Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

三人で円卓を(3)

2013-12-26 01:00:00 | 雪3年2部(三人円卓~奉仕活動難航)
グイグイ酒を飲み干す雪と、そんな雪を見ながらゲラゲラ笑う亮‥。



酒も進んで三人三様の感情が揺れ、円卓はカオスに歪む。

そんな中淳は目に余る言動の亮に顔を顰め、ついに釘を刺した。

「軽はずみが過ぎるのは何年経っても変わらないな」



冷然とそう言葉を続ける淳を、亮は笑った。

「は?何でオレが変わんなきゃなんねーの?こういうのも悪かねぇ。姉貴の気分がちょっとは分かるぜ」

「わざわざ居座ってそんなことが言いたかったのか?」



淳の問いに、亮は首を横に振った。

「いや〜居座ってみるもんだ。みっともねー姿散々見せてもらうわ散々災難受けるわで‥」



収穫だったと言わんばかりに亮は口元を緩めた。

そんな彼に向かって、淳は淡々と言葉を返す。

「最後まで自分の非は認めないんだな」



二人の間にキリキリとした緊張の糸が張り詰められて行く。

強い眼力で亮が思いを口に出す。瞬きもしなかった。

「元々オレに非なんかねぇんだよ」



淳も亮の瞳を凝視し続けた。その攻撃を真っ直ぐに受け、真っ直ぐに切り返す。

「うん、だろうね。期待もしてなかったけど」



ギリギリまで引き絞られた一本の線の上を歩むような、そんな緊迫した二人の言い合いは続いた。

しかし淳が続けて口にした言葉に、亮は眼の色を変える。

「だから暴言吐かれた時だって一度たりとも言い返さなかったんだ。どうせお前はそこ止まりだから」

「んだと?!」



二人はそのまま睨み合った。

隣に座る雪は浴びるように酒を飲んでいる。鞄に仕舞っている携帯電話が震えているが、それに気づく由も無かった。



言い合いの末に、だんだんと亮はイラついて来ていた。

淳を睨むとずっと言ってやりたかった言葉へと繋げていく。

「おい、お前随分余裕ぶっこいてっけど、オレがテメーに手出せないとでも思ってるわけ?

出せねぇんじゃなくて出さねぇんだぞ?金とか無しで拳でタイマン勝負してみっか?」




亮の挑発を受けて、淳は呆れたように溜息を吐きながら、

「ああそうだな」と投げやりに言った。



亮は自分の凄みが効かない淳に調子を狂わせながらも、尚も話を続ける。今度は淳も応戦した。

「‥お前がスポーツ万能なのは知ってっけどケンカとなればまた話は別だぞ?もしオレが勝ったら大気圏から出てけよな」

「くだらないことばかり言うな。俺に何て答えて欲しい?マントルの底までめり込ませてやるとでも言えばいいか?」



その淳の台詞に亮は憤慨する。

「はぁ?!メンタル?!オレは英語講師だぞ?!オレのメンタルのどこがイカれてるっつーんだよ!」
  
「あー‥レベル合わせてやったと思ったらこれか‥」



二人の言い合いは堂々巡りの無限ループ、子供達の諍いにキリは無かった。

それでも尚食って掛かろうと亮が声を荒げると、隣の席で唸り声がした。



今まで呑んだくれ眠れる獅子の如く沈黙を守っていた雪が遂に動き出したのだ。

雪はバンッと大きな音を立ててテーブルに手をつくと、そのまま勢い良く立ち上がった。

「二人とも黙りやがれぇぇえええ!!

















‥時が止まった。

眠れる獅子の目覚めは二人のみならず、居酒屋に居る人々全員の動きを止めたのだった。

雪はゼェゼェと息を吐くと、大きく吸って声を上げた。

「うるさい!うるさい!うるさい!!」



淳が雪の名を呼ぼうとするも、彼女の勢いに飲まれるばかりだ。

雪はビシッと二人に向かって指を向けると、怒涛の如く喋り出した。

「あんたら本っ当ムカつくわ!!力自慢とか小学生か!ガキくさい!!」



「しかもあんた!メンタルじゃなくてマントルじゃアホンダラァ!」

ガビーン!

