現代詩文庫9 鮎川信夫詩集より。
『詩の難解性をめぐって(抄)』より、引用。
『何事も国民大衆を第一とする社会は、よい社会なのだろう。しかし、他に害を及ぼさない少数者の楽しみのことを考えてやれる社会は、さらによい社会と言えよう。現代詩がその一部において難解であり、虚無的退廃的にみえたとしても、それをしいて駆逐することによって、今日の社会が急に明るくなるともおもえない。われわれの社会が寛容さを少しも持たなかった戦争期においてかえって難解、虚無、退廃の詩がひとつもなかったという事実を、もっと深くかえりみるべきである。
詩人があつかう主題は、古今東西、どこの国でも、そんなに変わりがあるわけではない。愛情、建設、戦争反対はもちろん、どんな主題であっても、それはわれわれの感情生活の母胎となっている土地や家や仕事のなかから、自由に求められてきたし、これからもそうであろう。』
これは、1958年、敗戦から13年後に書かれたものである。
戦後の鮎川信夫には、戦死した友「森川義信」への深い思いがある。
「死んだ男」
こうして、改めて読んでいくと、「荒地詩人」の考えていたことは、そのまま今の時代に引き継がれるものであった。