今回は、手持ちのレーザーディスクの中から、ウオルト・ディズニー(1901-1966)によるアニメーション映画と、ミュージカル映画を取り上げる。これらの映画のうち学校の団体鑑賞で見たものが幾つか含まれている筈だが、どれがそうだったか記憶は定かでない。
(1)「白雪姫」
所有している「白雪姫」のスペシャル・コレクション版のLDは、LD3枚組による映画と付録映像のほか、付録映像の翻訳、制作過程に関する資料「ザ・メーキング・オブ・ザ・クラシック・フィルム」、劇場公開時のオリジナル・アートからなっている。なお、テクニカラーは3色分解して3本のモノクロフィルムに記録する方式で、退色の影響が少ない為 公開当時に近い色彩が今でも再現できるようである。
テクニカラーによる最初のカラー映画は、1932年に公開されたディズニーの短編アニメーション映画「森の朝」(花と木)であったが、当時のアニメーション映画は、メインの映画の添え物として同時上映される程度のものであったため、ディズニーは、興行的にもメインの映画となるべき長編アニメーション映画を製作することにした。まず、長編に相応しいストーリーをまとめあげ、登場人物の性格付けを行い、感情を持った人間のような微妙な動きを試行錯誤しながら生み出そうとし、多くのスタッフとともに費用と時間をかけて「白雪姫」を作り上げて、1937年に公開した。当時、このようなアニメーション映画が製作されていたこと自体が驚きと言える。日本では戦争のため公開されたのは1950年になってからになる。主任ディレクターはデビッド・ハンド。音楽はフランク・チャーチル、リー・ハーリーン、ポール・スミスで、「私の願い」「ワン・ソング」「歌とほほえみと」「口笛吹いて働こう」「ハイホー」「ブラドル・アドル・アメ・ダム」「こびとたちのヨーデル」「いつか王子さまが」の歌が使われている。
(2)「ピノキオ、ダンボ、バンビ、シンデレラ、不思議の国のアリス、ピーターパン」
「白雪姫」が興行的に成功したことから、ディズニーは「ピノキオ」を1940年に公開、同じ年には「ファンタジア」を公開している。さらに1941年には「ダンボ」、1942年には「バンビ」を公開したが、興行成績は伸びなかったらしく、1950年に公開した「シンデレラ」によってようやく、「白雪姫」以来の興行成績をあげたという。その後、ディズニーは1951年に「ふしぎの国のアリス」を、1952年に「ピーターパン」を公開している。このうち、「ふしぎの国のアリス」は、ルイス・キャロルによる児童向けのファンタジー小説を原作としているが、話の内容に特段の意味など無く、夢の中の取り留めもない話のようになっている。この物語は9歳の少女アリスに語っていたものが元になっているので、子供にも理解できるような話であり、ディズニーとしても、この物語を楽しい娯楽作品として提供した筈なのだが、教育的な筋書きを期待していた観客には評価されず、興行的には赤字が続いていたそうである。この映画のなかでは“非誕生日の歌”が特に面白い。誕生日を祝って貰えなくなった大人たちも、たまにはビール片手に“なんでもない日、バンザイ”と叫んでみたらどうだろう。ひょっとして、猫の化けた三日月が空に懸かっていたりして。
(3)「ファンタジア」
所有している「ファンタジア」のスペシャル・コレクション版は、LD2枚(3面)の映画のほかに、映画のVHS版のものと舞台裏についてのVHSがある。このほか。音楽を収められているCDが2枚。さらに解説編があり、オリジナルのリトグラフがある。
