電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

「没後10年、藤沢周平の魅力を語る」(2)

2007年12月18日 06時37分55秒 | -藤沢周平
「没後10年、藤沢周平の魅力を語る」シンポジウム、後半はパネル・ディスカッションです。パネリストは、作家の高橋義夫さん、早稲田大学名誉教授で文体論の中村明さん、宮城学院大学名誉教授で藤沢周平と同級生だった、蒲生芳郎さんの三名、コーディネーターは、山形新聞取締役編集局長の寒河江浩二さんです。

蒲生芳郎さんは、少年時代の濫読体験の共通性から、一緒に同人雑誌を作ることになった、山形師範学校での学生時代の話をしました。藤沢周平さんは、あの頃の小説はむやみに面白かったなあと語りながら、しかし同人雑誌に寄せたのは、エドガー・アラン・ポーの評伝だったり四編の詩だったりした。藤沢時代小説の原点は、「面白さ=エンターテインメント性」と「詩」だ、と指摘します。「砕氷船」「プレリュード」という同人雑誌にも詩を発表、その後も昭和51年に小説新潮に、昭和54年にも詩を発表、若い時代の四編を含めて計11編。時代小説作家である以前に詩人であったわけで、文藝としては両極にあるものを融合した、と指摘します。

中村明さんは文体論から、表現のあり方、どういう効果をもたらすかを新聞に連載しました。集英社国語辞典を編纂された、元国語学会の会長さんも、藤沢作品はほとんど全作品を読んでおり、読みごたえがある、と話しておられたとのこと。たしかに、主人公の視線で見ている風景・心理を、読者が追体験することができるように表現されている。また、「文四郎さんのお子が私の子で…」など、婉曲的ではあるがまっすぐな愛の表現、女性の芯の強さを表している、とのこと。

高橋義夫さんは、藤沢周平以後、豊かな表現が邪魔になると言われていた時代小説や推理小説の文章が変わってしまったと指摘。藤沢周平の文体は、昔の自然主義小説、近代ヨーロッパ文学に根ざす小説に近い。それまでにはなかった、空気や血の匂いなど、情景を皮膚感覚で描くように工夫している。正岡子規が提唱した写生や実感に通じ、農民文学がモダンな形で息を吹き返した進化形かとも感じる、と話します。

大部分は山形新聞の夕刊の連載記事ですでに取り上げられた内容が多いのですが、この後で、蒲生氏から、藤沢周平の学生時代に郷里に恋人がいた、という話が出ます。これはまた次回に。ただし、ちょいと野暮用で出かけますので、もしかすると明日は更新できないかもしれません。
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