まい、ガーデン

しなしなと日々の暮らしを楽しんで・・・

『強父論』

2017-04-06 12:27:26 | 

  作者は阿川佐和子さん。強父とはもちろん「阿川弘之」氏のこと。

私、阿川さんのことはテレビで見るわりには好きなのかはたまたそうでもないのか、自分でもよくつかめない。
テレビや何かに出てくる公の人にはたいてい好き嫌いがはっきりしているのにね、変。
サワコサンは、玉ねぎかラッキョウのように剥いても剥いてもなんだか芯が掴めない人だね、と勝手に決めつけているからかしら。

書名の「強父論」はたぶん「恐怖論」の意味合いもあると思う。

サワコサンは父上のことを

自らの性格が温和とほど遠い分外ではなるべく我慢する。
極力おおらかな人間になって、「阿川さんはいい人ですね、立派な方ですね」とほめられたい気持ちが人一倍強い。
そのため少しばかり努力する。いきり立つ感情を抑える。
爆発するまい、癇癪を起こすまいと、自らを制し続け、我慢を重ねた末、家に帰りついたとたん、
ちょっとした火種、すなわち家族が無神経な言葉を発したり、気に入らない態度を示したりしたとたん、たちまち大噴火を起こす。
だから怒鳴られる側にとっては「唐突」の印象が強くなる。
思えば阿川家の歴史は、その繰り返しだったような気がする。

と書いてらっしゃる。もう私だったらたまらん、我慢の限界を超える、恨む、捻くれてやる。
サワコサン、よくグレないで素敵な女性に育っていったと感心するやら呆れるやら。

なにしろ「誰のおかげで飯が食えてるんだ」とおっしゃる父上のもとで育っていってるんだからね。
グレる方がふつうだ。

 *ハクモクレン

恐怖、いや強父の父上エピソード数々の中から『恐怖の誕生日』にまつわるあれこれ。

生クリームの話
誕生日の食事の後のデザートで、サワコサンはイチゴを牛乳のいちごミルクじゃなくて、
どこかで見た生クリームがあまりにおいしそうだったので「生クリームを付けて食べたい」って言ったんですって。
それを聞いた父上の激高ぶり。「子供のくせになんと贅沢な」って、挙句の果てには母上に、お前の育て方が悪いから
こうなるんだ、ととんだとばっちりが。いやはや。

またあるときは

誕生日に家族そろって中華を食べた後、外に出たサワコサン開口一番「うわ、寒い!」のひと言。
さあそれを聞いた父上が途端に不機嫌になって。
「お父さん、ごちそうさまでした。おいしかったです」
と感謝するのが普通だと。そして帰りの車の中でもあまりにしつこく怒り続けるので、
たまりかねたお母さんが「もういいじゃありませんか」ととりなすややいなや、お前は佐和子の味方をするのかと。
「降りろ!」と途中で車を下されたとのこと。いやはや。
ことはまだ続く。サワコサン、家に帰ってから健気にも夜中に父上の部屋に謝りに行ったそうな。
父上は何を謝っているんだと(ここら辺はあいまい)。サワコサン、どう言えば許してもらえるか分かっているから、
「佐和子が悪かったこと」と答えたそうな。もう涙が出るわ。
いったい何が悪かったのだろうかと考えたが、やはりよく分からなかった。
ってうん、分からなくて当たり前だ。
サワコサン、このころから処世術がだんだん身についていったのね。

 *コブシ

佐和子さんが大学2年生のとき
末の弟1歳の誕生日、中華料理家に集合の約束だった。
遅刻してきた家族に向かい、座席の片隅に座り込んだままの格好で「ああ」と視線を向けた。
「なんだその態度は?」
左右の足でガンガン蹴り始めた。
何が何だかわからないうちに、私は蹴られたり叩かれたり。
いくら父とはいえど、それが大学生にもなった娘への、しかもなんの落ち度もない娘に対してとる態度か!
私はサワコサンになり代わって憤慨した。

「あとがき」は佐和子さんの心の奥深く根付いているものが垣間見えるような気がして。
佐和子さんが結婚しないのは、案外ここら辺にあるのではないかと勝手に憶測しているわけ。

「娘にとって父親の死って、あとでジワジワくるものなのよ」
そういうものかしらと、漠然と期待していたが、1周忌を目前にしてもまだ私の気持ちにジワジワこみ上げてくるものはない。
もう少し時間が経つと、くるのかもしれない。いや、私の場合は来ないような気もする。

本当のところはわからない。わからないけれど、とりあえずジワジワこないのは、まだ、父の怒声や怒り顔やイライラ顔や、
加えて父のドスンドスンと階段を上がってくる足音や咳払いや痰を吐く音などが、ふとした拍子、鮮明に蘇るからではないか。

 *コブシ

決して恨みがましくも声高でもなく、淡々と尚且つユーモア漂う筆致はさすがで、まことに面白くもあり微苦笑誘うもあり。
それにしても、亡き父上「阿川弘之」さんは、娘がご自分のことを書くのには何の文句も注文もなかったそうで。
不思議といえば不思議、父の娘に対する強い愛情がやや変わった態で伝わっていたと思えば納得もできて。
いつまでも印象に残る1冊となった。

 

 

コメント
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