 

雪の物言いに亮の頭にタライが落ちた(ような気がした)。

普段大人しい彼女の変貌っぷりに、二人は唖然とするしかなかった。



雪は赤ら顔で青筋を立てながら、尚もクドクドと管を巻く。

「私はねぇあんたら二人とも前から気に食わなかったんだよ!何なのさ揃いも揃って!どういう神経してんだっつの!」



「片やいちいちスネてワケわかんないマネするわ、

片や事あるごとにメシおごれメシおごれって、私の名前は”メシオゴレ”じゃねーっつの!」




雪の愚痴に身に覚えのある二人は思わず白目だ。しかしそれは結構な図星を突いていて、二人は言い返せない。

そして雪は大きな声で「あんた!」と叫び淳を指さした。

雪はビクつく淳に近寄ると、その人差し指を彼の眉間に寄せて説教を始める。

「理由がありゃご飯おごりもするだろうがぁ。こんな風に突然現れてグチグチグチグチ‥。

てか何でいつもいきなり現れるの?お化けなの?私が心臓麻痺起こしたら責任取ってくれんの?」




至近距離で繰り広げられる畳み掛けるようなその説教は大迫力だ。

雪は続けて亮の方を指さすと、彼に向かって口を開いた。

「あんた何でそんなに無神経なの?!人を振り回すのがそんなに楽しい?」



亮は両手を広げながら、弁解するように「いやオレは‥ダメージヘアお前‥」と口ごもると、

それがまた雪の逆鱗に触れた。

「ダメージヘアダメージヘア‥誰がダメージヘアーじゃ!天然パーマじゃこるぁ!!



雪は自分の髪は”ちょっと髪が太めの天然パーマ”だと自称した。

「リピートアフタミー!」と亮に向かって強要し、口にしかける亮と静止する淳‥。



雪はそこまで言うとフラつきながら席に座った。

今度は頭を抱えながら嘆くように声を上げる。

「私は一体どうすればいいのよ~!二人に何があったっていうの~?

じっと聞いてるけど気になることだらけなんだからぁ~!二人の板挟みでどうすりゃいいのか‥。

脳みそ爆発しそうなんだよホントに!」




一息で嘆いたその言葉は、雪の本音だった。

それきり俯いた雪を、亮は静観し淳は声を掛ける。

「‥‥‥‥」                   「何が気になるの?」

  

彼に促され、雪は気になっていたことを口に出した。

「だから高校の時‥河村氏のお姉さんと先輩が‥」  「違うって!!」「ちがうっつーの!!」



再び声をシンクロして否定する二人に、雪はもう一度聞いてみようとした。

「じゃあなんで‥ヒック」



ふとしゃっくりが出た。雪は思わず口を押さえる。

そしてケロリとしたかと思うと、一言呟いた。

「あ‥飲み過ぎだ‥」



それきり雪は低く唸りながらゆっくりと倒れて行った。

その様子を見てドン引きする亮と、目を見開く淳。



居酒屋は突如倒れてた雪に騒然とし、彼女の名前を呼ぶ二人の声が店の外まで響き渡った。

これにて三人で囲んだ円卓の宴は幕を閉じ、夜は刻々と更けていく‥。



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<三人で円卓を(3)>でした。

これにて三者対面終了です~!面白かったですねぇ(^^)

日本語版の「大気圏」と「宇宙」のくだりは最高でしたね!本家版はちょっと違う台詞だったので、

記事はそっちメインで書いてみました。

しかし雪ちゃんの暴走面白いですね。本音は出さず嫌味と悪感情で言い合う淳と亮の後に、

超ぶっちゃけの本音をぶちまける雪ちゃんとのコントラストも見事です。アッパレ~

次回は<どちらの非>です。

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三人で円卓を(2)

2013-12-25 01:00:00 | 雪3年2部(三人円卓~奉仕活動難航)


