タイトルが思い浮かばなかったのでそのまんまで。
11月22日は良い夫婦の日!
というわけでゼルガディスさん視点のガウリナです。アメリアはアニメ風。
※描写はありませんが、ちょいえっちい事を連想させる話なのでご注意くださいませ。そして短いです。
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いまどき、露天風呂付きの宿というのは珍しい。
リナとアメリアが、この街に来たのならどうしても、と言い張って引かなかった為に泊る事にしたこの宿は、ちょっとした街の観光スポットにもなっているらしい。
ガウリイの旦那と二人で足を踏み入れた浴場は、確かに広々としていて清潔そうだった。これなら、宿泊代が相場より高いのも頷ける。
……とはいえ、あまり人前に素肌を晒したくない俺としては、他の客がやってくる前にさっさとこんな所からは出ていきたい。
「痛っ」
一足先に湯に浸かったガウリイが、小さく声を上げて顔を顰めた。おおざっぱに頭の上で纏められた彼の長い金髪が、さらりとひと房湯に落ちて来る。
「……どうした旦那」
「いや、ちょっと背中の傷にしみてなあ」
苦笑いしたガウリイは、確かめるように自分の背中に手を回した。
「今朝のレッサーデーモンか? 酷いようなら後で治癒の呪文でも…」
かけてやろうか、と続けようとした俺の言葉を遮って、ガウリイは笑って手を振った。
「ああ、違う違う。これは良いんだ、別に」
「はあ?」
言っている意味が分からず、片眉を上げる。だが、彼はそれ以上傷について何も言わなかった。
――別に、旦那が何も言わないのなら、こちらもそれ以上何か聞くつもりはない。
黙って、俺は風呂に身を沈めた。ゆっくりと硬く冷えた皮膚を温めてくれる湯が、心地よい。たまにはこういうのも良いかもしれない。
「今頃、リナ達も向こうで湯に入ってるんだろうな」
ちら、と女湯の方へと目をやって、ガウリイが呟く。その言葉に、そういえば風呂に入る前にリナ達が言っていた事を思い出した。
「その前に名産品の石鹸を買うとか言っていたぞ?」
「石鹸?」
「肌が綺麗になるんだそうだ」
観光地によくある、効果がきちんとあるのか無いのか分からない名産品である。アメリアはともかくとして、基本的に金の使い方に厳しいリナがそういうものを買おうとするとは、少し意外だった。
「……へええ」
あまり興味の無さそうな返事を返してきたガウリイは、小さく欠伸をしながら、小さく呟く。
「そんなもの、必要無いと思うけどなあ……」
――……それは、リナに対する言葉か? それとも、アメリアも含めて二人の事か?
頭に浮かんだ問いを、俺は言葉にすることなく飲みこんだ。
しばらくしてから、ガウリイは身体を洗うためにゆっくりと湯からあがった。その背中に何気なく目をやって。
俺はそこにある『傷』を見た。
爪で引っ掻いたような、赤い痕が数か所。――これは確かに、湯でしみそうである。
それにしてもこれは……。
俺の視線に気づいたのか、ガウリイは振り返り、ちらりと笑って見せた。その笑みに含まれた、ある種の余裕。
「……」
***
「あ、もう出て来たの。ガウリイはまだ中? お湯どうだった?」
浴場から一人出て来た俺を見て、リナが目を細めた。隣で、アメリアが小さく手を振ってくる。二人の両手には、買ったばかりと思しき石鹸が握りしめられている。風呂場で早速使うつもりだろうか。
「旦那はまだしばらく入ってるそうだ……湯は、悪くは無かった」
頷いてみせると、アメリアが嬉しそうにリナに抱きついた。
「あー、楽しみですねーリナさんっ! 早く行きましょっ」
はしゃいだ様子で、リナから手を離したアメリアはそのまま早足に浴場まで向かって行ってしまう。
「ちょっとアメリアー、慌てて転ばないでよー?」
「リナさん早く早くー!」
急かされて、リナもアメリアの方へと足を向ける。そんな彼女に、俺は小さく声をかけた。
「リナ」
「ん、何?」
振り返った彼女に、俺は少し意地の悪い笑みを浮かべて見せる。
「……爪は、こまめに切った方が良いぞ」
「は?」
きょとんとした彼女に、俺は小さく肩を竦めた。どうやら言葉の意味は伝わらなかったらしい。それならそれで構わない。
「――いや、なんでもない」
「……? ヘンなゼル」
そのまま俺に背を向けて歩き出したリナの後ろ姿を眺めながら、俺は小さく笑った。
――まったく、あの男は。
人の良さそうな顔をして、見せつけてくれる。
とはいえ、そんな旅の連れの事が、俺はそんなに嫌いではないのだった。
おしまい。
11月22日は良い夫婦の日!
