Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

治らない傷

2013-12-08 01:00:00 | 雪3年2部(負傷後~淳秀紀遠藤三つ巴)
「えっ?」



思いも寄らない淳の言葉に、思わず雪は声を上げた。

「‥‥‥‥」



身を乗り出した雪だが、彼は掌で顔を覆いながら俯いていた。ふぅ、と吐き出す息の音が聞こえる。

そして淳は掌を外すと、ゆっくりと自分の思いを語り始めた。

「もう‥今年が最後の学年なのに、会話もろくにしないまま‥

お互い良くない感情だけ持っている気がして」




「一緒に学校に通いたくて、俺なりにどうにか休学を止めさせたくて」



いつも気がつけば目が行って、無意識に彼女を探していたあの頃の自分。

見えない壁に阻まれるように、常に二人の間には距離があった。



向こう側へ行く為には、何らかのアクションが必要だった。

遠藤の罪、休学の話‥。降って湧いたような運命の悪戯。

淳は、これが最後のチャンスだと思ったのだ。







淳は改めて雪の顔を見て言葉を続けた。

あの時遠く離れていた彼女が今隣にいる。離すわけにはいかなかった。

「‥勿論間違ったことだと分かってはいたけど、あの時はこれしか方法が思いつかなかった。ごめん」



雪は言葉を失う。



目を見開いて自分を見ている彼女に、淳は向き合いながら続けた。俺が浅はかだった、と。

「だけど‥」と更に淳は続けた。正直な気持ちだった。

「少なくとも雪ちゃんの為を思っての気持ちだったということだけは、分かって欲しい‥」



その言葉に嘘は無かった。

一筋に彼女を見つめるその瞳は、偽り無く澄んでさえいた。



しかし雪にとって、それは詭弁に過ぎなかった。

そして偽りのない素直な気持ちだからこそ、許せないものがあった。

「‥私のためだなんて、そんなのただの言い訳です」



「先輩が私と学校に通いたいがために遠藤さんにレポートを捨てさせて、

学期の間中遠藤さんが非難されてるのを知らんふりしてたのも、全て私のためなんですか?

私のせいなんですか?!




全部間違っていると、雪はキッパリと言い切った。

遠藤への脅迫も、”お前のため”という大義名分で括る彼が信じられなかった。

「そうとも知らずに私は遠藤さんの前で先輩と笑ったりして‥。

遠藤さんがやけに私のことを嫌うのを、恨みすらしました!」




だんだんと声を荒らげていく彼女を前に、淳は目を瞑った。

瞳に宿った光が消え、瞼の裏には静謐な闇が広がる。



さきほど少し開いた心の扉を、淳は自らの意識の中で閉じた。

そして染み付いた習慣のように手を握り、「ごめん‥」と彼女に謝罪をした。

  

淳の目には怒りが宿っていた。

相殺された罪をいつまでも根に持ち、果てに暴露したあの無能な助手への怒りが。

淳の瞳が、暗く沈んだ色を帯びていく。

「遠藤さんが君に何を言ったか、大体察しはつく」



自分の罪については口にせず、脅迫されたことを嘆き、大方雪に対して侮辱でもしたんだろう。

淳はもう遠藤のことを口にするのは止め、雪の気持ちを慮って言葉を続けた。

「でも君のせいではないということは、分かっていてほしい。

雪ちゃんの努力を無視したわけでも決して無い」




淳は握った手に力を込め、言葉を続けた。

「もう半年前のことだ。俺が自分の課題を捨てただけに過ぎない」









雪の頭の中で、同じような場面が蘇ってくる。疑う必要のないくらい、判然とした既視感と共に。

もう一年前のことだ。既に過ぎ去った過去に過ぎない

  


目の前の彼が言葉を続ける。

「前にこんな風に言い争うのは止めようって言ったじゃないか。

これ以上誤解も嫌だし、距離が出来るのも嫌だ」







隠して、埋めて、誤魔化して‥。



過去のことは忘れようとかつて誓った。

けれど、膿んでいるのだ。

塞ぎきれない傷口が。治らないその箇所が。

拭い切れない彼への懐疑心が、再び顔を出す。




雪は静かに口を開いた。

「‥過ぎたことを水に流し続けるだけじゃ、

後々こんな風にもっとこじれてから直面することになるんですね




そのまま雪は席を立ち、帰りますと言って彼に背を向けた。

「ただ‥遠藤さんの話が本当なのか会って確認したかったんです」



早足でその場を後にする雪の後ろから、淳が彼女の名前を呼びながら走り寄る。

「雪ちゃん!」



手首を掴まれた雪だが、振り払う仕草はせずに振り返って口を開いた。

「ごめんなさい、どうしてもありがとうとは言えそうにないです」



もうこんなことしないで下さい、と言って雪は歩き出した。

彼女はそれきり、彼の方を振り返ることは無かった。



彼が彼女の名前を、蚊の鳴くような声で呟く。

「雪ちゃん‥」



彼女の足は止まらない。

徐々に小さくなる後ろ姿、だんだんと遠ざかっていく二人の距離。

「雪!」



思わずその名を叫んだ。

雪は小さな声で「‥後で連絡します」とだけ言うと、駆け足でその場を後にした。






沈み込んでいく砂の上を歩くような、どこか現実感の無い世界を雪は一人歩いていた。

心の中は様々な感情で混沌としている。

プライドがズタズタで頭が変になりそう

おかしな人に思えて来たし、結局その通りだし!

その上他の人に被害まで与えて




雪の脳裏に淳の姿が思い浮かんだ。

いつか夢の中で見た、黒い服を来て奇妙な笑みを浮かべている、あの彼が。

何かを与えられることに慣れたくなかったのに、

いつのまにか自然と、或いは知らず知らずの内に、先輩から与えられていた。




自分の努力への懐疑心  遠藤さんにあんな仕打ちをした先輩への失望

  

それなのに、と雪は自分の心に引っかかるものを感じていた。

思い浮かぶのは、さきほど先輩が口にした言葉だった。

少なくとも雪ちゃんの為を思っての気持ちだったということだけは、分かって欲しい‥



最後のチャンスだと思ったんだ!



心の中に混在する両極の感情に、今雪は振り回されていた。

それなのにそんな言葉に喜んで、密かに胸を震わせている自分自身



雪は矛盾した自分に、何よりも腹が立った。

走っても走っても沈み込んで行くような、答えの見えないその先へ、



雪はただがむしゃらに走って行った‥。


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<治らない傷>でした。

日本語版での今回の先輩のセリフ

「遠藤さんが雪ちゃんに何を言ったか大体予想はつく」と、

「でも雪ちゃんは絶対に何も悪くないから」は、ひっくり返っちゃってます。

↓この顔のところが「遠藤さんが‥」のセリフです。


細かい倶楽部~(10本アニメ~のメロディーで)



次回は<三つ巴>です。

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