超ド級美人の河村亮の姉。

その美貌を思い出してムクレていた雪の方を、気がつけば先輩がじっと見ていた。



俯いた雪に向かって口を開く。

「ずっと連絡待ってたんだよ」



雪はタジタジしながら、「思ったより遅くなって‥」と返した。

しかし心に引っかかるものがあって、唇を尖らせながら思わずこぼす。

「‥でもこっちから連絡しなければ、ずっと待ってるつもりだったんですか?」



雪も連絡しなかったので人のことは言えないが、つい不満が口を突いて出た。

しかし淳はケロリとしながら、「雪ちゃんの言うとおりにしたんだよ」と上向きながら言う。



表情を変えぬまま、「君は俺の言うとおりにはしてくれないけどね」と、雪の不満に対してサラリと切り返した。



河村亮と関わるな、といつか彼が言っていた台詞が蘇るが、従順に守ってもいられない理由が雪にはあった。

「その‥色々借りがあって‥人として恩返しはしないと‥」



若干しどろもどろな雪だが、淳は「恩返し?」と要点を拾って聞き返した。

雪はさらに取り留めのない説明をする。

「えっと‥最近嫌なことが起きて‥塾で横山の問題もあったし‥」



すると”横山”の名前に淳は反応し、幾分険しい表情をして雪に近づいた。

「どういうこと? 何で俺に言わなかったの?」



そう詰め寄る淳に、雪が慌てながら弁解する。

言おうとしたけれど、レポートの件でタイミングを逃してしまったのだと。



二人は顔を見合わせた後、再び湧いて出てきたレポートの件を思い出して白けた空気になった。思わず出た溜息が重なる。

「と、とにかく!」



雪がその雰囲気を打破すべく口を開く。

「こちらの河‥いえ、こちらの方に色々助けてもらって」



さてここから暫し、どっちつかずの天秤が揺れる。

亮のことを他人行儀に”こちらの方”と言ったことで亮がピクッと反応し、



慌てて”河村氏”と言い直すと今度は淳が眉を顰めて反応する。



丁寧に言っても親しみを持たせても、どっちに転んでもどちらかが反応するのだ。

「じゃあなんて呼べばいいってんですか!」



イラつきのあまり雪が憤慨して、どっちつかずの天秤を投げる。

声を荒げた雪に便乗するように、今まで静観していた亮も思わず声を上げて立ち上がる。

「あーもうくっそイラつく!!メール見たの見てねぇだのチマチマめんどくせーな!

もう別れちまえ別れちまえ!何だよお前らの会話!百分討論かっつーの!!」




その色気もへったくれもない二人の会話に、辟易した亮は言葉を続ける。

「本物の恋愛ってのは、”会えば嬉しくてチュチュチュ”だろーがよ!

はぁ~もう別れろ!別れちまえ!」




亮の語る恋愛論を前に、思わず淳は白目&雪は呑んだくれである。

そう言う亮も溜息を吐きながら、「飲まなきゃやってらんねー」と淳のグラスに酒を注いだ。



勢い良く酒をこぼしながら、亮は幾分淳に絡むような語り口で話を続ける。

「お前ね~、連絡が遅かろーが早かろーが昔はどうでもよかったくせに、

何でこんな風になっちゃったんだ~?」




ニヤニヤと笑いながら言葉を掛ける亮に、淳は呆れたように溜息を吐く。

しかし続けられた亮の話に、淳と雪はハッとして目を見開いた。

「そうだ思い出したこいつな、高校ん時彼女が途切れなかったんだぜ。

そのくせ無関心であいつら全員散々泣かせてたよな~ヒドイ男だね~」




亮は調子に乗って続けた。リズミカルに、そして楽しそうに。

「飽きたらポイ、休み終わったらポイ、完全無情なポイポイ王子!」



それまで平然と振舞っていた淳も、幾分慌てて亮を制止しようとするが、既に雪はダメージを受けて顔面蒼白である。

淳が怒りを込めた様子で亮を見据える。

「亮、いい加減にしろよ。誇張しすぎだ。むしろお前だろ?それは」



そんな淳の視線にも怯まず、ニヤつきながら亮は言葉を続ける。

「見てるこっちが焦れったいから言うんだよ!淳みたいな奴と恋愛するなら色々知っとかなきゃなぁ?

