風を紡いで

旅の記録と料理、暮らしの中で感じた事などを綴っています。自然の恵みに感謝しながら…。

海のふた

2006年09月14日 | アート(本 美術 映画 音楽etc)
よしもとばななさんの「海のふた」(中公文庫)。
娘が買った本ですが、娘より先に読んでしまった。
キッチン、つぐみ、サンクチュアリ、白河夜船、ハチ公の最後の恋人など結構読んでいた。
けれども、海のふたは今までにない人間的な温かさと深さが感じられた。
結婚し、出産も体験したばななさん。
母親になられて強さと優しさ、なにより大きな愛が作品に反映されているよう…。
親になって初めて理解できる、両親の深い愛や自分を育んでくれた故郷の自然と隣人たちへの思い…。
愛にあふれた作品「海のふた」。心が温かくなる作品だった。


海も山も人も廃れてしまった、ふるさと西伊豆の小さな町。
東京の美大を卒業した私(主人公の女の子・まり)は、大好きなかき氷屋を始める。
ささやかな夢とふるさとへの思いを胸に…。
親友の娘、はじめちゃんをひと夏預かることになった、と母に言われた私。
最初、迷惑がっていたが、はじめちゃんとかかわりあう中で、次第に友情を深めていく。
大切な人(祖母)を亡くして、悲しみにくれるはじめちゃん。
相続問題で醜い争いが渦巻く家から逃れさせるために私の実家に来たのだった。
はじめちゃんは、顔に火傷を持つ女の子なのだ。
まっすぐで繊細な魂を持つはじめちゃんと、ふるさとへの強い愛を持つまりちゃん…。
自分らしい生き方を探す二人の女の子たち
彼女たちから伝わる、未来を担う若者たちへのメッセージ…。
現代世相を浮き彫りにしながら、さりげなく根源的な問題に迫る小説。

収録されている挿絵二十六点は、版画家の名嘉睦稔(なかぼくねん)さんの作品
彩色が美しい挿絵が、小説をより味わい深くしている。