電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

「没後10年、藤沢周平の魅力を語る」(4)

2007年12月21日 19時57分15秒 | -藤沢周平
去る12月9日に行われた、「没後10年、藤沢周平の魅力を語る」シンポジウムについては、先日12月19日(水)付けの山形新聞に、その内容が大きく掲載されました。さすがに報道と編集のプロだけあり、発言内容を過不足なく要約してまとめ、見開きの紙面におさめて掲載しており、読み応えがあります。ただし、同紙のホームページ(*1)を見ても、これだけ力を入れている藤沢周平の特集に関する項目が見当たりません。おそらく、後日単行本化されるものと考えていますが、さてどうでしょうか。

パネルディスカッションの最後に、コーディネータである寒河江浩二さん(*2)が、各パネリストにいくつかの質問をしました。これが面白かった。

Q:「家族愛」については?
蒲生さんが答えます。娘さんの本に、「普通が一番」普通の暮らしを守ることが一番大切なことと教えられた、とある。これは、長い不遇の冬の時代に関連している。他の作家と異なり、藤沢さんは業界紙生活を楽しかったと評価している。やはり妻の闘病生活と早過ぎた死をくいとめられない悔しさ、鬱屈があったのではないか。家族愛と普通の生活を守ることの大切さは、他の作家の剣豪がみな独身で、藤沢時代小説ではみな家族持ちである点にも現れている。

Q:「努力しても報われない人を描いているが?」
高橋さんが答えます。努力しても報われない社会である。そもそも報われることを求めていない。ある行動原理に基づいて、誠実に生きているだけではないか。与えられたことを懸命にやっているだけ。そういう人を描いているのでは。

Q:「爽やかな読後感」については?
中村さんが答えます。藤沢周平の世界では、人生の成功者はだれもいない。みな失敗者であって、痛みを感じるかどうかの違いだろう。主人公には、悪いことをする人や醜い人もいる。そんな中にも、どこかに良い点を残し、救いを求める。人を信じる心が、奥行きを持って人間を描くことに通じている。人間は矛盾を抱えつつも、変わり得る存在として描いている。食べるものを描くときも、高級食ではなく、庄内の普通の食べ物だった。

以上、どの発言も、たいへん共感し、納得できるものばかり。参加者の様子を見ると年配の人たちが多く、大人のシンポジウムの印象でした。

(*1):山形新聞ホームページ~やまがたニュースオンライン
(*2):山形新聞社編『藤沢周平が愛した風景』(祥伝社黄金文庫)の実質的執筆者です。同書は、庄内支局勤務だった平成9年に、庄内・海坂藩を訪ねる旅を連載し紹介した記事をもとにしています。
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