というわけでゼルガディスさん視点のガウリナです。アメリアはアニメ風。
※描写はありませんが、ちょいえっちい事を連想させる話なのでご注意くださいませ。そして短いです。
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いまどき、露天風呂付きの宿というのは珍しい。
リナとアメリアが、この街に来たのならどうしても、と言い張って引かなかった為に泊る事にしたこの宿は、ちょっとした街の観光スポットにもなっているらしい。
ガウリイの旦那と二人で足を踏み入れた浴場は、確かに広々としていて清潔そうだった。これなら、宿泊代が相場より高いのも頷ける。
……とはいえ、あまり人前に素肌を晒したくない俺としては、他の客がやってくる前にさっさとこんな所からは出ていきたい。
「痛っ」
一足先に湯に浸かったガウリイが、小さく声を上げて顔を顰めた。おおざっぱに頭の上で纏められた彼の長い金髪が、さらりとひと房湯に落ちて来る。
「……どうした旦那」
「いや、ちょっと背中の傷にしみてなあ」
苦笑いしたガウリイは、確かめるように自分の背中に手を回した。
「今朝のレッサーデーモンか? 酷いようなら後で治癒の呪文でも…」
かけてやろうか、と続けようとした俺の言葉を遮って、ガウリイは笑って手を振った。
「ああ、違う違う。これは良いんだ、別に」
「はあ?」
言っている意味が分からず、片眉を上げる。だが、彼はそれ以上傷について何も言わなかった。
――別に、旦那が何も言わないのなら、こちらもそれ以上何か聞くつもりはない。
黙って、俺は風呂に身を沈めた。ゆっくりと硬く冷えた皮膚を温めてくれる湯が、心地よい。たまにはこういうのも良いかもしれない。
「今頃、リナ達も向こうで湯に入ってるんだろうな」
ちら、と女湯の方へと目をやって、ガウリイが呟く。その言葉に、そういえば風呂に入る前にリナ達が言っていた事を思い出した。
「その前に名産品の石鹸を買うとか言っていたぞ?」
「石鹸?」
「肌が綺麗になるんだそうだ」
観光地によくある、効果がきちんとあるのか無いのか分からない名産品である。アメリアはともかくとして、基本的に金の使い方に厳しいリナがそういうものを買おうとするとは、少し意外だった。
「……へええ」
あまり興味の無さそうな返事を返してきたガウリイは、小さく欠伸をしながら、小さく呟く。
「そんなもの、必要無いと思うけどなあ……」
――……それは、リナに対する言葉か? それとも、アメリアも含めて二人の事か?
頭に浮かんだ問いを、俺は言葉にすることなく飲みこんだ。
しばらくしてから、ガウリイは身体を洗うためにゆっくりと湯からあがった。その背中に何気なく目をやって。
俺はそこにある『傷』を見た。
爪で引っ掻いたような、赤い痕が数か所。――これは確かに、湯でしみそうである。
それにしてもこれは……。
俺の視線に気づいたのか、ガウリイは振り返り、ちらりと笑って見せた。その笑みに含まれた、ある種の余裕。
「……」
***
「あ、もう出て来たの。ガウリイはまだ中? お湯どうだった?」
浴場から一人出て来た俺を見て、リナが目を細めた。隣で、アメリアが小さく手を振ってくる。二人の両手には、買ったばかりと思しき石鹸が握りしめられている。風呂場で早速使うつもりだろうか。
「旦那はまだしばらく入ってるそうだ……湯は、悪くは無かった」
頷いてみせると、アメリアが嬉しそうにリナに抱きついた。
「あー、楽しみですねーリナさんっ! 早く行きましょっ」
はしゃいだ様子で、リナから手を離したアメリアはそのまま早足に浴場まで向かって行ってしまう。
「ちょっとアメリアー、慌てて転ばないでよー?」
「リナさん早く早くー!」
急かされて、リナもアメリアの方へと足を向ける。そんな彼女に、俺は小さく声をかけた。
「リナ」
「ん、何?」
振り返った彼女に、俺は少し意地の悪い笑みを浮かべて見せる。
「……爪は、こまめに切った方が良いぞ」
「は?」
きょとんとした彼女に、俺は小さく肩を竦めた。どうやら言葉の意味は伝わらなかったらしい。それならそれで構わない。
「――いや、なんでもない」
「……? ヘンなゼル」
そのまま俺に背を向けて歩き出したリナの後ろ姿を眺めながら、俺は小さく笑った。
――まったく、あの男は。
人の良さそうな顔をして、見せつけてくれる。
とはいえ、そんな旅の連れの事が、俺はそんなに嫌いではないのだった。
おしまい。
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