Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

崩れゆく指標

2013-12-11 01:00:00 | 雪3年2部(負傷後~淳秀紀遠藤三つ巴)


淳は遠藤を見下ろした。

その表情には、ありありと憤懣が浮かんでいる。

遠藤はもう一度威勢よく彼に食って掛かろうとしたが、やはりその射るような眼差しの前で身を竦めた。

「遠藤さんはそこが問題なんです」



淳は遠藤に近づいた。

そして耳元に顔を寄せると、ゆっくりと強い口調で囁く。

「いつもその一瞬を我慢出来ない」



もう何度目です? と淳は言葉を続けた。

瞬きもせず、射竦めるように遠藤の方を凝視する。

「あの時ちゃんと話つけたでしょう。今さらこんな風に蒸し返されちゃ困りますよ。

今回は一体どうすべきですかね‥?




二つの瞳から与えられる、恐怖とそして警告。

思わず遠藤はぎゅっと瞳を閉じた。



そこへ、再び秀紀が二人の間を割って入ってきた。

「もうやめて!なんなのホントに!そんな怖い言い方しなくてもいいじゃない!」



淳は顔を顰めながら、「兄さんには関係ない」と言い捨てる。

しかし秀紀は譲らなかった。

「いや、関係ある!カードのことも、ムキになって言い過ぎたことも全部俺のせいなんだ。

俺のためにやったことなんだよ!」




秀紀は懇願した。

もう遠藤を責めないでやってくれと、こいつをここまで追い詰めたのは俺だから、と。

必死に頼み込む秀紀の背中を、遠藤は胸が詰まる思いで見つめている。



淳もまた、胸中複雑な思いで秀紀を見つめていた。

両手を合わせ哀願しながら、一生懸命遠藤を庇う秀紀の姿を。



どうか今回は許してほしい、と秀紀は尚も淳に向かって許しを請うた。

もし殴りたいなら子供の時のように、俺を殴ればいいと言って頭を差し出す。



そんな秀紀の後ろから、遠藤が彼の襟首を掴んで引き寄せた。

そこまでやる必要なんてないと、秀紀に向かって声を荒げる。

「お前正気か?!俺はお前にそんなこと頼んでねぇぞ!みっともない真似すんな!」



しかし秀紀は否定した。

心の中でずっと思っていたこと、常に隣に置いていたその責苦を、涙ながらに口に出した。

「だって‥俺が‥俺が全部悪いから‥俺がこんなろくでなしだから‥」



全部俺のせいだ、と言って秀紀は泣き出した。

子供のように大声を上げて泣きじゃくる彼を前に、遠藤は彼の背負っていたものの重さを知った気がした。



しかし淳の方を窺うと、彼は蔑むような目つきでその光景を見ていた。

遠藤がバツの悪そうな顔で俯く。

   

淳は一つ溜息を吐くと、吐き捨てるように言った。

「二人は一体何なの? まさかドキュメンタリーでも撮ってるつもり?



以前秀紀が言っていたセリフを、淳は引用した。

おい‥お前にはそんな人が傍にいるか? 

一緒にドキュメンタリーに出演したい女がいるのかっつーの!




淳は小馬鹿にしたように二人に向かって息を吐くと、

腕を組んだまま遠藤と秀紀を交互に見ながら続けた。

「どんなご大層な事情か知らないけど、兄さん、家はこのこと知ってるの?自分の状況分かってる?」



淳が家の問題を言及すると、遠藤は心が痛んだ。

青田淳と同じくらい裕福だった彼を、ここまで貧窮に追い込み、苦労をかけている原因は自分なのだ‥。



遠藤が口を開きかけると、それを遮るようにして秀紀が大きな声で言った。

「そ、そうさ!これが俺の生き方だ!」



秀紀は淳の前で頭を掻いて笑って見せた。

自分の人生はお前にとってはろくでもないものかもしれないが、世の中には色々な形の人生があるのだ、と言って。

「だからさ、もう怒るのはやめて、今回だけ許してくれよ。な?」



淳は腕を組んだままじっと見ていた。

目の前の秀紀を。



ヘラヘラと笑う彼に、昔の秀紀がオーバーラップする。

笑顔でいることだ!



淳は鼻で嗤った。

目の前に居る彼が、ボロボロの状態でだらしなく笑っていることに。



以前彼から教えられた処世術、”人前では何が何でも笑うこと。”

淳はそれが見事に裏切られたことを、目の前の落ちぶれた彼を見て知った。

「俺には”笑ってれば全て上手くいく”なんて言っておきながら、

兄さんを見てると、必ずしもそうではないみたいだね




淳のその言葉で、秀紀の笑顔が消えた。



戸惑う秀紀を前に、尚も淳は言葉を続ける。侮蔑を孕んだ視線を絡ませながら。

「兄さんの人生がどうなろうと構わないけど、よりによって遠藤さんと?