そーだろ?」




実は淳の言う”むしろお前だろ”というのは図星だった(少なくとも半分は当たっているらしい)のだが、

亮はそんな彼の言葉は無視して雪に向かって話を続けた。

「初めて会った時も言ったけど、まず見た目が可愛い子じゃなきゃダメだろ?

並じゃダメな、並じゃ」


 

ガーンと雪の頭にタライが当たる。(ような気がした)

「だからそれはお前の話‥」とツッコミを入れる淳だが、

亮は素知らぬ顔で「オレがいつどこで何時何分何十秒?地球が何回回った時~?」とケラケラ笑いながら言葉を返す。



そんな二人のやり取りを聞きながら、雪の頭の中では”高校時代の青田淳サイドストーリー”が繰り広げられていた。

イケメン淳と釣り合う美女の枠に当てはまるのは‥。

「そ、それで先輩は‥」



続けられる言葉に息を飲むポイポイ王子‥。



雪の妄想が炸裂する。

「河村氏のお姉さんとも‥」 「違う!!」  「ちげーよ!!」



間髪入れずに二人は否定した。

そのリズムと同調は、ここに来て初めて息が合ったんじゃないかと思うほどだ。



そして三人は大騒ぎの果てにどんよりと肩を落とし、

結果雪の質問は「誰得?」な状態になったのだった‥。




そして「とにかく」と亮がその空気を打破すべく口を開く。

「淳のような奴と付き合う方法をオレが親切にもアダ‥アドゥ?

‥まぁ教えてやろうとしてるわけよ」




言葉に詰まった亮に「アドバイスな」と淳が冷静にツッコミを入れる。

それに構わず亮は「お前は見るからに恋愛経験なんてなさそうだし」と続けると、雪は思わずカッとなった。

「なっ!なくないですし!私だって高校時代彼氏いたんですよ!

超優しくて友達みんなに羨ましがられたし!」




ハッと気がついた時には、時既に遅し‥。

隣に座る先輩を窺うと、もう‥それはそれは見事な苦笑いを‥。



orz

実はその彼氏とはままごとレベルの付き合いしかしてなかったのだが、雪はそれを隠して酒を煽った。

そんな雪を見て、狂ったように笑う河村氏‥。



亮の笑い声が響く中、円卓はカオスに歪んで夜は更ける。

そして雪はまた酒を飲み干した‥。


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<三人で円卓を(2)>でした。

亮が言及していたのは「百分討論」という有名な討論番組だそうです。

http://www.imbc.com/broad/tv/culture/toron/

二人の会話がとても恋人同士のそれとは思えなかったんでしょうね(^^;)

そして「会えば嬉しくてチュチュチュ」はこの歌からの引用です↓

TV title ポポポ


今私が受講している韓国語講座にもこの歌出てきていました。「習ったとこが出てきた!」と嬉しかったです‥(*^^*)

有名な童謡なんですね!

しかし面白いですね~この回。そして一番のヒットは「ポイポイ王子」!

翻訳者さんの生み出したこの名前!(本家版の方にはそれらしき名前は全然出てきていないのです)

ピッタリでついつい笑ってしまいました。最高ですね~^^


次回は<三人で円卓を(3)>です。

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三人で円卓を(1)

