではなく、自分に回ってくると聞かされたのは、聡美からの一本の電話だった。
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そして学期が始まってすぐ、太一から聞かされたのだ。
遠藤さんが先輩のレポートを失くして、教授陣や学生たちから大ヒンシュクを買ったのだと。
しかし雪は考えれば考える程、違和感が募っていくのを感じていた。
遠藤から話を聞いた直後はショックの方が大きかったが、冷静に考えてみるとどうにもおかしい。
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レポートを捨てたという話が真実ならば、成績が加味される前の時期にその事件が起こったということだが、
その頃雪と先輩は付き合うどころか、会話することも挨拶することもなく、気まずい関係だったのだ。
そんな状況の時に、成績を決める重要な期末レポートを始末し、奨学金を仲の悪い後輩に譲るだなんて、ありえるのだろうか?
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それでは遠藤が嘘を‥?
雪はレポートのことから徐々に、今までの遠藤の先輩に対する態度の方へと考えを移していった。
青田先輩を前にした時、明らかに遠藤は妙な反応をした。いつも変に思っていたのだ、その怯えたような態度を。
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その態度が、青田先輩から脅迫されていたからだとしたら‥。
もしそうならば、青田先輩から紹介された事務補助のアルバイトもその恩恵なのだろうか。
だから遠藤はいつも雪を邪険にし、いちいちつっかかってきたのだろうか。
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なぜなら遠藤から見たら雪は、
”デキる彼氏のお陰で奨学金もバイトも簡単に手に入れた無能な女”だから‥。
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ぎゅっと、雪は腕に力を込めた。
真実を知りたい気持ちと、どこか恐れている気持ちが、雪に自らを抱かせる。
雪ちゃん、と不意に名前を呼ばれた。
ビクッと幾分驚きながら、雪が顔を上げる。
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先輩は雪に近寄りながら、どうしてそんな格好で座ってるのと軽く言葉を掛けた。
「足痛くない?」
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そう言って笑う先輩の笑顔は、いつも通りのそれだった。
そのまま雪の隣に座った先輩は、遠藤の容態を彼女に尋ねる。雪が良好だと答えると、安心したように頷いた。
「あ、俺があげたカチューシャしてる」
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可愛いよ、と言って先輩は雪の頭を撫でた。
ニコニコと笑顔を浮かべながら、「さっきの電話、急にどうしたの?」と優しく問いかける。
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雪はその笑顔を前にして、気持ちが揺らぐのを感じた。
頭を撫でられるその手の優しさに、穏やかに注がれるその眼差しを前にして。
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奨学金が自分のところに回ってきたのは、先輩がレポートを捨てた果ての結果論だ。
自分が口を挟むべきことではないのかもしれない。このまま口を噤んで、心を閉じて、
いつも通り映画とかカフェとか、平凡なデートをして過ごすべきなのかもしれない。
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けれど‥。
デキる彼氏がいてよかったなぁ?
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今直面している問題は、雪と先輩だけの問題ではなく、遠藤が絡んでいる。
自分だけの妥協と判断で終わらせるわけにはいかなかった。
雪は真実を知るべきであり、先輩にこの状況を説明してもらう必要があった。
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雪はぎゅっと拳を握ると、意を決した。
一つ息を吸ってから、「先輩」と声を掛ける。
「去年レポートが無くなったのは、先輩が故意にやったことだそうですね」
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突然切り出された雪の告白に、淳は目を見開いた。
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雪はそんな彼の表情を見て、慌てて補足する。
「‥先輩の課題をどうこう言いたいんじゃないんです。
そのことで遠藤さんから、ちょっと変なこと聞いちゃって‥」
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変なことって?と淳が聞く。
雪は彼の出方を窺いながら、慎重に言葉を選んで話を続けた。
「先輩が自分のレポートを捨てた理由が、奨学金を私に譲るためだって‥」
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雪の言葉を聞いた淳の、瞳から光が消えた。
静謐に広がっていた海が、ざわざわと波立ち始める。
「‥事実なんですか?」
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真っ直ぐ自分を見つめる雪を前にして、淳の脳裏には以前彼女が口にした言葉が蘇った。
大喧嘩の後、真夜中の病院で彼女は言った。これからは何でも口にしましょうと。
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不満も不安も、一つ一つ話し合っていこうとあの時二人で決めた。
これまでのように隠して埋めて誤魔化すことも出来たが、淳は彼女に向き合って口を開いた。
「‥うん」
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淳の肯定に、雪が目を丸くする。
夕焼けの空のその先に、夜の帳が待っている‥。
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<糾問>でした。
淳は雪の髪の毛が好きですねぇ。今まで雪に上げたプレゼント、髪に関係しているものばかり‥。
あのフワフワヘアーがツボなんでしょうね、自分がサラサラだから余計にでしょうか。
さて記事の方は、大波乱真っ只中~
次回は<生き方の否定>です。
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