Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

迫る黒い影

2013-12-20 01:00:00 | 雪3年2部(雪淳喧嘩~亮の涙)
ふむっ!と雪は気合を入れて、メールを作成していた。



送信先は青田先輩。

その文面はこんな感じだ。

先輩 明日時間ありますか?



ようやく心の整理がついてきた雪は、明日先輩に会って話をしようと思っていた。

気合を入れてメールを打ちながらも、どこか少し緊張しているのだった。



ふと隣室を窺うと、そこはしんと静まり返っていた。

今まで秀樹が居た空間にぽっかりと穴が空いて、雪の心にもどこか隙間風が入り込む。

  

雪は幾分寂しさを感じながら、塾へ向かう道すがら聡美と電話をして歩いた。

「もしもし聡美、どうした?今日は塾だけど。うん、うん。あ、後で雨が降るみたいだよ」



雪が通りすぎたアパート‥そこは秀樹の住んでいた部屋の真ん前の部屋なのだが、

そこから女の甲高い笑い声が響いていた。以前秀樹を変態呼ばわりして警察に言いつけた、あの女だった。

「あの変態引っ越したよ。あたしもちょっぴり手を加えたけどね。

クソ暑いのに窓も開けられないこっちの身にもなれっつーの」




女は真ん前に住んでいた変態が居なくなったことに安心し、堂々と下着姿で窓を開けていた。

しかしよく見ると元秀樹の部屋は窓が少し開いていて、そこに一人の男が潜んでいた。



ニヤニヤと笑いながら、女の姿を眺めている。



黒い影が、とある大事件まであと少しと迫っていた。

一見平穏なアパートに、女の笑い声が響き渡る‥。













一方ここは河村亮の住む下宿。

時刻はもう塾の就業時間に迫っていた。

「クッソ、また遅刻だ!ったく何でこんなに散らかってんだよ!」



亮は廊下に置かれた沢山の物に躓きながら玄関へと急いだ。

ふと、傍らに置きっぱなしにしてある荷物が目に入った。



青田淳の父親からの、誕生日プレゼントだった。

亮は舌打ちをして、その箱を足で蹴った。その表情を怒りで歪めながら。

「青田のオッサン、度々こんなもん送りつけやがって‥白々しい‥」




深く暗い記憶が脳裏をかすめる。



亮は自分の左手を見ながら、

その手がギブスと包帯で包まれていた時のことを思い返した。



あの時、青田会長は亮の傍らに座りながら、目をつむっている彼に向かって呟いた。

私は‥君たちなら、淳の友達になれると思っていた‥。‥すまなかった。



ごめんな、と青田会長は消え入りそうな声で呟いた。

亮は目をつむっていたが、その声ははっきりと聞こえていた。



握りしめた右手に、無数の血管が浮かんでいた。

深く暗いところにある記憶が、未だに亮を捕らえては心を揺さぶる‥。







その後亮は、会長から贈られたそれを小太り君にあげた。

彼は頬を上気させながら突然のプレゼントを喜んだ。



未だ亮が何者なのか知らない小太り君は、その細い目をさらに細めて推理する。

「‥河村クン、何者かと思っていたけど、ミュージシャンとみたぞん! 「ちげぇよデブ



小太り君は亮の指を見ながら、長くてピアノに向いているし‥と言うが、亮は取り合わなかった。

プッと吹き出しながら、小太り君は笑う。

「お世辞ですけどーッ!プププ!」     



そのまま背を向けて去って行く亮に、小太り君が「いってらっしゃい」と声を掛ける。

亮は頭をぐしゃぐしゃと掻きながら、イライラを連れて廊下を歩いて行った。



一度思い出した記憶は、なかなか消えてはくれなかった。

亮は力の入りきらない左手で拳を固めながら、ふと高校時代の自分を思い出していた。










腕前はメキメキと上達し、ますますその才能が世間に認められていっていた時期だった。

亮を見てくれていたピアノの先生は、雑誌のインタビューでも亮のことを「ただ一人の特別な弟子」だと豪語した。



眠そうな亮はその態度こそ良くなかったが、実力がある分それさえも容認されていた。

コンクールもきっと良い結果が出る、先生は亮の才能を信じている‥。



笑顔で亮の背中を押す先生に、亮は自信たっぷりに心配しないで下さいと言った。



その指は鍵盤に吸い付くように音楽を奏でる。

亮はピアノを弾くことに困難を覚えたことが、正直一度も無かった。

「チョロいぜ」



得意気にそう言って笑う自分の姿が、脳裏にこびりついている。

過去と呼ぶにはあまりにも生々しいその記憶が、亮を縛り続けている。







「!!」



ビクッと亮は身を揺らした。

記憶の海を揺蕩っていた思考が、急に現実に引き戻されたみたいだった。

携帯電話が大きな音を立てて鳴っている。亮は着信画面を見て、溜息を吐きながら電話を取った。

「亮‥元気?」



懐かしいが疎ましい声が聞こえる。おずおずと話し出した電話先の男は、亮が地方に行っている時の元同僚だった。

亮は既に彼とは縁を切ったと思っていたため、電話を掛けてきたことに対して憤慨していた。

しかし元同僚は亮の言葉など耳に入らないかのように、話を続けようとする。

「そっちでちょっと面倒見てやったからって、オトモダチ面してんじゃねーぞコラ。

ママの元から離れられねーような奴が独り立ちなんて無理だっつーの!人間なぁ、生きてきた地を離れたらオシマイなわけよ!」




亮はくどくどと説教を垂れた。

しかし電話先の彼は「今まだ都内にいるの?」と切迫した様子で続けてくる。

「あのさ‥俺、お前が上京したってことしか‥都内のどこにいるのかは知らないんだ、本当に‥」



亮は彼の話の要点が掴めず疑問符を飛ばしていたが、

続けられた彼の言葉に、思わず息を呑んだ。

「社長がお前捕まえて殺すって」



亮は思わず電話を耳元から離して、目を剥いた。

電話口からは依然として、怯えたような様子で彼が話し続けている。

「で、でもさ!俺は本当に都内に居るってことしか知らないし、大丈夫だよね!

都内っていっても広いんだろう?」




彼は亮が怒っているかどうか、気にしていた。

”河村亮は都内にいる”と、白状してしまったからだった。

「社長完全にキレてて、今すぐ金が要るみたいなんだ。ごめんな、亮」



彼の顔面は、殴られた痕が腫れ上がり傷だらけだった。その傷が、社長の憤慨を物語る。

空を見上げると、暗く厚い雲がだんだんと空を覆っていくのが見て取れた。

その不穏な曇り空に、彼の謝罪が吸い込まれていく‥。

「ごめんな‥」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<迫る黒い影>でした。

何やら不穏な影が近づいてまいりましたね。

この亮の元同僚さんは、日本語版ではカットされていましたが、亮に一度「社長が怒り狂ってる」と電話を掛けてきています。

参考記事→<ファースト・コンタクト>

随分と長い布石でしたね‥。

次回は<曖昧な関係>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!