電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『夜消える』を読む

2007年12月11日 06時58分41秒 | -藤沢周平
藤沢周平の本は、自分の手元に置きたいので、できるだけ自分で購入するようにしておりますが、これは珍しく図書館から借りて来た、文藝春秋社刊の短編集。いずれも昭和58年から平成2年ごろ、『週刊小説』『小説宝石』に掲載されたものだそうです。平成6年には文庫版も出ているそうですが、うっかり見落としてしまっていたようです。

表題作「夜消える」、酒びたりの厄介者の亭主・兼七は、娘の幸せをぶち壊しかねません。年寄りが若者を羨むのはいいけれど嫉妬すべきではないのと同様、兼七の失踪で購った娘の幸せを、母親が密かに憎んではいけませんね。自然主義文学ばりのリアルな描写です。
第2編「にがい再会」、はじめは善意であっても、小心者が用心深く再会するには、岡場所で暮らして来た女は住む世界が違い過ぎた。新之助は、懐かしさや感傷ではどうにもならないものがあると知っただけでも良かったというべきでしょう。
第3編「永代橋」、博奕に入れ上げ、病気の子どもを見殺しにした職人と女房の激しいいさかい。時を隔てて、まだやり直せないかと誘う男の身勝手さは相変わらずさ、という見方もできるかも。
第4編「踊る手」、絶望して食を絶った老婆に食事を届ける男の子。食べてくれないとしゃくりあげる男の子が不憫と、老婆は食べ始めます。ここはいい場面ですね。
第5編「消息」。失踪した亭主を探す女房と娘には、失踪の原因が皆目わかりませんでした。まさか、そんな事情だったとは。
第6編「初つばめ」。境遇の違い、でしょうか。弟のためにと働いてきたのに、弟は良い婿入り先をみつけたようです。岡場所上りの酒呑みの女は身内としては迷惑なのか。少し頼りないが、生真面目な滝蔵となら、いい組合せかもしれません。
第7編「遠ざかる声」。珍しい幽霊ものです。死んだ女房の幽霊が、後添い話をことごとく邪魔をします。しかし、良い話だと思ったとびきりの美人には裏がありました。身の回りの世話をしてくれるおまさは、自宅に青い鳥がいるんだよ、という謎だったのでしょうか。

第1編から第6編まで、いささか気の滅入るような話ばかりで、最後の、少々大人向けのユーモラスな佳編に、ほっと息をつく思いです。

そういえば、昭和58年から平成2年頃というと、MS-DOSの普及とパソコン通信の黎明期でした。雑誌も「ASCII」誌がまだ元気で、パソコン通信専門誌「Networker」が季刊で発行されていた頃です。故小渕官房長官が「平成」と書かれた年号を持って、報道のフラッシュを浴びていた姿が印象的です。その平成ももう20年、早いものです。

写真は、「夜消える」という表題にかけた、先日の披露宴会場の照明です。ちょいと藤沢周平ワールドとは縁遠いようですが…(^o^;)>poripori
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