
振り上げられた瓶は、亮と淳に向かって勢い良く投げられた。
「ぎゃっ!」

淳は咄嗟にかわすも、亮は避けきれず顔面に命中した。
瞠目する淳と鼻を押さえて唸る亮に向かって、その男は声を荒げる。
「あんた達何なんだ?!男二人で女連れ込んでどうするつもりだよ?!
警察呼ぶぞ?!早くその人離せ!」

淳は凄い剣幕で近付いてくるその男を警戒し、雪を手で庇った。
「ちょっと待って下さい、落ち着いて」

雪に向かって手を伸ばす男の手首を取り、「誤解があるようだけど‥」と淳は男をたしなめた。
その力の強さに、男は声を上げて怯む。
「何すんだよ!誰だよあんた!」

男のその台詞に、ブチ切れた亮が鼻を押さえて吠えた。
「誰だよは貴様だぁ!!


亮は「よくもオレ様の鼻を」と続けようとしたのだが、男はそれ以上に声を張り上げてこう主張する。
「俺はそいつ‥赤山雪の弟だよ!」

「「ええ??」」

声を合わせながら、思わず二人は目を丸くした。
よく事態は飲み込めないままだが、”弟”は雪に向かって手を伸ばす。
「姉ちゃん何やってんの!しっかりしてよ!」

姉ちゃん姉ちゃんと何度も”弟”は雪のことを呼び、身体を揺らした。
するとようやく目を開けた雪が、ぼんやりしながら彼の名を口にする。
「蓮‥?」 「ったく‥みっともねーなぁ」


雪の弟、赤山蓮は、尚も淳と亮のことを疑って睨みを利かす。
しかし当の雪はというと、口元を押さえて最悪な気分で呟いた。
「蓮‥私‥吐きそ‥」

それから一行はてんやわんやの大騒ぎだった。
顔を青くして口元を押さえた雪を中心に、男たちの声がこだまする。
「うわぁ!降ろして早く!」 「待って待って!」 「こらえろぉぉ!」

しかし一番大きな声を上げたのはやはり雪だった。切羽詰まったその叫びは、エコーをかけて響き渡る。
「吐くぅぅぅぅ!!」


‥というところで目が覚めた。
夢だったのだろうか? というかここはどこ? 私は誰‥?

モゾモゾと動いてみると、頭が鈍器で殴られたようにガンガンと痛んだ。
思わず雪は蹲る。

そしてぼんやりと視線を送った先に、見慣れない後ろ姿があった。
何やら小さな画面を見ては、肩を揺らして笑っている。

急激に意識が引き戻され、雪は頭が痛いのも忘れてガバッと起き上がった。
「あ‥あんた何やってんの?!」

しかし蓮は冷静だ。雪におはよーと挨拶すると、
「いや~昨日はマジウケたわ‥覚えてる?」と普段通りの口ぶりで話しかけた。

当然雪はパニックである。
「なんでここにいるの?!いつ来た?!学校は?!」と起きて早々弟を質問攻めだ。

それに対して蓮は淡々と答える。
昨日帰ってきたこと、大学は今夏休み期間であること。
しかし蓮は「まぁでも大学はしばらく休もうと思ってさ」と何とはなしに言った。
「休むって?」

蓮はテンパる雪の方を見ることもなく、相変わらず携帯でテレビを視聴しながら話を続けた。
「父さんも会社畳んだり新しい店オープンさせたり家がバタバタしてるのに、
長男がアメリカでのんびり留学してる場合じゃないっしょ」

その飄々とした態度に、雪が「そんな‥大丈夫なの?」と声を掛けるも、
蓮は「何がだいじょばないの?」とあっけらかんとしている。

お父さんたちは知ってるのかと雪が続けて質問すると、蓮は頷いた後、頬をさすった。
「殴られたけどね、父さんに。しかしこんなにまでしなくてもさぁ‥」

「じゃあ何も言わずに帰って来ちゃったわけ?」

蓮が頷く。
つまりは突然の帰国も大学を休学することも蓮の独断で、両親には事後報告だったということだ。
その証拠に彼の頬はまだ腫れていた。
「母さんに住所聞いて来てたのに、姉ちゃん昨日ずっと電話出てくんないしさー‥。
まーいーや。っつーわけで俺しばらくここで‥」

そう言って振り返った蓮が目にしたのは、世にも恐ろしい形相をした姉の姿だった。
「このぶあっっっかモンがぁぁぁぁぁぁ!!!」

蓮は思わず息を飲んだ。
そしてビシバシと姉の鉄槌が下る‥。
「イタッ!姉ちゃんちょ‥まって!そこ父さんに殴られたとこ!やめてよ!」

昼過ぎの住宅街に、暫し姉弟喧嘩の喧噪が響き渡ったのだった‥。
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<蓮の登場>でした。
ついに出てきましたね~赤山蓮!韓国語名ではホンジュン君ですね。
彼は小西恵と同い年(ただいま20歳)という設定です。
彼が現れることで物語も進んでいきますね~!先が楽しみです。
次回は<酒の代償>です。(^^;)
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