2013-12-24 01:00:00 | 雪3年2部(三人円卓~奉仕活動難航)
ガヤガヤと騒がしい居酒屋の店内で、その円卓だけ時が止まっていた。

雪と亮は突然の淳の登場で、しばし呆然とする。



先に口を開いたのは雪だった。

冷や汗をタラタラとかきながら、彼に向かって質問をする。

「せ、先輩‥どうしてここに‥」



雪の問いに、淳は冷静に口を開いた。

「雪ちゃんの家の前で待ってたんだけど、なかなか帰ってこないから探しに来たんだ」



彼はメールを送ったのだと言うが、雪は携帯を鞄の中に入れっぱなしにしていたので気が付かなかった。

「でもどうして突然‥何かあったんですか?」



彼と会う約束は明日のはずだ。

雪は淳がいきなり現れた理由が飲み込めず、思わずそう質問した。

「何か?」



しかし逆に彼は聞き返した。真っ直ぐに彼女を見つめて。

「ないよ。何かないと会いに来ちゃいけない?」



ただ早く会いたかったのだと、彼は言った。

目を細めながら彼女の顔を見る。



あまりにもストレートにそんな台詞を言われ、雪は赤面した。

どういうリアクションを取ったら良いのか分からず、ただその場で固まるしかない。



そんな二人の世界を目の当たりにした亮は、青筋を浮かべて立ち上がった。

「んだよ!帰る!コイツと仲良くケツ並べてメシなんか食えるかっつーの!!」



そう言って背を向ける亮を見上げて、淳は声を掛けた。

「そうだな。こんなことしてる暇があったら働きにでも出たらどうだ?」



亮はそんな彼の言葉に顔を顰めるが、淳は悪びれない。

「優雅に遊んでる場合じゃないだろう」



バカにしたようなその言葉に、亮の中の何かが切れた。

感情のままに淳の胸ぐらを掴むと、凄まじい形相で詰め寄る。

「テメェ‥!誰のせいだと思って‥!」



正面から睨んだ淳の瞳の中に、怒りの炎が揺れているのを亮は見た。

激しい亮のそれとは違い、淳の怒りは静かである分恐ろしい。

冷淡な闇の中に仄暗く燃えるそれを見て、亮はそれ以上二の句を継がなかった。

  

隣で雪が「ケンカしないで」と言って慌てているのもあり、

亮は仕方なく胸ぐらを掴んでいた手を振り払う。

「なんだ止めちゃうんだ。つまらないな」



淳の発言に亮は「オレ様の手が汚れるからだ」と言って彼は憤慨したが、

続けて淳が「一発殴られてやってもよかったのに」と言ったことに対して疑問を持った。

「はぁ?」と目を丸くする亮に、淳は淡々と口を開く。



「慰謝料請求するけどね。なぜそう驚く?いつもお前がやってることだろう?」



淡々と因果応報を説く淳の言葉に、亮は再び憤慨した。

「な、何わけの分かんねぇこと言ってんだテメーは!オレがいつ‥」



みなまで言い終わらない内に、淳が冷然と続ける。

「金持ちやスキのありそうな人間にたかるの得意じゃなかった?

お前もお前の姉さんもそれが目的だっただろう、俺に対して」




その淳の言葉を聞いた亮は、幾分意外そうな顔をした。

そして次のターゲットは雪なのだろうと淳が言うと、亮は咄嗟に否定するもすぐに押し黙った。



当たらずといえども遠からず‥。

露骨に表情に出す亮に向かって、淳は静かに口を開く。

「少なくとも俺の目の届くとこでは止めて欲しいと頼んだのに、まるで聞き入れてくれないからね」



淳の言葉で、亮の脳裏にあの時の彼の台詞が浮かんだ。

これ以上俺の周りの人間に付きまとうなよ



亮は合点がいったという表情をすると、淳に向かって皮肉を込める。

「あ~そうだそうだ、偉大な淳様にお願いされたんだっけ。手を出すなってな」



繰り広げられる皮肉のやりとりに、空気がピリピリと張り詰めていく。

その険悪な雰囲気を、雪は固唾を呑んで見守っていた。

どうなってんの‥この二人‥



すると亮はニッと笑ったかと思うと、緊迫した空気を破るかのように大きな声を上げた。

「お~っと!ケツが勝手に椅子に!疲れたから少しここで休んでいかないとダメそうだな~!」



そう言って居座りを決めた亮を見て、淳が不敵な笑みを浮かべる。

「一杯どうだ」と淳は亮に酒を勧め、彼の挑戦を受けて立った。タイマン勝負である。



その観客である雪に、開始の合図とばかしに亮が酒を注ぐ。

「こんな席シラフでいられねーだろ?!お前も飲め!」




冷戦の始まりに、まず口火を切ったのは亮だった。

「あ、会長さんにプレゼントありがた~く頂きましたって伝えてくれよな?

