夕方降っていた雨はすっかり上がり、強い風に吹かれ厚い雲も流れていったらしい。
夜空には半月に近い月が浮かんでいた。

雪の家に向かう暗い夜道を、亮と淳は歩いていた。
亮は雪の鞄を持ち、淳は背中に酔いつぶれた彼女を背負っている。
「みっともねーなぁ、女のくせに」

呆れた顔で舌打ちをしながら隣を歩く亮に、「お前は何でついてくるわけ?」と淳は質問した。
亮はしゃきっと背筋を正し、ピシッと淳に指を向けて言う。
「酔っぱらい女にお前が何かしやしねぇか監視してるんだよ!マナーだよマナー!」

淳は溜息を一つ吐くと、お前には関係ない、と言った。
「さっきは雪の手前、お前のくだらない冗談も聞き流してたけど、あんまり調子に乗るんじゃない」と続けて釘を刺す。
「勝手に言ってろし~。オレがお前を信じてないってだけだし~」

おちゃらけたようにそう口にする亮に、淳は苛つきを感じながら口を開こうとした。
しかし背中で雪がもぞもぞと動いたので、淳はそのまま口を噤んで再び前を向く。

そんな彼の横顔を、亮もまた苛立ちを抱えて見つめていた。
険しい視線が彼に刺さる。

亮はその焦点を少し後ろにずらした。
するとそこには酔いつぶれた彼女が映り出す。亮は二人の姿を見つめた。

亮は二人を見た時に感じるモヤモヤとした気持ちを持て余していた。
それはまだ言葉にするには曖昧で、そしてどこか疎ましい‥。

亮が持っている雪の鞄の中で、先ほどからずっと携帯電話が震えていたのだが、彼らはそれに気が付かなかった。
そして雪の家の窓下に一人の男が佇み、侵入を試みようとしていたのだが、
男は淳と亮が近づいてくるのに気がつくと足早に去って行く。

そんなことを知る由も無い亮が、モゾモゾと動く雪に向かって絡み出した。
「ったくコイツ!何でそんなに飲んだんだよ?」 「お前が飲ませたんだろ」

「別に無理矢理飲ませたわけじゃねーよ!ダメージヘアーが勝手に一人でグイグイやってたんだよ!」
その亮の言葉に、淳は「さっきから気になってたんだけど」と前置きして口を開く。
「そのダメージヘアって呼び方やめろよ」

「は?ダメージヘアだからダメージヘアって呼んでるだけだけど?
それじゃあ何て呼びゃあいいんだ?天然パーマとか?」

ふざける亮に向かって、淳は静かに口を開いた。
その瞳の中に、仄暗い怒りを込めながら。
「やめろと言ったらやめろ」

いつか見たような、”問答無用”のその視線。
亮の瞳に注がれた一瞥を、真っ直ぐに食らわされて彼は押し黙った。

亮はいけ好かないものを感じながらも、それきり反抗することは無かった。
閑静な道に、二人の足音だけが響く。

こうして淳と肩を並べて歩くのは、いつぶりだろうと亮は思う。
無言の空間はいつかの過去を引きずり出し、彼に対して抱いていた思いを蘇らせる。

「あのさ、お前」と亮が口を開く。
淳は横目で彼の方を窺う。

亮は前を向いたまま言葉を続けた。
ずっと淳に対して抱いていた、それは本音だった。
「マジでオレに謝ること何もないと思ってんの?」


亮はじっと、淳を見据えた。
恨めしそうなその視線は、あの時と同じ‥。

淳は暫しの間、亮との間に起こった過去のしがらみについて、思いを巡らせた。
彼の視線から目を逸らしたまま、暗い記憶を呼び起こす。


「‥じゃあ、」と今度は淳が口を開いた。
二人は足を止め、淳はわだかまりに触れるようにそっと言葉を紡ぐ。
「お前は‥?」

記憶の奥に沈めていた出来事が、走馬灯のように浮かんで消えた。

どちらの非も同じように、二人の間に広がる沈黙に溶けていく。

もういい、と亮は言った。
もうこれ以上は聞かない、と。

淳も何も言わなかった。
結局、互いにそのわだかまりに手を付けることなく、二人はまた黙り込んだ。

そして二人の数メートル先で、一人の男がその様子を窺っていた。
淳の背でモゾモゾと動く雪の姿を見た男は、思わずハッとした表情を浮かべる。

そんなことなど知る由もない雪は、
具合悪そうに「ううう」と唸りながら意識を取り戻した。

すると目の前にある淳の頭が視界に入ったのか、据わった目つきで睨みながら突然彼の髪を掴んで揺すり出す。
「何なのこれは!男のくせになんでこんな髪サラサラなの!私と換えて私と!あー超ムカツク~!!」