二人ともどうかしてる。見苦しいったらないよ‥」




淳の侮辱を前に、二人は俯き黙り込んだ。

言い返す言葉が無かった。



しかし続けられた淳の言葉は、明らかに行き過ぎた嘲罵だった。

「片やカード泥棒、片や下着泥棒。本当にご立派なドキュメンタリーだな」



その無情な罵倒に、思わず秀紀が声を荒げる。

「お前そういう言い方は無いだろう?!」



秀紀はもう一度、遠藤がカードを盗んだのは自分のためであることを説明し、

自分は下着泥棒じゃないと言って憤慨した。しかし淳は冷淡に言い捨てる。

「それは容疑が晴れるまでは分からないけど」



その言葉を聞いて、秀紀は暫し怒りを忘れ呆然とした。

三人の間に沈黙が落ちる。



「ハ‥ハハ‥そうだった。お前ってそういう奴だったよな」



秀紀は乾いた笑いを立てながら呟いた。

そして淳に向かって指を指しながら、声を荒げて詰め寄った。

「この前”お前は変わった”なんて言ったのは取り消すよ!

お前は何も変わってない。いや、更に酷くなった!」




秀紀は淳に向かって叫んだ。彼の抱える問題を。

「他人の気持ちが分からず、ただ仕返しをするだけで!

理解できなければすぐに見下すんだ、知ろうともせずに!」




淳は初め虚を突かれたような表情をしていたが、徐々にうんざりと首を振り始めた。

顔を顰め、己を批判する秀紀に自らの理論で反論する。

「兄さんこそ正気なの?あんな人間と惨めたらしくしてるより、家に帰った方が賢明だと思うけど」



淳の言葉は正論かもしれない。

しかし、それは秀紀の求める答えでは無かった。惨めでも、貧しくても、譲れないものが心の中にある。

「惨めでも何でも、それが俺の人生だ!」



秀紀は堂々とそう言い切った。

しっかりと胸を張って、譲れないものを誇るように。

「俺は人間だから、人間くさいドキュメンタリーを撮ってやるさ!」



「お前も人間なのに、どうして人の気持ちが分からない?」

人の情とか、気持ちとか、そういった言葉に出来ないもの、それでいて後回しに出来ないものを、

秀紀は心の中に大切にしまっていた。淳には持ち得ない、金にはならないけれど人生を豊かにするものを。

「こいつ以上に俺を愛してくれる人も、俺が愛している人も、世界中どこにもいないんだよ!」










お金はあっても、いつも孤独を抱えていた。

しかし彼に出会ってから、大切なものに気づき、与えられ、そして育んできた。

彼と居られるなら、どんなに貧しくても、惨めでも、頑張って来れたのだ‥。





そんな秀紀の言葉を、淳と遠藤は口をあんぐりと開けて聞いていたが、

やがて秀紀は咳払いを一つすると、もう一度淳に交渉した。

「とにかく俺が代わりに全責任を取るから、修くんのことは今回だけ許してやってほしい‥。な?」



そう言って、秀紀と遠藤は淳の反応を窺った。

黙り込んだ淳をじっと見つめている。



淳は暫し沈黙した。

外面からは分からないが、内面では天変地異が起こっていた。

淳の核深く根づいていた指標が、ボロボロと音を立てて崩れゆくようだった。



心の中の海は決壊し、岸に建っていた標は朽ち果てる。

淳は今まで抑えていたものが、信じていたものが、脆くも崩れ去るのを感じた。

「‥兄さん」



低く静かな声で、かつての標の名を呼ぶ。ぐっと、握りしめた拳に力が入っていく。

「一体‥」



そして遠藤と秀紀は、予想だにしなかったものを見ることになる。

声を張り上げ、動揺し、そして怒りに身を震わせる青田淳の姿を。

「一体どうしてそんな風になっちゃったんだよ!!」



目を丸くする秀紀と遠藤の目の前で、

今まで本音を語ったことのない彼の、人生初の吐露が始まった。

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<崩れゆく指標>でした。

皆さん、気づいてました?

以前就活相談で雪が凹んだ時、ケーキを食べに連れて行ってあげた先輩が雪に「笑顔忘れずにね」と言いますよね。

そして幼い秀樹が淳に処世術として「常に笑顔を絶やさないことだ」と言いますよね。あれ、全く同じ台詞なんですね‥!

韓国語で「ウッゴダニョ」!両者とも同じ台詞です。

 

そう考えると、あの就活相談の時の「ウッゴダニョ」は、

「そうすれば全部上手く行くよ」っていう先輩なりのアドバイスだったんだなぁと今さら気づいて‥。鳥肌でした。


そして秀紀兄さんの台詞「他人の気持ちが分からず、ただ仕返しをするだけで!

理解できなければすぐに見下すんだ、知ろうともせずに!お前も人間なのに、なぜ人の気持ちが分からない?」


というのはすごく青田淳という人間を端的に表した台詞ですね。淳本人は気づいているのかそうでないのかよく分かりませんが、

読者は思わずうんうんと頷いてしまう場面です。

そして今まで本音を晒したことのない彼が、見せかけを脱ぎ去って本性を表します。

というところで次回、

<彼の本性>へ~(^^)/

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