いや~どんだけ遠慮してもよっぽどオレが可愛いみたいで~全く困った話だよなぁ?」




亮の皮肉に、淳も冷静に応戦する。

「ああ。親父お前のこと心配してるよ。また何かしでかすんじゃないかってね」



「顔見せに行けよ」「そんなんオレの勝手でしょ~?」


「ただでさえ静香の問題で頭抱えてるっていうのに」

「そんなんアイツの勝手でしょ~?」



雪は酒をグビグビと飲んだ。こうでもしないと正気でいられない。

互いに笑顔だが牽制しまくりな二人を前にして、雪は当惑した。

なんなのこの状況は‥!これが浮気がバレた人の心境なのか‥(浮気じゃないけど)

肩身狭すぎるでしょ!




雪は淳の横顔を窺いながら、その表情の真意が分かるような気がした。

あ~‥絶対怒ってる。あれは笑ってるようで笑ってない‥



変な笑顔を浮かべられるくらいなら、いっそブチ切れてほしい‥。

雪は彼の横顔を見ながら、笑顔の種類が把握できてきた自分を知るのだった‥。

  

空になったグラスを置いて、雪はふとあることが気になった。

この二人‥問題がある度にお姉さんの話が出るみたいだけど、先輩とどんな関係なんだろう?

先輩のお父さんも知ってる間柄で、多分高校も一緒で?




雪の脳裏に、いつか見た亮の姉の姿が浮かぶ。

それから超ド級の美人で‥



彼女の姿を思い浮かべた時、雪の心の中にモヤモヤとしたものが現れた。

その正体を自覚する前に、思わず顔がムッとなる。



三人の胸中は三人三様のまま、夜は更けていく。

囲んだ円卓はピリピリとした空気の中、会話は進んでいく‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<三人で円卓を(1)>でした。

ついに始まりました、第二回三者対面!

三人が同時に会話してるのは貴重ですね~。

本家版のニュアンスと日本語版の訳を混ぜつつ記事を書きますので、会話の内容も楽しんでいただけると嬉しいです。

そしてみなさま、メリクリで~す(^0^)♪

次回は<三人で円卓を(2)>です。

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これからのこと

2013-12-23 01:00:00 | 雪3年2部(雪淳喧嘩~亮の涙)


亮は彼女の傘の中で、涙を流していた。無情な雨が、心の中に降りしきる。

”こんなはずじゃなかったのに”が、彼の心の大部分を占めるだろうか?

順調にいっていれば、今先生と共にテレビに映っていたのは自分だったかもしれない。

過去の栄光が、脳裏にこびりついて離れない。



身軽なのが一番と、彼は適当な場所で適当な職に就き、適当なタイミングで居場所を変えた。

自由であるということは気楽だが、その代わりとしてその環境は彼をどんどん曖昧にした。

職業は? 家族は? 君の国籍は?


何一つしっかりとしたものが無いという事実。

その事実は亮の未来もまた、曖昧にした。



雨が降る。冷たい雨が。

亮の心から溢れた無常が、空を泣かせて雨が降る‥。









その雫を、彼は手を差し出して触っていた。指を伝い落ちるその雫は、彼の掌を冷たく濡らす。

青田淳は雪の家の軒下で、少し小降りになった雨を眺めていた。



もう随分長い間彼女の帰宅を待っているが、依然として彼女は帰ってこない。

携帯電話も通じず、淳はその場に立ち尽くしていた。



ふと足元を見ると、一匹のかたつむりがノロノロと歩いていた。

淳が足をかたつむりの方へ向けると、かたつむりは気配を察してその歩みを止める。



そして淳は暫しの間、かたつむりの行く先を眺めていた。

少し移動したり、身を屈めて見やったり‥。

  