いきなりの雪の暴挙に、亮は思わず目玉が1,5倍(当社比)で飛び出した。
されるがままの淳を見ていると可笑しくなり、思わずプププと吹き出す。
「笑うなハゲ!」

ハ、ハ◯‥。

突然向けられたとんでもない悪口に、亮は我を忘れて雪の髪を掴んで引っ張った。
「はぁぁ?!ダメージヘアこらテメー!死にてーかこらぁ?!
テメーなんかダメージヘアじゃなくタワシ頭って呼んでやんよ!」

それから二人は暫し髪の毛を引っ張り合って毛なしけなし合った。
特に雪が亮の髪を強く掴むので、淳は亮がもがく度に振り回され、結果三人ともその場でワチャワチャすることになった。
「二人ともいい加減に‥」

仲裁しようと声を上げた淳だったが、次の瞬間思いも寄らないことが起こることになる。
一人の男が持っていた瓶を振り上げ、声を上げた。

「おいあんた達!!」

突然の大声に、淳と亮は思わず目を丸くした。
予想だにしない人物の登場で、もう一騒動起こることになる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<どちらの非>でした。
二人の間にある過去の出来事‥このやり取りをみるに、どちらにも何かしらの非がありそうです。
居酒屋での会話「最後まで自分の非は認めないんだな」 「元々オレに非なんかねぇんだよ」が何だか布石になっている気がしますね。
何にせよ過去が明らかになるのが楽しみです~(^^)
そして意識してなかったですが、亮が雪を「ダメージヘア」と呼ぶのを、先輩は初めて聞いたんですよね、この時。
雪の髪の毛(頭?)が好きな先輩には許せなかったんでしょうか‥「ダメージヘア」呼び‥。
自分と同等に考えている雪への中傷が許せなかった、というのもあるのかな‥。
さて次回は<蓮の登場>です。
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夜空には半月に近い月が浮かんでいた。

雪の家に向かう暗い夜道を、亮と淳は歩いていた。
亮は雪の鞄を持ち、淳は背中に酔いつぶれた彼女を背負っている。
「みっともねーなぁ、女のくせに」

呆れた顔で舌打ちをしながら隣を歩く亮に、「お前は何でついてくるわけ?」と淳は質問した。
亮はしゃきっと背筋を正し、ピシッと淳に指を向けて言う。
「酔っぱらい女にお前が何かしやしねぇか監視してるんだよ!マナーだよマナー!」

淳は溜息を一つ吐くと、お前には関係ない、と言った。
「さっきは雪の手前、お前のくだらない冗談も聞き流してたけど、あんまり調子に乗るんじゃない」と続けて釘を刺す。
「勝手に言ってろし~。オレがお前を信じてないってだけだし~」

おちゃらけたようにそう口にする亮に、淳は苛つきを感じながら口を開こうとした。
しかし背中で雪がもぞもぞと動いたので、淳はそのまま口を噤んで再び前を向く。

そんな彼の横顔を、亮もまた苛立ちを抱えて見つめていた。
険しい視線が彼に刺さる。

亮はその焦点を少し後ろにずらした。
するとそこには酔いつぶれた彼女が映り出す。亮は二人の姿を見つめた。

亮は二人を見た時に感じるモヤモヤとした気持ちを持て余していた。
それはまだ言葉にするには曖昧で、そしてどこか疎ましい‥。

亮が持っている雪の鞄の中で、先ほどからずっと携帯電話が震えていたのだが、彼らはそれに気が付かなかった。
そして雪の家の窓下に一人の男が佇み、侵入を試みようとしていたのだが、
男は淳と亮が近づいてくるのに気がつくと足早に去って行く。

そんなことを知る由も無い亮が、モゾモゾと動く雪に向かって絡み出した。
「ったくコイツ!何でそんなに飲んだんだよ?」 「お前が飲ませたんだろ」

「別に無理矢理飲ませたわけじゃねーよ!ダメージヘアーが勝手に一人でグイグイやってたんだよ!」
その亮の言葉に、淳は「さっきから気になってたんだけど」と前置きして口を開く。
「そのダメージヘアって呼び方やめろよ」

