Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

内観

2013-12-19 01:00:00 | 雪3年2部(雪淳喧嘩~亮の涙)
都内某所、地価の高いこの土地に、高く聳える高級マンションがあった。



塵一つ落ちていない綺麗な室内、だだっ広い空間。

そこはしんと静まり返っていた。



大きなベッドの上に、一人の男が横たわっていた。

眠っているわけではない。



人は寂しさや孤独を感じた時、自然と胎児の時の姿勢を取ると言う。

彼は無意識ながらその体勢のまま、もう長いことそうしていた。



その表情は気怠げで、何度か夢と現実のはざまを行き来したのかもしれなかった。

視線の先に、自分の姿を映している。



ここに寝転ぶと、自然と壁に掛かった鏡と向き合うことになる。

青田淳は静かな部屋でずっと長い間、自分の姿を眺めていた。


ふと鼓膜の奥で声が響いた。脳裏には彼らの姿も浮かんで来た。

どうして人の気持ちが分からない?!



そう言ったのは、幼い頃から生き方の指標としてきた秀樹兄だった。

その方がおかしいです、よっぽど!



そう言ったのは、自らが同族だと思っている彼女、赤山雪だった。


鏡の中の自分が、彼を見た。

目の前に居る男に、じっと視線を絡ませる。

俺がおかしい?



彼は鏡から目を逸らした。

自らの内面を覗き込むように、その静謐な闇を覗き込むように、淳は内観した。

俺のやり方が? 考え方が?



ピンと張られたような水面に、その内省は一滴の雫を垂らした。

王冠のように飛沫は広がり、水面に波紋を広げていく。

どうして? どこが‥?



視線を上げた彼は、子供のような顔をしていた。

それは小さな子供が親に素直な疑問を投げかける時のような、純粋な表情だった。


そして彼は自らの思考の中に深く潜って行く。

脳裏に浮かぶのは、彼を疲弊させる数多くの人々のことだ。淳は、彼らが理解出来なかった。

本当におかしいのは、自分達の方じゃないのか



そして記憶は、一年前の球技大会に飛んだ。

まず浮かんできたのは、口元を手で押さえた横山翔の姿。彼が自分の悪口を口を滑らせて叫んだ後の記憶。



知ってる。



あの時淳の視線を捕らえたのは、呆れ笑うような彼女の表情だった。

俺が貶された時、喜んでたの知ってる。



知ってる。



あの後横山に声を掛けていたこと。

肩を叩き、口元に浮かべた笑みを。

   


淳は彼女の姿に、無意識な既視感を感じていた。





自分の中にある、黒いその姿。

  


彼女が気に障った。


理由はいくつかあったが、自分の中のもっと根本に響くところが、居心地悪くざわめいていた。

うざ




彼女を前にする度、幼稚な姿が前に出た。


挨拶をしようとした彼女に向けた、あからさまな無視。



グループワークにて、自分よりも優れた彼女に対する嫌がらせ。




とにかく彼女が気に触った。


グループワーク後の打ち上げの席でだって、とかく彼女の振る舞いは不自然に感じた。

  


彼女を前にする度、静謐な泉に石が投じられ、水面は揺らいだ。


そしてやって来た、彼女との全面対決



自分でもコントロールが出来なかった。

積もってきた彼女に対する悪感情が、それまで溜まってきた鬱憤が、他人の前であるに関わらず溢れ出るようだった。




しかし論破された彼女が見せた表情に、その反応に、淳は視線を奪われる。





怒るかと思っていた淳の予想を、彼女は裏切った。

そしてその瞳が沈んだ色を帯びていくのを、まるでスローモーションを見るように眺めていた。










心が震えた。

自身はまだ気がついていなかったが、その震えは、自分と似たものに邂逅した喜びに震えていた。

今まで彼女を目にする度に感じていた不愉快を、その違和感を、思考はなぞった。




無理に笑うのも、観察するようなその視線も、全て見透かしたかのようなその表情も、

気に触っていた全ての要素が、その時の彼女の反応で消し飛んだのだ。











水面の波立ちが、徐々に静謐に戻っていく。

それでも元と同じではない。その泉の底に何か光るものが、ぼんやりと現れていた。









その後、廊下で彼女とすれ違った。

幼稚に無視をしたあの時と、同じシチュエーションだった。



また彼女が荷物を取り落とし、それを拾うのもまた、

去年と同じシチュエーションだった。

  


あの時は書類を蹴った。彼女にとにかく腹が立って。




しかし今回、淳は足元に転がったペンに手を伸ばした。彼女に対する苛立ちは無かった。




目の前の彼女にそれを渡す時、淳の心の中に巣食っていた彼女への敵意が、すっと無くなるのを感じていた。




しかし、この時淳はまだ気がついていない。





彼女を同族だと認識し始めていることに。

自らの孤独の共鳴を彼女に感じるのは、もう少し先の話だ。


淳の思考の中で、彼女が揺れる。


暗く静謐なその空間に灯った、一点の光明が。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<内観>でした。

自己の世界で完結していた彼が、初めて自らに疑問を持つという記念すべき回でした!

結局結論は出ないのですが、ここで雪に対する感情が変化していくのが見て取れますね。

そして3部プロローグに繋がっていくこの流れ!セピアで紡がれる淳視点の物語は、本当に秀逸だなぁと思います。

少しでもその世界観を壊さず表現出来ていたらいいなぁと、当ブログとしては願うばかりであります‥(^^;)


次回は<迫る黒い影>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!