容姿の際立った若い男性がそのような行動を取っていることは、幾分珍しいので人の目を引く。

淳が顔を上げると、家の前を通りがかった人達が彼の方をジロジロと見ていた。



居心地悪そうに頭を掻く彼。



それから淳は何度も腕時計を見やったり、空模様を眺めたりと漫然とした時間を過ごした。

ようやく雨は止み、厚い雲が風で流れていく‥。










雪と亮は、その後居酒屋へ移動し酒を飲んだ。

亮は何も言わず焼酎を煽り、不機嫌そうに料理をつまんでいる。

「あの‥さっき何で泣い‥」



おずおずと雪が切り出すと、亮は無言の視線を向けた。



凄い形相である。

思わず雪は下を向き、「何でもないです」と質問を取り下げた。

亮は雪の前にグラスを置くと、お前も飲めと酒を注ごうとする。

「弱いからちょっとずつ‥」と雪が口にすると、



「お前って勉強しか能ねぇんだな」と呆れたように亮は言った。雪は思わずムッとする。

亮は自分の言った台詞を少し考えた。”能力”という点だ。



とあることが気になり、雪に向かって質問した。

「もうすぐ終わりだろ?塾」



雪は「はい」と答えた。もう大学が始まるからだった。

「‥オレも辞めよっかな」



亮は、塾の仕事が自分に合わない気がすると言った。

その言葉に雪は、「それじゃあ他にやりたい仕事があるんですか?」と聞いたのだが、

亮は素っ気なく「さあな」と言っただけだった。

「お前はあんの?」



亮から向けられた問いに、雪は暫し天を仰いで考えてみた。

未来はとめどなく続いているが、ただとりとめもなく広かった。

「私は‥」



そう言って暫し考えた後、遠く広がる未来から自分の足元に視線をやる。

「河村氏の言うとおり、私は勉強しか能がないから‥。専攻分野で就職することになるでしょうね」

「経営だったっけ? じゃあどっかの企業とか?」



「はい、多分‥」

「どこ?」

亮からの質問に、雪は特定の企業の名前は出せなかった。

「企業と言っても沢山あるし、どこへ行くかは‥」と言葉を濁す。

「どっかに閉じこもって勉強するって意味じゃ全く同じだな。聞くだけでウンザリだぜ」



雪にしろ下宿で国試の勉強をしている仲間達にしろ、彼らの持つ地道さを前にするとゲンナリする。

安定を望むには不可避なその特性を、自分が持ち得ないその性質を。



それきり黙り込んだ亮を前にして、雪はもう一度彼に質問した。

「それじゃあ河村氏はここを辞めた後、どこへ行くんですか?」









自分が誰で、何を目指し、どこへ行くのか‥。


亮はそのまま黙り込んだ。

心の表面で考えたこれからの算段はあるが、それが本当に正しいのだろうか?


「オレは‥」




自分が誰で、何を目指し、どこへ行くのか。


‥誰と居たいのか。


地方から上京する時、あそこを出る理由となった言葉が脳裏をかすめる。

一人では死にたくない






亮は口を開こうとしたが、その続きを話すことは出来なかった。

目の前に現れた、予想外の人物のせいで。


「二人で何話してるの?」




俺も混ぜてよ、と言って彼は座った。


二人は目を丸くする。




不意に現れた青田淳が不敵に笑みを浮かべたところで、波乱の一夜が幕を開けた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<これからのこと>でした。

亮の心情の流れがすごく丁寧に描かれていますね。

現在の自分の曖昧さ加減を知り、過去の栄光との差に愕然とする‥。

先輩が現れなかったら二人はどんな会話をしたのかな~ 未だに気になってます。

次回は<三人で円卓を(1)>です。面白回の始まりです(^^)♪


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無情な雨

2013-12-22 01:00:00 | 雪3年2部(雪淳喧嘩~亮の涙)
亮が雪から指定された待ち合わせ場所で彼女を待っていると、不意に携帯電話が鳴った。メールが入っている。