「は?ダメージヘアだからダメージヘアって呼んでるだけだけど?
それじゃあ何て呼びゃあいいんだ?天然パーマとか?」

ふざける亮に向かって、淳は静かに口を開いた。
その瞳の中に、仄暗い怒りを込めながら。
「やめろと言ったらやめろ」

いつか見たような、”問答無用”のその視線。
亮の瞳に注がれた一瞥を、真っ直ぐに食らわされて彼は押し黙った。

亮はいけ好かないものを感じながらも、それきり反抗することは無かった。
閑静な道に、二人の足音だけが響く。

こうして淳と肩を並べて歩くのは、いつぶりだろうと亮は思う。
無言の空間はいつかの過去を引きずり出し、彼に対して抱いていた思いを蘇らせる。


「あのさ、お前」と亮が口を開く。
淳は横目で彼の方を窺う。

亮は前を向いたまま言葉を続けた。
ずっと淳に対して抱いていた、それは本音だった。
「マジでオレに謝ること何もないと思ってんの?」


亮はじっと、淳を見据えた。
恨めしそうなその視線は、あの時と同じ‥。

淳は暫しの間、亮との間に起こった過去のしがらみについて、思いを巡らせた。
彼の視線から目を逸らしたまま、暗い記憶を呼び起こす。


「‥じゃあ、」と今度は淳が口を開いた。
二人は足を止め、淳はわだかまりに触れるようにそっと言葉を紡ぐ。
「お前は‥?」

記憶の奥に沈めていた出来事が、走馬灯のように浮かんで消えた。

どちらの非も同じように、二人の間に広がる沈黙に溶けていく。

もういい、と亮は言った。
もうこれ以上は聞かない、と。

淳も何も言わなかった。
結局、互いにそのわだかまりに手を付けることなく、二人はまた黙り込んだ。

そして二人の数メートル先で、一人の男がその様子を窺っていた。
淳の背でモゾモゾと動く雪の姿を見た男は、思わずハッとした表情を浮かべる。


そんなことなど知る由もない雪は、
具合悪そうに「ううう」と唸りながら意識を取り戻した。

すると目の前にある淳の頭が視界に入ったのか、据わった目つきで睨みながら突然彼の髪を掴んで揺すり出す。
「何なのこれは!男のくせになんでこんな髪サラサラなの!私と換えて私と!あー超ムカツク~!!」

いきなりの雪の暴挙に、亮は思わず目玉が1,5倍(当社比)で飛び出した。
されるがままの淳を見ていると可笑しくなり、思わずプププと吹き出す。
「笑うなハゲ!」

ハ、ハ◯‥。

突然向けられたとんでもない悪口に、亮は我を忘れて雪の髪を掴んで引っ張った。
「はぁぁ?!ダメージヘアこらテメー!死にてーかこらぁ?!
テメーなんかダメージヘアじゃなくタワシ頭って呼んでやんよ!」

それから二人は暫し髪の毛を引っ張り合って
特に雪が亮の髪を強く掴むので、淳は亮がもがく度に振り回され、結果三人ともその場でワチャワチャすることになった。
「二人ともいい加減に‥」

仲裁しようと声を上げた淳だったが、次の瞬間思いも寄らないことが起こることになる。
一人の男が持っていた瓶を振り上げ、声を上げた。

「おいあんた達!!」

突然の大声に、淳と亮は思わず目を丸くした。
予想だにしない人物の登場で、もう一騒動起こることになる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<どちらの非>でした。
二人の間にある過去の出来事‥このやり取りをみるに、どちらにも何かしらの非がありそうです。
居酒屋での会話「最後まで自分の非は認めないんだな」 「元々オレに非なんかねぇんだよ」が何だか布石になっている気がしますね。
何にせよ過去が明らかになるのが楽しみです~(^^)
そして意識してなかったですが、亮が雪を「ダメージヘア」と呼ぶのを、先輩は初めて聞いたんですよね、この時。
雪の髪の毛(頭?)が好きな先輩には許せなかったんでしょうか‥「ダメージヘア」呼び‥。
自分と同等に考えている雪への中傷が許せなかった、というのもあるのかな‥。
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