ディズニーは、ポール・デュカの交響詩「魔法使いの弟子」をもとにしたアニメーション映画を製作することとし、フィラデルフィア管弦楽団の指揮者で映画を通じてクラシック音楽の普及を考えていたストコフスキーとも相談していた。試写会での結果は上々であったが、短編映画としては費用が掛かり過ぎ、公開しても費用が回収出来ない事が分かったため、「魔法使いの弟子」を含む複数の曲による演奏会の形をとった長編アニメーション映画とすることになった。これが「ファンタジア」で、1940年に公開されている。この映画は、音楽を聴いて心に浮かんだことを映像化することによって、音楽と映像の一体化を目指す新しい芸術作品であったが、時代を先取りし過ぎていたこともあって、当時の観客からは支持されず、音楽評論家からは文化に対する犯罪とまで言われる始末であった。「ファンタジア」は、技術的には最先端のものを使用していた。当時はまだテープ録音が存在せず、SPレコードによる短時間録音しかなかったので、映画フィルムの光学録音サウンドトラックを用いて9チャネルの録音を行い、映写機9台を同期させて再生する方式をとっていた。この方式は複数のスピーカーを必要とするため場所が限られてはいたが、世界最初のサラウンド方式であった。ディズニーはワイドスクリーンも考えていたようだが、劇場側に設備が必要なため諦めてもいる。
「ファンタジア」は、ストコフスキー指揮によるフィラデルフィア管弦楽団の演奏によるもので、最初の曲はバッハの「トッカータとフーガ二短調」になっている。この曲には、ドイツの前衛映画作家フィッシンガーによる、動き回る曲線や図形などの映像が付けられている。この曲には具象的な映像が付けにくいので、抽象的映像が付けられと思われる。2番目の曲は、チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」の中から選んだ、「金平糖の踊り」「中国の踊り」「葦笛の踊り」「アラビアの踊り」「ロシアの踊り」「花のワルツ」の6曲で、バレエに代わるアニメーションがそれなりに面白い。3番目はポール・デュカの「魔法使い弟子」で、ディズニーと作曲家が相談しながら作ったような、一体感のある仕上がりになっており、採算を度外視すれば、この短編だけでも高い評価を得られただろう。なお、魔法使いの弟子を演じるミッキー・マウスは、この作品から目を大きくするなど姿かたちを変えている。次の曲はストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」で、映像は地球の始まりから恐竜の時代までの歴史を描いたアニメーションになっている。この映像に付ける音楽としては「春の祭典」がふさわしいとも言えるが、一般の人にとっては、「ファンタジア」が無ければ、20世紀を代表する曲の一つである「春の祭典」を聴く機会は無かったかも知れない。次はベートーヴェンの交響曲第6番「田園」で、ディズニーは神々の住むオリンポスの山の情景に変えてアニメーション化している。その次は、ポンキエルリの「時の踊り」で、ディズニーは、ダチョウ、カバ、ゾウ、ワニによるコミカルなアニメーションにしたが、本来はオペラ「ラ・ジョコンダ」の中のバレエ音楽なので違和感がないでもない。映画はさらに、ムソルグスキーの「禿山の一夜」からシューベルトの「アヴェマリア」へと続き、絵を描いた複数のガラス板を並べたマルチプレーン・カメラにより撮影されたワンカット・ワンショットの映像により終りを迎える。「ファンタジア」は目で見る音楽、耳で聴く映像という新しい娯楽作品でもあったが、視覚による情報量が聴覚による情報量を遥かに凌ぐので、音楽の比重が下がるのは仕方ない事なのだろう。
(4)「メリー・ポピンズ」
この作品は、アニメーションと実写を組み合わせたミュージカル映画で、1964年に公開されている。製作はウォルト・ディズニー、監督はロバート・スティーヴンスン、東風に乗って子供達のところにやってくる乳母のメリー・ポピンズをジュリー・アンドリュースが演じている。作詞作曲はシャーマン兄弟。どれか一曲選ぶとしたら、「2ペンスを鳩に」はどうだろう。子供たちが小遣いの2ペンスで鳩の餌を買おうとしたところ、父親が銀行に預けろと言いだし、そして、ついに銀行の取り付け騒ぎにまで発展し、それから、・・・・・・・。