授業が長引いていて10分くらい遅れます。すいません



亮はそのメールを見ながら呟いた。

「やっぱ奢りたくなくなって言ってんじゃねーだろーな?」



暫し訝しげな表情を浮かべていた亮だが、気がつけばポツポツと雨が降ってきている。

傘を持っていないのでアタフタしながら、とりあえず亮はコンビニで雨宿りをすることにした。



軒下に駆け込んだ亮は、建物の中を覗き込んだ。

傘を買うかどうか暫し迷ったが、雪が持ってるかもしれないと考えるとお金が勿体ない気がして止めた。
(しかし結局傘は売り切れだったので、亮の思案もそこまでとなった)



ぼんやりとガラス越しに中を覗いていた亮だったが、不意に聞き覚えのある声がしたような気がして、一、二歩後退した。

壁に掛かったテレビに目をやる。



そこに映っていた人物を見た時、心臓がドクンと跳ねた。

思わず目を見開き、亮は暫し呆然とする。



高校の時の、ピアノの恩師だった。

見覚えのあるその姿は、少し年を取ったが変わっていない。



テレビからは恩師とその弟子が司会者を交えて談笑する会話が聞こえてきた。

今回もC君の演奏に誰もが驚かされましたね。

先生との特別なご縁が、今回こうして世界に通用する人物を生んだのでしょう。


  

司会者はその先生に対して、C君への意見を求めた。

マイクを向けられた先生は笑顔を浮かべながら、誇らしそうに口を開く。

はい、彼こそが私の人生におけるたった一人の弟子ですね



プツッと、それを最後にテレビ画面は切り替わった。

突然の暗転。



それ以降、可愛らしいアイドルの映像が流れ続けたが、亮の耳には、その目には、一切が入って来なかった。

一人テレビを見上げたまま、その場に佇んだ。



頭の中で、様々な記憶が波のように打ち寄せる。

鼓膜の奥で、声が聴こえる。

亮、リハビリするんだろう? 先生は君を信じてるよ‥










雨が降る。無情な雨が。

空から落ちてくる幾筋もの雨。

心に引っかかっていた数々の思いの断片が、その雨のように降り注ぐ。


  河村亮




声が聴こえる。

自分を呼ぶ声が。自分に向けられた様々な人の声が。


お前これから何するの?  河村クンミュージシャンとみたぞん!

自分の体たらくを振り返った方がいいんじゃない?  




お前手イカれちまったんだっけ?    たった一人の弟子です




数々の言葉が、雨のように落ちては心の中に溜まっていく。

亮は激しい降りの中で、一歩も動けず立ち尽くしている‥。







一方雪はというと、ようやく授業が終わり外に出て来たところだった。

約束の時間は、もうとうに過ぎている。



雪は傘を差しながら、待ち合わせ場所の周辺を見回した。亮の姿は無い。

まさか何も言わず帰ったわけじゃあるまいと、キョロキョロと辺りを探した。

すると少し離れた場所に彼の姿を見つけた。ずぶ濡れで、傘も差さずに立ち尽くしている。



雪は声を掛けようと「あの、」と口を開いた。

しかしその時、見てしまった。




彼の頬に伝うものを。





亮はずぶ濡れだったが、その水滴は雨ではなかった。

心の中に溜まった万感の思いが溢れて流れ落ちた、それは涙だった。






ザアザアと、強い雨足が彼を濡らす。

雪はその場から動けぬまま、ただ彼の姿を目にしていた。




俯き、項垂れる彼。




彼の横顔を見ていた雪は、自然と足がそこへと吸い寄せられた。

何も言わずに近づいて、彼に向かって傘を差し掛ける。




亮も、何も言わない。

彼女の傘の中で、涙を拭っただけだった。




ふと空を見上げると、黒い雲は陰り、低い雷鳴が聞こえている。

地面を叩く雨音の中で、その傘の中で、二人は長い間佇んでいた。




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<無情な雨>でした。

これは亮‥辛いでしょうね(T T)

そして日本語版で分かった事実、あの先生はおじさんだった‥。

「先生信じてるからな‥」



ピンクのカーディガン着てるからてっきりおばさんだと思っていたのに‥。



ということでおばさん説もいまいち捨てきれず、記事ではどちらかぼかしました(笑)

有名なピアニストだったんですかね~


次回は<これからのこと>です。

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