ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

夏のはじめとおわりの唄   多田智満子

2013-06-06 01:05:02 | Poem


はじめ


  子午線の上に旗が立つ
          五月
          五月
        愛を待つ


         光る鳩
キリキリ舞いするキリスト
  白い波止場に波が立つ
       夢が泡立つ
        風が立つ


  ふかくえぐれた波の跡
      まぶしい羽音
         散る鳩
  裸のマストに蜘蛛の巣
  そして孤独なママゴト
          五月
          五月
        愛を待つ



おわり

     
    首をかしげた港町
     クレーンまわり
     ひまわりまわり
まわりおえて枯れてしまい
   丘は火葬場のけむり
   海辺は工場のけむり
まじりあって消えてしまい
         ………
  遁走する船にむかって
屋上の子供たちは手旗信号


 いっせいにサイレン鳴り
 いちめんにコスモス揺れ
  幾千の眼がしばたたき
     そしてしずかに
  海は坂からずり落ちる


(詩集「薔薇宇宙」・1964年)より



詩のなかに「季節」が欲しいと切実に思うようになった。
間もなく夏の日々がやってくる。「愛を待つ」季節なのだろうか?
夏のおわりには、「海は坂からずり落ちる」のだろうか?


陽はおちてゆきながら
異国の空に朝を届けにゆく
円形の時間は几帳面に
アポロンの馬車の轍を描き続ける
短夜の闇にうなだれて
ひまわりが疲れた花首をさすっている夢をみた